13杯目~銀貨十七枚は身体で払います!~
初めましての人は初めまして。
リアルタイムでお読みになっている方はおばんでございます。
久しぶりの方はご無沙汰しています。
小説作成時BGM:【歌ってみた】ロキ / みきとP【天神子兎音cover】
「し、失礼します!」
上ずった声に固い表情。
新米冒険者ティエラはノックを数回したのち、自室とは真反対に位置する部屋の前に立っていた。
「……入れ」
中から曇った声で許可が降りた。
少女はゆっくりと扉を開ける。
「何の用だ」
「え、あっ、えっと! じ、実は! お願いがあり、参りました!」
「……言ってみろ」
「い、今! 私にはお金がありません! で、ですので、雑用でも何でもしますので、しばらくの間、待っていただけないでしょうか!? お、お金は必ず返しますので!」
「どういう意味だ?」
「ひゃっ! あっ、え、えっと……そ、その……」
少女は黙り込む。
目の前の彼が決して威圧している訳では無い事を頭は理解しているが、心が反応してしまうのだ。
「わ、私の借金が、銀貨十七枚という事を、聞きました」
「……そういうことか」
「で、ですが、今の私に、そんな大金は有りません。も、勿論、きちんとお返しするつもりです」
「気にするな。あれは俺が勝手にしたことだ」
「そういう訳にはいきません!」
力の籠もった声が廊下まで響き渡る。
隣で寝ていた住人はベットから落ちたのか、鈍い音と唸る声が彼らの部屋まで聞こえてきた。
「……今は真夜中だ。静かに話せ」
「す、すいませんっ……」
少女は林檎のように顔を赤くし、自分の口を手で塞いだ。
沈黙が二人の間を暫く往き来していたが、先に言葉を発したのは意外にも彼の方だった。
「分かった。お前からの返済、受け取る事とする。期限は俺がこの世を去るまでだ」
「ありがとうございます! では、明日からよろしくおねがいします!」
「……なに?」
「精一杯働きますので! よろしくおねがいします!」
「待て。それはどういう意味だ」
「あっ、もしかして今からですか? お部屋のお掃除とかでしょうか?」
「違う、そういう意味では無い」
「あ、そうですか……では、やっぱり明日からで……」
「話を聞け」
「は、はいっ……」
仮面の下から吐かれる溜息はどもっているせいか、普通に吐くよりも大きく聞こえる。
表情こそ見えないが、困惑している雰囲気は何となく伝わってきた。
「まず、確認だ。お前は俺から銀貨十七枚を借りている」
「はい!」
「返済の期限は俺が死ぬまでだ」
「そうです!」
「……なら、お前が次に俺の前に現れるのは返済する時だろう?」
「えっ!?」
「……なぜ驚く」
「さ、さっき、私が雑用をやる事、許可してくれましたよね?」
「いや、していないが……」
「そ、そんな!? ほ、本当ですか?」
「ここで嘘を吐く理由が無い」
「ドッキリ……とかでは?」
「そんな趣味は無い」
「そ、そうですか……ドッキリ……でも無いんですね……うぅ……」
少女は壁にもたれ掛かり、呪文のような独り言を唱える。
何を言っているのか理解できないが、楽しい事ではなさそうだ。
現に壁の向こう側の客が魘され、苦しそうな声を上げている。
このまま隣の客が朝方まで苦しむのはどうでも良いが、もう夜も更けている。今の時間動いている連中はこの街でもほんの一握りだ。
部屋から漏れ出る光で目を付けられても困る。
「……分かった、雑用を許可する」
「本当ですか!?」
「ただし、クエストの時だけだ。普段はいらん」
「分かりました! では、改めてよろしくおねがいします!」
「……よろしくたのむ」
少女は上機嫌で部屋を後にした。
廊下からステップを踏みながら歩く音と鼻歌、暫くしてドアの閉める音が聞こえた。
仮面の男は窓の外から月を眺め、少しばかり思考を張り巡らせた後、荷物をまとめ部屋を出る。
唸る木製の階段を降り、月明かりに照らされたロビーの真ん中で酒瓶を抱いて寝る女の横を通ろうとしたところ、不意にローブを掴まれた。
しかし、初めから予想していたのか、彼の反応は薄い。
「何の用だ」
「オリヘンさん、月が綺麗だね」
「……そうか」
「違う違う! 前に教えたのでしょ!」
空の酒瓶をテーブルの上に置き、立ち上がって抗議する受付嬢。
顔はほんのりと赤みを帯びているが、酒で赤いのか化粧で赤いのか分からない。
「月は元から綺麗だ……だったか」
「憶えているじゃん! そう! それ!」
「このやり取りに意味は有るのか?」
「ある!」
「……どういう意味なんだ?」
「え? 言葉通りの意味だよ?」
「……そうか」
「あ、でも! もし他の人から聞かれたら“太陽の方が綺麗だ”って返してね?」
「……憶えておく」
「よろしい! それで? これからお出かけ?」
「そうだ」
「こんな時間に?」
「……金が必要になった」
「へぇ……お金が必要に、ね」
含みのある表情を浮かべ、二階にそっと視線を移動させる。
彼の部屋と真反対に位置する……シャワー付きの部屋だ。
「なんだ?」
「いやいや、こっちの話。というかオリヘンさん、お金をいつもどっかに預けていたの?」
「あぁ、そうだ」
「そっかぁ、でも、この時間でも空いているってなると……」
「アルラウネの店だ」
「あぁ……あそこね」
「あの店は王国の機関より信用出来る」
「……そっか。まあ、夜も更けてるから気を付けてね。この時間帯、外を歩いているのは法外者か死霊、グールくらいだからさ」
「あぁ」
仮面の男は身を翻し、ギルドの建物から出て行った。
両開きの門扉が振り子時計のように何度も揺れ動き、静かなロビーに木の擦れる音を木霊させる。
「さて、私もそろそろ寝ようかなぁ」
小さな独り言に後押しされたように動き出し、酒瓶と肴の入っていた皿を厨房に返す。
主のいない厨房は思いの外不気味であり、受付嬢は早々に自室へと戻った。
「そっかぁ……ちょっと焚き付けてみたけど、あの子はそういう道を選んだんだぁ……私となんて違って……偉いなぁ」
可愛らしい部屋の装飾にそぐわない折れた長杖。
年季が入っており、色落ちが激しいが埃は被さっていない。
「私も……頑張れたのかなぁ。ねぇ、オリヘンさん……」
彼女はベットに潜りながら独り言を呟く。
瞼によって閉ざされた視界は暗闇の筈なのに……何故か過去の情景が五月雨式に浮かんでは消えていった。
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