6杯目~存在意義を探して~
初めましての人は初めまして。
一週間ぶりの方はこんばんは。
久しぶりの方はご無沙汰しています。
小説作成時BGM:I SAY YES(ゼロの使い魔2期OP)
「ご主人様! 今日の晩御飯が出来ました!」
胸部に二つのメロンを携えた犬耳少女が鍋をかき混ぜながら弾んだ声を出す。
「ありがとう……んっ、今日も美味しいよアリス。いつもありがとうね」
「いえ! これくらい何でもないです!」
「いや、毎日美味しい御飯が食べられるのもアリスのお陰だよ。本当にありがとね」
「え、えへへっ……」
黒系で統一されたラフな格好をした十七、十八くらいの少年が獣人族の娘の頭を優しく撫でる。
彼女は気付いていないだろうが、垂れ下がった犬耳と尻尾が振り切れる勢いで揺れ動いている。
「マスター、私も獲物討伐に貢献しました。なでなでを所望します」
「あぁ、そうだったね。クリオスもありがとうね」
「んっ……」
青色の髪に黄色い瞳が特徴的な少女は目を瞑りながら至福の時を過ごす。
彼女にとって、マスターと慕う少年との触れ合いは何者にも勝る宝物なのだ。
「ご主人様ご主人様! アリスももっとなでなでをお願いします!」
「アリス様、心配しなくてもマスターには手が二つあります。アリス様は左手、私は右手でどうでしょうか?」
「あ、そうだね! けど、さっきは右手でなでなでしてもらったけど、なんだか違った感じする!」
「どのように違うのですか……?」
「うーんとね〜右手はフワフワって感じで、左手はワシャワシャって感じかな!」
「それは僕が右利きだから、左手で撫でる力を調整出来なかっただけだよ?」
「本当ですか? アリス様、私はなでなでの交代を所望します」
「うん! 良いよぉ!」
「ありがとうございます。ではマスター、了承を得ましたので、私はそちら側に移動しm」
「良い加減に……しろぉぉぉお――!」
夜の森の中、周囲の動物を叩き起す勢いで声を上げる一人の少女。
緑色の髪に宝石のような両緑眼、尖った長い耳に神秘的な雰囲気を纏ったエルフの少女だ。
ただし、今この時は神秘的を通り越して悪魔か破壊神並みのオーラを纏っているが。
「どうしましたか? エルフ様」
「どうしましたか? じゃないわよ! 何が“なでなでをご所望します”よ! あんた、リュウタと初めて会った時になんて言ったか憶えてる!?」
「……はて、何のことでしょう?」
「とぼけるな人造人間! いい? あんたは“敵である貴方の奴隷になるくらいなら、いっそここで殺してください。でも、どうか忘れずに……私が死んでも、第二の私がまた貴方を殺しに……”ってどっかの魔王みたいな事言ってたでしょうが!」
「……ふぇっ?」
「な・に・キャ・ラ・よ! キャラ不安定過ぎるでしょうがぁ!」
「まぁまぁ落ち着いてよテノちゃん! ほら、テノちゃんもなでなでしてもらおう!」
「黙れ無駄乳! だいたい、あんたもこのホムンクルスに殺されそうになったの憶えてないの!? 脳みそに行くはずだった栄養は全部その無駄乳に行ったのかぁ!?」
「そんなこと無いよ―! 勿論アリスだって憶えているけど、クリオスちゃん、ちゃんと謝ってくれたよ?」
「謝って済むなら警察はいらないんだよ!」
「……ケイサツ?」
「テノ、少し落ち着いてよ。この世界に警察はいないよ?」
「あんたもあんたよリュウタ! 前世でどんだけビニールハウス暮らししてきたのよ! 普通、自分を殺そうとした奴を傍に置いておく!?」
「あはは、それ程でも」
「褒めてない! はぁ、これだからゆとり世代は……」
「あ、僕の時はとっくにゆとり世代終わっているよ?」
「甘ちゃんだって言ってるのよ!! 殺人鬼と一緒に旅なんて……はぁ……この世界に来て四百年になるけど……未だに慣れないわ……」
「四百年……エルフ様、元気を出してください。私はまだ作られてから四年しか経っていませんが、私は段々と慣れてきました。エルフ様もきっと慣れると思います。一緒に頑張って行きましょう」
「はぁ? あんた、喧嘩売ってるの? 風魔法で上空一万メートルから紐なしバンジーさせるわよ?」
「……イチマンメートル? ヒモナシバンジー? それはエルフ語ですか?」
「がぁぁ――! どうして通じないのよ! いいぃ? 上空からの紐なしバンジーって言うのはね……」
エルフの少女は細長いしなやかな指先を地面に向け、世界の理に干渉するべく言葉を紡ぐ。
「風の乙女シルフ 自由なるその生き様……」
「へぇ、テノの風魔法か」
「大丈夫だよご主人様! アリス、ヒモナシバンジー? っていうのはよく分からないけど! テノちゃんが仲間を傷付ける事は絶対無いから!」
獣人娘の根拠の無い力説が終わった頃、少年たちを囲っていた森の中に複数の魔法陣が錬成され、野太い驚きの声が四方八方から木霊した。
「舞い上がって示せ……ウィンド!」
突風が森の彼方此方で木々を薙ぎ倒し、幾つかの黒い物体を上空へ吹き飛ばす。
数にして八……いや、十を超える。
「あれは……野盗かな?」
「そうみたいです! 変な匂いがするとは思っていましたが、どうやら盗賊たちに囲まれていたみたいですご主人様!」
エルフの少女によって命綱無しのバンジーを果たした野盗たちは流れ星になって空から消えた。
落下地点が葉っぱの生い茂ったクッションだったのは不幸中の幸いだろう。
そもそも、このパーティーに挑んだ時点で不幸も幸も無いのだが……
「なるほど、あれがヒモナシバンジーという物なのですね。怖いのが半分、ワクワクが半分です」
「へぇ……なら、今度はあんたを流れ星にs」
「テノちゃぁぁぁん――!」
「ぐふっ!」
獣人娘のタックルを溝に受けたエルフは強制的に呼吸のリズムを崩される。
「テノちゃんすごい! どうしてピンポイントで野盗たちの場所分かったの!?」
「んぅ――!」
「アリスもね! 敵の数だけなら把握出来たんだけど場所までは分からなかったよ!」
「ん――! ん――! んぅ――!」
「やっぱりエルフは音だけで分かっちゃうの!? それとも森の精霊たちが……」
「アリス様、そろそろ離れないとエルフ様が死んじゃいます」
「え? どうして?」
「エルフ様を見てください。いつもの緑色が真っ赤に……」
「ぐはぁっ! おい無駄乳! この重りをどかせ! 私を窒息死させる気か!」
「わぁっ! ごめんねテノちゃん!」
「謝る前に私の上からこの重りをどかせ! これは無い者に対する自慢かぁ!? あぁん!?」
「あっ! んっ! テ、テノちゃん、そ、そんな……ぃやだ……んぅ!」
「わぁ――……エルフ様、中々大胆ですね」
「一々変な声を出すな無駄乳! それとホムンクルス! お前も見てないで退かすの手伝え!」
少年の前で戯れ合う三人組の首にはそれぞれ首輪が付けられている。
首輪が示す意味は……この世界ではたった一つしかない。
「ちょっとリュウタ! あんたもそんな所で見てないで手伝いなさい! 仮にもあんたの奴隷でしょうが!」
「あれ? 前にも言わなかったっけ? 僕的には別に奴隷だとは思って無いんd」
「じゃあこの首輪は何よ! これが有る限り自由が無いんだから実質奴隷と変わり無いじゃない!」
「あはは、まあ、それを言われると弱いんだけどね」
「がぁぁ――! どうしてこんなに使えない奴の下なんかにぃぃぃい!」
獣人娘よりも一回り小さいエルフは力で押し上げようとするが……どうやら無駄に終わりそうだ。
元々エルフという種族は森の奥深くで精霊や妖精たちと日々を過ごし、人間の数十倍以上の時を生きる。自然に囲まれているせいか穏和な性格の持ち主が多く、外界との接触も基本的に行なわないため、彼女のように外界へと進出する者はよっぽどの物好きか島流しに遭った者だと考えられている。
しかし、一方で貴族や収集家の中には財宝と同等以上の価値を見出す者も少なからず存在し、奴隷市場でエルフが出品された時は他の奴隷に比べ桁が三つも四つも違うのだ。
「はぁ……はぁ……や、やっと抜けられた……」
「お疲れ様」
「こんのぉ……はぁ、もういいわよ」
やっとの思いで這い出たエルフは風魔法で獣人娘と人造人間の少女を近くの川まで吹き飛ばした。空中で彼女たちの衣類だけ脱がし、ご丁寧に畳んで岩の上に移動させるのだから、彼女の魔法操作力はかなりのものだろう。
「それで? 本気であのホムンクルスを傍に置く気?」
「え? ダメ?」
「ダメに決まって……と言いたいところだけど、この首輪がある以上、リュウタには逆らえないし。どうせ私が遥か彼方に飛ばそうとしても、あんたのスピードには勝てないし……はぁ、なんでこんな奴に……」
「ごめんごめん、寺内さん」
「その名で私を呼ぶな」
「なら、陽菜乃さんの方が良い?」
「はったおすわよ」
「えぇー別に普通の名前じゃない?」
「だから、こっちの世界じゃ目立つ……はぁ、とにかくテノって呼んでよね」
「寺内陽菜乃でテノ……くっ」
「……ぶっ殺されたいのかしら?」
「い、いやっ……くくっ……だ、だって……最初と最後の文字でテノって……今時小学生でももっと捻るのに……くっ……」
「……そう、私のネーミングセンスに喧嘩を売りたいって訳ね。良いわ、その喧嘩、お姉さんが高値で買ってあげる」
「ご、ごめんごめん、ほんとに。ね? 許して?」
「だから、謝って済むなら警察は……ってあんたの相手をするだけ無駄か……」
「諦めたらそこで試合終了ですよ?」
「……ツッコまないから。あと前にも説明したけど、私やあんたがいる以上、他にも転生者がいるかもしれないの。そしてもし実在した場合、その転生者のステータスは化物クラスの可能性が高い……あんたみたいね」
「そうかな?」
「あんたがそれを言うな。デタラメな固有スキルの上に剣術も魔法を使い放題、おまけに錬金術で武具や生活用品を作るなんて……どんなチート野郎よ……」
「まあ、僕も気付かない内にこの状態だったからね」
「……いい? あんたのそのチートパワーでも壊せないこの首輪、こんな物が存在しているって事は、まだ私たちの知らない理か法則が存在しているってこと。私もこちら側の世界では特別に近いに存在だと思っていたけど、こんな首輪一つ壊せない……魔道具か、それとも固有スキルの類で精製された物なのか……いずれにしろ、あまり目立った行動をするとホムンクルスのようにまた刺客が現れるわよ」
「分かってるよ――」
「……本当に分かっているのかしら」
エルフは少年にそっと声を掛け、騒がしい川辺へと移動する。
彼女の重い足取りから察するに、あまり気は進まない様子だが……不思議と表情は柔らかい。
「他の転生者……か……」
少年は周囲に気を配りながら夜空を眺める。
自分がなぜ転生されたのか、この世界で自分が為すべき事は何か、首輪を外すにはどうすれば良いのか。
様々な念が立ち込めたまま、彼は決して届かない黒い絨毯の上の宝箱に手を伸ばすのであった。
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2019.3.4
見直しによる修正
(修正前)
少年は周囲に気を配りながら夜空を眺める。
自分がなぜ転生されたのか、この世界で自分が為すべき事は何か、エルフを含め、あの子ら三人の首輪を外すにはどうすれば良いのか。
様々な念が立ち込めたまま、彼は決して届かない黒い絨毯の上の宝箱に手を伸ばすのであった。
(修正後)
少年は周囲に気を配りながら夜空を眺める。
自分がなぜ転生されたのか、この世界で自分が為すべき事は何か、首輪を外すにはどうすれば良いのか。
様々な念が立ち込めたまま、彼は決して届かない黒い絨毯の上の宝箱に手を伸ばすのであった。




