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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Urge! 皇子の○○は奇跡を呼ぶ。【後】

「いや、この施設に入ってからか。本物のラスロー王子は何処だ?」

 オレの正体を知る事は可能かも知れない。

自分でもそこまで捻った設定を付けたつもりもない。

だが、林檎の件は違う。

その林檎の食べ方は、リッヒニドスのとある一族の食べ方だ。

だが、オリガさんは言った。

"オレの編み出した食べ方"だと。

そんな会話をしたのは、ただ一人。


"シルビア"だけだ。


しかし、オリガさんがそう言う前にラスロー王子は、その作法が当然かのように従った。

きっと"セルブにありもしない作法"に。

「だかが・・・林檎一個でな・・・。」

 ラスロー王子は・・・いや、偽王子は何一つ焦る事なく溜め息を一つつく。

「オマエは知らないだろうがな、林檎一個で始まる絆だってあるんだぜ?」

 何せ幸も不幸も呼ぶ奇跡の果実なんだからな。

睨み合うオレ達。

「・・・時間稼ぎか。シルビアは何処だ?」

 少なくともシルビアがオリガさんに接触したのはわかっている。

彼女は、コイツの下にいるとはいえ、傀儡になっている状態じゃないのはオレだって理解しているつもりだ。

「オマエがここを動かずにいるのは、そっちが本命だからだな?」

「やっぱり喰えないヤツだな、君は。」

 喰われても困るんだよ。

「本物は生きているんだろうな?ここで殺したら処理に困るもんな。」

 人質は通常、さっさと殺してあたかも生きているかのように交渉するのが、常套手段だ。

しかし、ここは広大だが半ば閉鎖空間だから。

もし殺したとして、処分先に困る。

発見されたら、逃げ場もなく追い詰められやすい。

相手が王子なら、尚更だ。

「どうかな?」

「いいや、オレがオマエの立場だったらそうする。そして実行部隊は少人数。」

 コイツとは絶対に馬が合わないがな。

「そういう事だから・・・。」

 オレはオリガさんの手を握る。

「じゃ、死ね。」

 オレはオリガさんの手を強く握り締めたまま、ヤツに剣を突き立てる。

「あはは。そんな簡単に死ねないよ。」

「だろうナァ・・・。」

 すぐさま飛び上がってオレから距離を取ったヤツの手の甲が妖しく光る。

マズイ。

ディーンの剣がないんじゃ、術は無効化出来ない。

後にはオリガさん。

「チッ。」

「なーんてねっ。」

 次の瞬間、ヤツの姿が、存在が揺らいで薄れていく。

「しまった!」

 移動系の術か!

一度シルビアで見た現象と同じだ。

攻撃のフリをしたのは、発動の時間を稼ぐ為か!

「オリガさん。」

 オレはすぐさま頭を切り替える。

「悪いけど、王子の件は後回しだ。」

 ヤツの目的。

動いている人間にシルビアもいて、前回はディーンの剣、夕食に招待されたのがオレ。

「すまないが、あに・・・じゃなくて、ヴァンハイトのシグルド皇子の所に行って、クロアートのアイシャ姫の護衛を!ヤツの狙いはわかってる。」

 神器だ。

理由はわからないが。

「大丈夫だね?」

「馬鹿にしないで。」

 うん、しっかりとした瞳だ。

強いんだな。

シルビアを失った時のオレとは大違いだ。

「て、コトで悪いが邪魔させてもらう。」

 既にほとんど透明になっていたヤツはニヤリと微笑む。

ディーンの剣が手元にないのが悔やまれる。

アレがあれば、多分この術にだって介入出来たはずだ。

「だからか・・・。」

 一々癪に障る。

「オリガさん、頼んだよ?」

「あなたは?」

 オレの行き先は決まっている。

今は神器を持っている兄上しかヤツに対応出来ない。

けれど、彼女を取り戻すはオレの役目だ。

それは譲れない。

「神器を持っている人間は、もう一人いる。」

 思考がどんどん冴えてくるのがわかる。

でもさ、それってオレは常にそういう状態に居続けろって事なのかも知れない。

「オリガさん。それじゃあ、"さよなら"。」

 オレはオリガさんの背中を軽く叩いて、目的地に向かって走り出した。

きっとこれで最後だ。

"トウマ・グランツ"でいるのは、これでお終い。

お人好しで美人に弱い一般下士官のオレはいなくなる。

誰からも期待されていない日陰者の第二皇子、アルム・ディス・ヴァンハイトだ。

走る足に力が籠る。

ぐんっと上がる速度。

目指すは・・・。

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