表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/25

鉛玉と魔法が飛び交う灰の空

今回が私の処女作になります。

拙い部分もありますが暖かい目で楽しんでいただけると幸いです。


 ――陛下の血は、とっくに消えている。そう言い聞かせても手袋の縫い目には、まだ焼き付いている気がした。

 

 重い軍靴の音が、石畳の広場に規則正しく響く。

 立ち上る硝煙が鼻腔をつき、視界の端では崩落した時計塔がくすぶっていた。

 灰色の空は低く垂れ込め、街全体を押し潰している。

「……第四魔導部隊、前へ。」 

 振り返らずに告げる。 

「レギウス共和国残党の拠点はこの区画だ。焼き払え」

 背後で詠唱が重なり始める。空気が震え、見えない圧が肌を刺した。魔力が励起し、静電気のような痺れが腕を走る。


 瓦礫の陰から、敵兵たちがこちらを見上げていた。顔に浮かんでいるのは怒りではない。理解できないものを見る目だ。


 昔の俺なら、この光景から目を背けた筈、だが今は違う。これはただの「盤面」だ。

 数を減らせば、誰かが生き残る。 

「掃討しろ。慈悲は不要だ。」

 短く言葉を区切る。

「――我らが亡き皇帝陛下に勝利を」

 

 次の瞬間、魔法の閃光が街区を白く塗り潰した。

 遅れて、悲鳴が空気を裂く。

 数歩先の敵兵が魔法陣を展開しようとした瞬間、俺は右手をわずかに振る。

 「雷魔法・雷獄(ライトヘル)」 

 指先から放たれた電撃が空気を裂いた。

 青白い光が敵兵の身体を包み込み、熱と電流が一瞬で肉体を焼き切る。

 次の瞬間には、そこにあったはずの“人”は消えていた。残された兵士たちの足が止まる。誰も動けない。ただ、俺を見る。――これが勇者に縋った国の末路だ。

  

 必要な範囲だけを焼き切る。

 味方を巻き込まず、脅威だけを消す。

 損耗は最小。戦果は最大。正しい。正しいはずだ。そうでなければ、あの日の選択が間違いになる。

 

「次は誰だ」

 視線を一巡させる。声に感情は乗らない。乗せてしまえば、手が止まる。

 迷いも感情も、もう必要ない。生き残るために、効率的に――恐怖を道具として使うだけだ。

 捕虜を一人、前に引きずり出させる。

「よく見ろ」 

 それだけ告げて、背を向ける。一人帰せばいい。恐怖は、命令より速く広がる。

 

 ふと、マントの裾に血が跳ねているのが見えた。  

「レミアに怒られるな。」 

 指を鳴らす。浄化の雷が布地を走り、乾いた血が黒い粉になって剥がれ落ちた。革手袋の縫い目に食い込んだ赤が、爪で擦ったように残る。

 微かに震える指先。どれだけ魔法を重ねても、網膜に焼き付いた「あの日」の血飛沫だけは、どうしても消えてくれない。


 レミアは匂いで気づく。何も言わず、俺の手首を探る。彼女の前でだけは、まだ人間でいたい。だから戦場では、それ以外になる。

 思い出すと、わずかに動きが遅れる。だから、すぐに切り離す。感情は動かない。動けば、また選べなくなる。

 

 いつからだろう…。仲間の死を、計算に入れられるようになったのは。

 灰色の空を見上げる。この空の向こうにあった、退屈で、平和で、青すぎる空を思い出す。


 ……確か、八年前。 

 剣の重さも、人を殺す感触も、魔法の理も、誰かを守る意味すら知らなかった頃の話だ。


 ――


 ――――――


「……あー、暑い」

 夏の終わりだというのに、日差しは容赦がない。窓から入るぬるい風が、汗ばんだ首元を撫でる。


「でさー、あの子マジかわいくね?」

 前の席の後藤マサキが振り返る。

「告白でもする気か? お前じゃ無理だろ」

 軽口を返すと、マサキは笑った。――いつもの、どうでもいい会話。

 放課後にラーメン寄って、帰ってゲームして、また明日。

 それが俺の日常だった。スマホのニュース欄に、どこかの国の紛争記事が流れる。

「戦争なんて、画面の中だけで十分だよな……」

 指先で画面を閉じる。硝煙の匂いが鼻腔を突いた気がした。

 俺とは関係の無い話だ。それより大事なのは、夏祭りに男だけで行く羽目になりそうなことの方だ。

 

 ――その数分後。

 自分が魔法と銃弾が飛び交う戦場に立つことになるなんて、想像すらしていなかった。平和だった日常は、音もなく崩れ落ちた。このときの俺は、まだ知らない。

  

 人を殺すよりも恐ろしいのは、それを正しいと信じられるようになることだと。

最初の一話を見ていただきありがとうございます。

まだ続きは未定ですが、出来るだけ毎週土曜日のこの時間帯に出していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ