鉛玉と魔法が飛び交う灰の空
今回が私の処女作になります。
拙い部分もありますが暖かい目で楽しんでいただけると幸いです。
――陛下の血は、とっくに消えている。そう言い聞かせても手袋の縫い目には、まだ焼き付いている気がした。
重い軍靴の音が、石畳の広場に規則正しく響く。
立ち上る硝煙が鼻腔をつき、視界の端では崩落した時計塔がくすぶっていた。
灰色の空は低く垂れ込め、街全体を押し潰している。
「……第四魔導部隊、前へ。」
振り返らずに告げる。
「レギウス共和国残党の拠点はこの区画だ。焼き払え」
背後で詠唱が重なり始める。空気が震え、見えない圧が肌を刺した。魔力が励起し、静電気のような痺れが腕を走る。
瓦礫の陰から、敵兵たちがこちらを見上げていた。顔に浮かんでいるのは怒りではない。理解できないものを見る目だ。
昔の俺なら、この光景から目を背けた筈、だが今は違う。これはただの「盤面」だ。
数を減らせば、誰かが生き残る。
「掃討しろ。慈悲は不要だ。」
短く言葉を区切る。
「――我らが亡き皇帝陛下に勝利を」
次の瞬間、魔法の閃光が街区を白く塗り潰した。
遅れて、悲鳴が空気を裂く。
数歩先の敵兵が魔法陣を展開しようとした瞬間、俺は右手をわずかに振る。
「雷魔法・雷獄」
指先から放たれた電撃が空気を裂いた。
青白い光が敵兵の身体を包み込み、熱と電流が一瞬で肉体を焼き切る。
次の瞬間には、そこにあったはずの“人”は消えていた。残された兵士たちの足が止まる。誰も動けない。ただ、俺を見る。――これが勇者に縋った国の末路だ。
必要な範囲だけを焼き切る。
味方を巻き込まず、脅威だけを消す。
損耗は最小。戦果は最大。正しい。正しいはずだ。そうでなければ、あの日の選択が間違いになる。
「次は誰だ」
視線を一巡させる。声に感情は乗らない。乗せてしまえば、手が止まる。
迷いも感情も、もう必要ない。生き残るために、効率的に――恐怖を道具として使うだけだ。
捕虜を一人、前に引きずり出させる。
「よく見ろ」
それだけ告げて、背を向ける。一人帰せばいい。恐怖は、命令より速く広がる。
ふと、マントの裾に血が跳ねているのが見えた。
「レミアに怒られるな。」
指を鳴らす。浄化の雷が布地を走り、乾いた血が黒い粉になって剥がれ落ちた。革手袋の縫い目に食い込んだ赤が、爪で擦ったように残る。
微かに震える指先。どれだけ魔法を重ねても、網膜に焼き付いた「あの日」の血飛沫だけは、どうしても消えてくれない。
レミアは匂いで気づく。何も言わず、俺の手首を探る。彼女の前でだけは、まだ人間でいたい。だから戦場では、それ以外になる。
思い出すと、わずかに動きが遅れる。だから、すぐに切り離す。感情は動かない。動けば、また選べなくなる。
いつからだろう…。仲間の死を、計算に入れられるようになったのは。
灰色の空を見上げる。この空の向こうにあった、退屈で、平和で、青すぎる空を思い出す。
……確か、八年前。
剣の重さも、人を殺す感触も、魔法の理も、誰かを守る意味すら知らなかった頃の話だ。
――
――――――
「……あー、暑い」
夏の終わりだというのに、日差しは容赦がない。窓から入るぬるい風が、汗ばんだ首元を撫でる。
「でさー、あの子マジかわいくね?」
前の席の後藤マサキが振り返る。
「告白でもする気か? お前じゃ無理だろ」
軽口を返すと、マサキは笑った。――いつもの、どうでもいい会話。
放課後にラーメン寄って、帰ってゲームして、また明日。
それが俺の日常だった。スマホのニュース欄に、どこかの国の紛争記事が流れる。
「戦争なんて、画面の中だけで十分だよな……」
指先で画面を閉じる。硝煙の匂いが鼻腔を突いた気がした。
俺とは関係の無い話だ。それより大事なのは、夏祭りに男だけで行く羽目になりそうなことの方だ。
――その数分後。
自分が魔法と銃弾が飛び交う戦場に立つことになるなんて、想像すらしていなかった。平和だった日常は、音もなく崩れ落ちた。このときの俺は、まだ知らない。
人を殺すよりも恐ろしいのは、それを正しいと信じられるようになることだと。
最初の一話を見ていただきありがとうございます。
まだ続きは未定ですが、出来るだけ毎週土曜日のこの時間帯に出していきます。




