彼女とふたり、いやす夢に
湿気ていて、滴を感じる。
汗? 暑いのだろうか? ……違うか。
暑いのなら、たまには顔を離したり身をよじったりするだろうから。
……泣いている、ということか。
彼女は何も言わない、ならば今は問うまい。
彼女の気が済むまで、ただ寄り添っておく。
そのほうが、きっと彼女は喜ぶだろうから。
そんな気がするから。
コアイは胸元で震えるスノウの頭に手をやり、目を向けている。
頭を下げても彼女の顔は見えない。その上の頭……艶やかな髪しか見えない。
これまでに見た、人間……いや、汎ゆる種族の髪、または体毛……そのどれよりも輝いて、手触りも滑らかな彼女の髪。
夕陽が僅かに彼女の髪に触れると、輝きを秘めた赤に変わる。
それだけではない。
これまでに触れた、汎ゆる髪や毛……そのどれよりも甘く、芳しい香りを放つ彼女の髪。
間近にしていると、それが柔らかく鼻をくすぐり華やいだ心地になる。
しかし今は、そんな心地に浸っているときではないとコアイは思い直す。
彼女は声も無く泣くほど、辛い心地なのだろう。
それを私だけ、知らぬ顔をして触れているなど。
それではいけない、悲しむ彼女を慰めなければ。
そう感じて、コアイはただ両手を、身体を添えていた。
彼女は暫く経ったのちも、微かに頭を震わせていた。
コアイは夕陽が落ち薄暮に沈んだベッドの上で、変わらず彼女を包みこんでいた。
やがて夜が来て、彼女の震えも止んだ……それでも、コアイは身動ぎ一つせずに彼女の身体を受け止めていた。
何時までそうしていたか定かではないが、コアイはふと……少し眠ってしまっていたような気がした。
とはいえ辺りは暗いままで、またスノウの身体の位置も全く変わりがなかったため特に問題はなかろうと……コアイは改めて彼女の温もりを確かめる。
彼女も眠って……彼女は眠り続けているのだろうか。
うなされずに眠っていられるなら、一先ずは安心できるか……
そう考えて、目を閉じた矢先に小さく聞こえた。
「ありがと……王サ……」
寝言だろうか。夜の静けさのなかで小さく、ただしはっきりとした存在感のある一言が、コアイへ届いていた。
少しだけ、彼女の頭に添えた手に力が入ってしまった。
彼女とは触れていない背中の側まで、あたたかかった。
そのせいで顔が緩んでしまう、それでいて手には力みがあることを自覚しながら……コアイは彼女に寄り添い続けた。
あたたかなひと時だった。それが程なくして、熱い夜に変わる。
まだこの時には、それと気付かなかった。
「んっ、む……」
低く呻くような声がした。
もちろん、寝室にはコアイとスノウしかいない。彼女の声にしては低くくぐもっているが、彼女が発したもので間違いない……
と、彼女は顔をコアイへ押し付けていた。同時に彼女の手がコアイの背に回り、強くしがみついてきた。
「おはよ……ってか夜か〜、起きちゃったね」
彼女から……身体の外から熱が染み込んで、同時に内から熱が熾る。
「ふふっ、あのさ……王サマって実はやさしいよね、ほんと好き」
これまでの様子は何処へやら、彼女は酒に酔ったときのように強く、引き寄せるようにコアイを抱き締めた。
「やさしいからさ……ごめん、もうちょっとだけやさしくさせて?」
しかしこの先は、普段の……泥酔した彼女とは違った様子。
ふわりとコアイから離れて、微笑みながら顔を見つめて、そうしてからもう一度コアイへ手を伸ばす……
潤んだ瞳でコアイを惹きつけて、ゆっくりと手を伸ばして項を捕らえて顔を近付ける。
コアイの心を捕らえる瞳が閉じられて、それと気付いた時には既に唇を寄せられていて……身体中に熱と痺れを伝わらせてくる。
脳裏は焦れ、視界はぼやけ、胸は暴れ、指先は蕩け。
彼女へ言葉を、心を返すように指を掛ける。
肩の辺りを掴んだようだが、どうでも良い。
彼女の身体に繋がれたのなら、それで良い。
その満足感を自覚し浸りながら、コアイは微かに離れた唇から呟いていた。
「優しく……?」
「うん、ごめん……大好きだから」
彼女がもう一度唇を寄せて全身で伸し掛かってきたのを、何も言えずに受け止めていた。
何も言えず、抗うこともできず。
昂りと炎が胸から離れて、身体中で暴れるから。
やがて彼女の手が伸びて触れて、いっそう身体が震えた……その後も、コアイは一抹の不安すら抱くことなく彼女の望むすべてを受け止めていた。
「……ごめんね、急に」
「……そ、そなたが元気になれたのなら……私はそれで良い」
「ふふっ……ほんと、やさしいなあ」
翌日の朝になって、先に目覚めたコアイは人を呼び朝食と風呂の用意をさせた。
そうしておいて、ベッドに戻りスノウが起きるのを待つ。
隣で、彼女が自然と目を覚ますのを待って……そののち、二人で朝食を取った。
「食べ終えたら、湯浴みに行こうか」
「朝風呂かあ、いいね〜」
「その後で、そなたに見せたい……渡したいものがある」




