Urge! 皇子の○○は奇跡を呼ぶ。【前】
最近、皆さんのリアクションが少なくて、色々と測りづらいです・・・(泣)
・・・明らかにおかしい。
同時にオレは今までの自分が、どれだけ鈍っていたのか理解する。
今更になって、オレの脳内の警報が微かに聞こえる。
オレとの会話の最中に声をかけたオリガさんにラスロー王子が眉を微かに顰めさせたのが原因だ。
彼は、オレとの会話を邪魔されたと思ってる。
彼の事をよく知っているわけじゃないが、あれだけ全幅の信頼を置いてる。
それこそ、自分の身を守る武器ですら任せっきりにしてしまう彼が、こんなちょっとした事で不機嫌とまではいかないが、そのような反応をするだろうか?
切られた会話は、続行不可になるようなものでもない。
いや、決闘をするくらいだから、意外と短気なのかも知れない。
けれども。
彼女。
オリガさんは、そんな初歩的、それこそミリィがブチカマす失敗よりも初歩的な失敗をするような女性だっただろうか?
「今までの料理も美味しかったですから、楽しみですね。」
小さな違和感。
いや、そうとすらも呼べるものじゃないだろう。
こういう事もたまにある。
誰しも完璧じゃないし、失敗はあるものだ。
ただ、少し冷静さを取り戻しているオレの脳ミソはこう言ってるんだ。
"噛み合わない。"
そうだ。
この二人は、"何かが噛み合っていない"。
いいぞ、段々、オレの脳ミソは起きてきたみたいだ。
「今日はこちらです。」
オレと王子の視線をさして気にした様子もなく、そう述べたオリガさんは盆を持った二人の男を促し、それをオレ達の前に配膳させる。
そして、目配せした男達は、同時に蓋を上げる。
「これは・・・。」
ぽつりと呟かれた言葉は、どちらが先だったろう。
オレの目の前にぽつんと置かれているのは、一個の"林檎"
勿論、ラスロー王子の目の前にもオレと同じ物がある。
「トウマ様の出身のリッヒニドスは、林檎の名産地とお聞きしました。」
オレ達の疑問に答えが出す為に、男達を下がらせたオリガさんは淡々と説明を始める。
「我がセルブも林檎が収穫される地がございます。今回は味比べも兼ねまして、こういった趣向を用意致しました。」
「それは面白いな。」
王子はどうか知らないが、オレの疑問は"何一つ解消されてはいない。"
解消されない代わりに心臓がバクバクと鳴っている。
ゴクリと唾を飲む音が、大きく聞こえる。
林檎が美味そうだからではない。
目の前の林檎は、取れたてのまま。
そう、"皮も剥かれていない"のだ。
オレは、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
「食器の類いが他にないという事は、このまま齧るのかな?」
「その方が素材そのままの味と新鮮さで比較し易いかと。」
チラリとオレを見るオリガさんの視線が痛い。
これはアレか?
一般下士官如きなんぞ、コレで充分じゃあっ!とかいう事か?
・・・そんなワケはない。
確かに、セルブ・ヴァンハイト両国から林檎を取り寄せるというのは、砂漠地帯であるこの地では贅沢な趣向ではある。
だが・・・オレは恐る恐る林檎を手に取る。
ここでも林檎か・・・幸と呼ぶのか、不幸と呼ぶのか・・・だな。
「あ、林檎は下から齧って下さい。」
・・・下から?
思わず、林檎を握る手に力が入る。
この展開。
忘れようったって忘れるものか。
「それは・・・そういう作法なのですか?セルブの。」
渇いて張り付いた喉から出せたのはそれだけ。
それだけだ。
だが、それで充分だ。
ラスロー王子は、無言でオリガさんを見ている。
「えぇ、作法の一つですよ。」
にっこり微笑むオリガさん。
思えば、オレは彼女の微笑みを見る機会なんてあっただろうか?
睨まれる事はあったとしても。
彼女の微笑みは常にラスロー王子の為にあったはずだ。
そんなオリガさんを尻目に林檎を一齧りするラスロー王子。
「いやぁ、ラスロー王子でもそんな食べ方するんですねぇ。」
オレはつとめて自然に言った。
そのつもりだ。
「あぁ。オリガも言ったが、作法だからな。」
噛み合わない二人、オリガさんの微笑み、林檎の食べ方。
もう沢山だ。
お腹いっぱいだ。
「で、オリガさん。その作法の歴史は、どの辺りの発祥で?」
何かに祈って、天啓を待つ気分ってのはこんななのだろうか?
やがて、彼女が口を開く。
「"ヴァンハイトのアルム様"です。」
彼女の言葉が最後まで終わるか終わらないかの刹那、身体をラスロー王子とオリガさんの間にすべり込ませる。
彼女を背中に隠したまま、下げた剣を抜き放つ。
ありったけの殺意を籠めて剣先はラスロー王子へ。
「オマエ、誰だ?何時すり代わった?」
最初○○は林檎だったのですけれど、タイトルネタバレはどうかと。
というか、まさかの林檎がここまで引っ張るネタとは、カーライルも思うめぇw