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サボテンの花  作者: みるきー


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第24話 『惚れた弱み』

「みんなー!体育祭お疲れ様ー!」


「「「「お疲れー!」」」」


 松本さんの音頭を皮切りに、クラスメイト達が手に持った缶ジュースを掲げながら声をあげる。


 先ほど終了した体育祭の、簡単な後夜祭のようなものが行われていた。


「彗、ダンスは上手いこといったのか?」


「うん、咲のおかげでなんとかね」


「ううん、彗くんも練習頑張ったからだよ!」


「うちらも練習付き合った甲斐があったねー」


 ジュースを飲みながら、体育祭の感想を言い合う。


「そういえば、咲の部活対抗リレーもおもしろかったね。ドリブルしながら走るとは思わなかった」


「まぁあれは競技というより、余興みたいな感じだからね。ほんとはユニフォームを着てやろう、みたいな話もあったんだよ。恥ずかしいって断る人が多くて通らなかったけど」


 穂波さんと咲の会話を聞きながら、ちょっと見てみたかった気もするなと思ったが、すぐに思考を変えた。


「サッカー部はユニフォーム着てたね。暖大は出てなかったけど」


「あー、なんか『かっこいいとこ見せるぜ!』みたいなノリが強くて断った」


「意外だね。片山くんならそういうの乗っかりそうなのに」


「穂波の中で俺はそういう印象なのか…?」


 「うん」と真顔で答える穂波さんがおかしくて、みんな声を出して笑い合う。


 そうして、たまに声をかけてくれる他のクラスメイト達とも話をしながら過ごしていると、お開きの時間になった。


「なぁ、せっかくだし、みんな都合よければこの後飯でも食べに行かねぇ?」


「うちは大丈夫だよ。咲は?」


「うん、私も大丈夫!」


「彗は?」


 暖大の呼びかけとともに、3人の視線が僕の方に向く。


「…うん、大丈夫だよ。行こうか」


 正直疲れたので帰りたい気持ちもあったが、期待されているような眼差しを向けられると断ることも憚られる。


「よっしゃ!行こうぜ!」


「どこ行くー?」


「私はデザートあればどこでもいいよ!」


 楽しそうに行き先を相談している3人の後を追って、教室を出た。




「おや。いらっしゃい、彗くん。今日は随分と大人数だね」


「すみません、急に来ちゃって…」


「全然、構わないよ。案内するね」


 暖大と穂波さんが行ってみたい、ということで僕のバイト先のファミレスに来た。


 事前に連絡をしていなかったので、どうなるかと思ったが、古川さんは快く案内してくれた。


 そして案内された席に、四人で座るなり、咲が口にした。


「やっぱり、この席なんだね」


「古川さんの中ではもう決まってるんだろうね」


「なんだ?日野さんは前もここに来たことあるのか?」


「うん。彗くんに夏休み明けテストの勉強教えてもらった時にね」


「あー、あの時。うちも行けたらよかったんだけどなー」


 言いながら、穂波さんはメニューを開いて眺めていく。


 咲といい、どうして女の子は真っ先にデザートのページを見るんだろうか。


「なんで最初にデザート見てんだよ」


「分かってないなぁ、片山くん。デザートを決めてから食べるものを決めるんだよ」


「……わからん」


 珍しいことに、暖大の言葉には同意する他ない。


 楽しそうにデザートのページを見て盛り上がっている二人を尻目に、暖大と一緒にメニューを開いて、ご飯のページを確認していった。



「そういや、来年は俺たちが創作ダンスの衣装を作ったり、振り付けを考えないといけないんだよな」


 運ばれてきたハンバーグを頬張りながら、暖大が口にした。


「うん、そうだね。私達が楽できるのも今年までだね」


「うちと瀬川くんはこういうの苦手だから、他の人任せになるけどね」


「僕も含めるの?」


「違うの?」


「……違わないです」


 その言葉に、三人が笑った。なにがおかしいのか。


「まぁでも来年はクラス替えもあるしね。瀬川くんは多分進学クラスでしょ?」


「今のところはその予定だよ」


「うちもそう。咲と片山くんは? どうするの?」


「…全然決めてない」


「俺もだなー。進学するかどうかも決まってねぇ」


 暖大はあっけらかんと答えたが、咲は少し歯切れが悪かった。


 オープンキャンパスに行った時は頑張ると言っていたが、看護系のクラス選択もある。まだ悩んでいるんだろう。


「彗はもう進学先も決まってんのか?」


「いや、ハッキリとは。なにになりたいとかも正直まだわかんないしね」


「まぁそうだよなー。働いてる自分なんてまだ想像もつかねぇ」


 本当に、その通りだと思う。


 就きたい職業が決まればイメージも沸いてくるのかもしれないけれど、現状では何も見えてこない。


 すでに目標に向かって走り出している人もいる中で焦りのようなものは多少なりと感じるが、だからといってどうすることもできない。


「…穂波さんはもう進学先は決まってるの?」


「うち? 大学までは決めてないけど、小学校の先生になりたいから。その免許が取れるところかなー」


「へぇ、穂波は先生か。小学校ってところがなんかぽいな」


「そうかな? なんか楽しそうだし、いいなーって」


「私も初めて聞いた。遥香っぽくてなんかいいね」


「ありがとー」


 なんか楽しそう、というところが穂波さんらしいなと僕も思った。


 理由がなんであれ、先を見据えられていることは素直にすごいと、そう思う。


「……うん。やっぱり私も、大学進学のクラス選択にする!」


 咲が急に大きめの声で、宣言するかのように言葉にした。


 近くの席の人にまで聞こえてしまったようで、何人かがこちらを振り返る。


 それに気づいた本人は恥ずかしそうに「あっ…」と口に出ていた。


「ダメだよ咲。急に大声出しちゃ」


「うぅ〜…」


 穂波さんに嗜められた咲は少し縮こまっていて、なんだか小動物のようだ。


「ふふっ。で、急にどうしたの?」


「…うん。彗くんとオープンキャンパス行って、勉強頑張らないと、とは思ってたんだけど…。本気で頑張るなら、やっぱりそういう環境にいないとって」


 そう言う咲の目は、真っ直ぐに前を見つめていた。


 やっぱり、こうやって自分を律して奮い立たせることのできる彼女も、僕には本当に眩しく映る。


「それに、みんなと同じクラスで来年も過ごしたいしね」


 笑顔で付け足した咲と、目が合った。


 その意味がなんなのか、もう分かるような気がする。


 熱を帯びる頬を隠すように、目を逸らしてしまった。


「そんなこと言われたら、俺も頑張らないとじゃん…」


「片山くんは別に無理しなくてもいいんじゃない?」


「……初めて日野さんの言葉にヒヤッとさせられたんだけど」


「ふふっ、冗談だよ」


「…そりゃ良かった」


 その言葉にまたみんなで笑い合い、楽しく会話をしながら食事を進めた。



「いやぁー、食った食った。そろそろ帰るか」


 暖大の満足そうな声かけに、みんな了承する。


「じゃ、俺と穂波はこっちだな」


「うん。またね、咲、瀬川くん」


「うん、またねー!二人ともー!」


「お疲れ様。今日はありがとう」


 「こちらこそー」と言って二人は帰って行った。


「じゃ、僕たちも帰ろうか。送るよ」


「うん、いつもありがとう」


 二人で並んで歩き出す。左側に咲がいる風景にも、もう違和感を感じない。


「楽しかったね、体育祭」


「そうだね。咲のおかげで僕も楽しかったよ」


「そう言ってもらえると本当に嬉しいなぁ」


「…来年も、一緒に楽しめるといいね」


「うん!」


 咲が一緒なら、来年もきっと楽しめる。そう思う。


「あー、頑張ったご褒美に甘いもの食べに行きたいなー」


「…さっき食べてなかった?」


「それとこれとは別だよ。ファミレスのも美味しいけど、ちゃんとしたやつ!」


 正直、僕には何が違うのか分からないが、女の子の中では共通認識なのだろうか。


 そう思ったが口には出さず、無難に返す。


「例えば?」


「クレープとか、アイスとか。ケーキバイキングもいいなー」


 聞いているだけで胸焼けがしそうになる。


 甘いものを食べないわけではないが、バイキングとなると…。女の子は不思議だ。


 そんな会話を続けていると、咲の家に着いた。


 ファミレスからの距離が近いこともあるが、あっという間に感じた。


「彗くん、送ってくれてありがとね」


 いつも通りそう言葉にする咲に、「うん」と返す。


「…? 彗くん、どうしたの?」


 少し考え事をしていたのが伝わってしまったのか、覗き込むように僕の顔を見つめてくる。


「……よかったら、甘いもの、一緒に食べに行こうか」


「……え?」


「い、いや。食べたいって言ってたから。どうかなって」


 一瞬言葉に詰まってしまった。恥ずかしい。


「……いいの?」


「うん。僕から誘ってるんだし。咲が良ければだけど…」


「…嬉しい。行こっ!」


 驚いたような顔から眩しいほどの笑顔に変わる表情に、勇気を出して良かったと思える。


「…ふふっ。デートみたいだね」


「デッ…!?」


「慌ててる彗くんはレアだ」


 どうしたって、この子には勝てないんだろうなと思わされる。


 これが惚れた弱みってやつなんだろうか。


「…まぁ、そうだね。じゃあまた連絡取り合って決めようか」


「うん!ほんと、楽しみにしてるね!」


「…僕も、楽しみにしてる」


「へへっ。 じゃあまたね、彗くん。約束、絶対忘れないでね」


 おやすみなさい、と付け足して、咲は家に入っていった。


 扉が閉まるのをいつも通り確認して、帰路につく。


 デート、という言葉には驚いたが、男女で出かけるとなればそうなるか。


 二人で商店街に出かけた時は文化祭の準備という名目があったが、今回は違う。


 単純に、二人で予定を合わせて出かける。後付けできる理由はいくつか浮かんでくるが、どれもしっくりこない。


 僕が咲と一緒にいたかった。それだけで、いい気がした。

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