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第12話 座敷わらしとラブレター?

 英語のクラスメンバーで親睦会が行われた。浪人組でお店を確保したが、クラスの9割が参加した。酒は20歳になってから。今回は2名以外は飲まない。

 広い座敷で各々が改めての自己紹介。席はクジ引きで決めたのでランダムになったが、俺の隣は台本少女こと分目わんめさんだった。酒飲める組が飲むのを一部が羨ましそうに見つつ、同席で今まで話題にしていなかった話をすることになった。


「サークルどこか入った人いる?」

「俺はホーリーホック応援サークルに入った。今は個人応援フラッグ製作中だぜ」


 だろうね。


「分目さんは?」

「アルバイトが忙しいので、まだいいサークルないか探している途中です」

「俺も探しているけど、このままだと高校時代の友達がいるサークルに入ることになりそう」

「どんなサークルですか?」

「ボードゲームサークル」

「ボー……はぁ」


 台本では対応できなかったのか、わかりやすく思考停止する分目さん。

 かわりに水戸大好きマンが話に食いついてくる。


「ボードゲームって、将棋とか囲碁とか?」

「いや、そういうのじゃないんだよね。色々やってるみたいだけど」

「へぇ。まぁ、俺のサークルよりも小規模そうだな」


 そんなに多いのか、水戸サッカーファンは。


「うちのサークルメンバーは6人もいるからね」

「いや、ボードゲームサークルは20人以上いるけど……」

「まぁ、そういう比較方法なら多いかもね」


 よくわからん。他にどんな方法で比べるんだよ。


「ところで、分目さんのバイトって?」

「ケーキ屋さんですね」


 再起動した分目さんに店の場所を聞くと、あの『新装開店』のチラシのケーキ屋さんだった。


「へぇ。あそこ俺の家から近いんだよね。今度買いに行くよ」

「本当ですか、ありがとうございます」

「ケーキは分目さんも作るの?」

「まさか。うちは店長がフランス帰りのパティシエですから。店長と奥様の2人で作っているんですよ」

「あぁ、とすると売る人か」

「そうですね。あ、結構うちのケーキは高いので無理しないで下さいね。プリンでも1つ300円とかしますから」

「プ、プリンが1つ300円」


 ぷっちんするのが俺の中のプリンのイメージだったから、これは素直に驚いた。


「卵から拘ってますから。お砂糖も小麦粉も、全部自分で選んだって店長さんが言ってました」

「すごいな」


 どんなセレブなお客さんが通う店なんだ。


「この前開店のチラシが入ってたから、試しに買うならどれがいいかな。チラシ持って行けば安くなるんでしょ?」

「ならベイクドチーズケーキかな。チラシがあれば350円で1つ買えますから」

「ケーキでその値段ならプチ贅沢ですむかな。じゃあ今度行くよ」

「ぜひぜひ」


 1人で行くのはちょっと勇気がいるので、分目さんがシフトで入っている時に行くことにする。そんな話をしていると、


「仲良いな、2人。水戸のサポーター同士のようだ」

「もう少しわかりやすい例え方にしろ」


 少し顔を赤くして声が詰まった分目さんを横目に見つつ、台本がありそうな話題だけを振って分目さんのボロが出ないようにとかフォローを考えすぎたか、と少し反省する俺だった。


 ♢


「次は恋文ですね、恋文」

「縁ちゃん、ラブレターって言わないと伝わりませんよ」

「外来語ですか、やりますね結ちゃん!」


 2人で盛り上がっているが、俺は大絶賛呆れていた。最近は見た目が若くなってきたので(縁さんはもう女子高生から女子中学生くらいだ)お互いを元々のちゃん呼びに戻したらしい。


「気が早くない?彼女そこまで俺と仲良くないよ」

「いやいや、出会いは大切にしなくてはなりません。いつお見合いがあって相手の方が婚約してしまうかわかりませんし!」

「結ちゃん、最近はお見合いも少ないんですよ。『こんかつぱーてぃー』が主流なんですって」

「『こんかつぱーてぃー』?何ですかその油で揚げた豚さんみたいなのは?」

「何でも女性が『年収、年収』と唱えて、男性が『年齢、年齢』と唱えるパーティーみたいです」


 仕入れている情報が偏りすぎてないか。


「そして、女性は『年齢、年齢』の呪文に勝てないと『イキオクレー』や『オツボネサマー』となり、男性は『年収、年収』の呪文に勝てないと『ドッキョロウジン』になるんですって」

「どこからそんな話聞くの?」

「ご近所さんの井戸端会議、午前中はこのアパートの前でやっているんですよ」


 主婦の皆様の有閑倶楽部からの情報だったか。


「その情報、あまり鵜呑みにしない方がいいよ」

「そうですね。でもまぁ、面白いですよあの人たち」


 そんな話に、すっかり話の主題を忘れそうになる。


「とにかく、普通に連絡とりつつお店に一度行ければそれでいいから」

「バラの花束でも用意すれば一発ですよね」

「結ちゃんの言う通りです。バラの花束と恋文です!男は度胸!」


 恋愛脳か。


「たまたま不思議な縁があっただけじゃないか」

「いえいえ。私たちがいるのに、良縁以外が芳孝さんに訪れるわけがありません。絶対いい娘さんですよ」

「そうそう。もっと押せ押せでいくべきです!」

「縁ちゃんが言う通り、バラの花束を用意しましょう!」

「君たち、楽しんでるでしょ」


 一瞬、2人の目が泳ぐ。


「図星か」

「そ、そそそそんなことは」

「そそうですよ。人の恋路ほど面白いものはないですが、私たちは真剣ですよ」


 そろそろこの2人との接し方に慣れてきた気はする。『新しい何か』が好きなんだ。日々の繰り返しをとても大切にしているけれど、それはそれとして新しい出来事にも目を輝かせる。そして、その新しいことが俺の幸福に繋がることなら、より楽しそうになる。


「まぁ、何か持って行ったら台本がないからパニックおこしそうだし」

「確かに。とはいえ想定外をくり返した方が印象には残りそうですよね」


 まぁそうだろうけれど。それを望んでいるわけではないんだな。


「恋は戦争ですからね。押すなら全力ですよ!」

「まだ友達かも怪しいんだけれど、まぁいいか」


 2人でラブレターの文面を考え始めたのは止めた。季節の挨拶から入るラブレターなんて今時まずありえないぞ、多分。

出会いもまた縁。

そしてそれを繋ぐのが結。


それはそれとして、人のコイバナが楽しくなっちゃうのは仕方ないです。

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