Voice! 皇子は想いで生かされる。【前】
「リディア先生!」
中に人がいるのも確認せずに扉を強引に開く。
何かが壊れる音も聞こえた気がするが、オレの予想が間違いなら間違いで謝ればいいだけだ。
身体ごと体当たりするくらいの勢いで、転がり込んだオレの視界に入る刃の光を見る限りそんな事はなかったが。
「シルビィ!ダメだッ!」
そのままの勢いで刃を掲げた人物に身体をブツける。
よろめいて転倒する人物の結末を確認する間もなく剣を抜き・・・。
「チィッ!」
響く金属音。
全く気配の無い所からの斬撃。
それでも何故か対応出来ているオレ。
「ヤルね。」
「邪魔させてもらうって言っただろう?」
ラスロー王子の顔をしたヤツの笑み。
再びぶつかり合う刃。
「ボクばかりに気を取られてたら、後ろから刺されるよ?」
真後ろなのにしっかりと気配を感じた。
ムクリと起き上がった人物の。
「"オレのシルビィ"はそんな事はしない。」
信じている。
それもある。
だが、彼女から背後に襲われるのと、コイツから注意を逸らすのとの危険度の差を考えればな。
打ち合った剣をそのままに利き手ではない方の円盾で、剣の柄部分ごと真上に弾くと、そのまま弧を描いて天井に突き刺さる。
「あ゛ァァァァァーッ!」
背後で上がるシルビアの悲鳴。
オレがリディア先生のように魂を見る力があるのなら、今の彼女の魂がきっと震えているのがわかるだろう。
「シルビィ、頑張れ。あと少しで帰れるからな。」
オレは後ろは見ない。
それがオレが彼女に出来るコト。
信頼のカタチだから。
「偽善だね。」
汚物を見るかのようにオレを見下す視線。
「あぁ、だなッ!」
両手が空いた相手に、今度はオレから斬りかかる。
不用意な気もするが、、致し方あるまい。
もし何もないなら、これが致命傷だ。
「それでも、オレはそうしたいんでなッ!」
甲高い音がして、両手が空いていたはずのヤツがオレの剣を受け止める。
驚きはしない。
その手に握られているのが、"両刃の黒剣"でも。
「ハズレ。」
フッと掻き消える姿。
剣越しの感触も消える。
早い。
移動には時間がかかるんじゃ?!
「クッ。」
頭に閃くものがある。
真っ白な紙に黒い点があるような感覚。
そこに剣を向けると、すぐさま黒い剣閃が走る。
「短距離移動は、時間がかからないみたいだな。」
必要粒子の量とか自重とかが関係しているのだろう。
それよりもこの感覚。
この部屋に入ってからの初撃・背後にいたシルビアの動き
元々、気配を読むのは得意で、他より長けている感はあったが・・・。
瞬間移動まで。
小さくほんの微かだが、消える瞬間と現れる直前の気配がなんとなく把握出来る。
そこまで鋭い感覚なんて、人間が持てるのだろうか?
「剣の力か・・・。」
斬り合う相手の呟きが聞こえる。
ふと視界の端で剣を見ると、ほんのりと輝いているようにも見える。
オリエがオレの為に選んでくれた剣。
これが今のオレの知覚を更に広げてくれている?
新しい出会いが、またオレを生かしてくれる。
「じゃあ、コレは?」
再び掻き消える姿。
瞬間、頭の片隅で鳴る警告音。
「クソッ!」
その警告が与える場所へとオレは身体を向ける。
倒れているリディア先生の真正面!
オレがダメなら狙いは、他へとか舐めるにも程がある!
「届けッ!」
歪な笑いと一緒に突き出される剣先に向かって手を伸ばす。
剣を押し返す皮膚の弾力は一瞬で、それを突き破って最初はプツリ、そんな音。
その後にズブリという音とともにオレの手に吸い込まれていく剣先。
止まらない!
ディーンの剣の鋭さは、当然そんなモノ如きでは止まるなんて事はない。
そのままオレの手を貫いて・・・。
-ガキィィッ!-
部屋中に音が響いて、貫いた剣先が何かにぶつかって止まった。
「ェ・・・エメトの盾だとっ?!」
盾?
手の甲から突き出た剣先が右腕部分を覆った円盾で止まっている。
円盾の周囲では、一周ぐるりと円盾に刻み込まれていた古代文字が淡く光っていて・・・。
「こんなモノを何処で・・・。」
今までずっと余裕の笑みを浮かべ続けていたヤツの表情が歪む。
また命が救えた。
出会いの中で手に入れたモノで・・・。
それだけがオレの中に広がっていく。
「アタシの"アルム"から離れろォッ!!」
甲高い声の中で、二人の間を引き裂くように巨大な炎の柱が通過する。
今までに見た事のない火力。
でも、不思議とオレの広がった知覚は、警告音を全く鳴らさなかった。
だから、この声は"敵"ではないのだと。
それをオレはすぐさま理解した。
ようやくエメトとマヴェットの盾が起動。
さて、乱入してきたのはどなたでしょうかねぇ?




