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最強の騎士候補だった弟がある事情で騎士団に行けなくなったので、最弱の兄である俺が弟のふりをして入団することになりました  作者: ただの純


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2/2

墓の前で

アルトの身体を埋め終えた頃には、空が白み始めていた。


 鳥の鳴き声が聞こえる。


 いつもと同じ朝だった。


 だが俺の世界は昨日の夜に終わっていた。


 墓の前に立つ。


 粗末な木板を地面に突き立てる。


 名前だけを書いた。


 アルト・グレイ。


 それ以上は書けなかった。


 享年も。


 言葉も。


 何も。


「……馬鹿野郎」


 声が震えた。


「騎士になるんじゃなかったのかよ」


 返事はない。


 あるはずがない。


 昨日まで当たり前にいた弟は、もういない。


 そう思った瞬間。


 胸の奥から何かが込み上げてきた。


 怒りだった。


 悲しみではない。


 怒りだ。


 アルトを殺した奴らへの怒り。


 そして。


 何もできなかった自分への怒り。


 拳を握る。


 爪が皮膚を破った。


 痛みは感じなかった。


「……絶対に見つけ出す」


 誰に言うでもなく呟く。


「お前を殺した奴らを」


 風が吹いた。


 返事の代わりのように。


 ◇


 家へ戻る。


 既に半壊していた。


 壁には剣の跡。


 床には血痕。


 昨日の戦いの痕跡が残っている。


 その光景を見ているうちに、ある違和感に気付いた。


「……何でだ」


 襲撃者たちは俺を無視していた。


 最初から最後まで。


 狙いはアルトだけだった。


 金目当てではない。


 通り魔でもない。


 アルトを殺すことが目的だった。


 だが、なぜ。


 地方都市で暮らす一人の少年を。


 王都へ向かう前日に。


 まるで。


 騎士になられると困るかのように。


「王都……」


 思わず呟く。


 アルトは王国騎士団の首席合格者だった。


 王都へ行けば貴族とも関わる。


 騎士団内部の情報にも触れられる。


 もし黒幕がいるのなら。


 そこにいる可能性が高い。


 だが。


 そこで現実が立ちはだかる。


 俺は騎士になれない。


 才能がない。


 魔力もない。


 試験を受けたところで門前払いだ。


 復讐する資格すらない。


「……くそ」


 壁を殴った。


 木片が砕ける。


 それでも何も変わらない。


 その時だった。


 視界の端に一枚の封筒が映った。


 血で汚れた机の上。


 王国騎士団の紋章。


 アルト宛ての書類だった。


 正式認定の案内。


 王都へ来る日時。


 必要な手続き。


 そして名前。


 アルト・グレイ。


 そこに書かれているのは、それだけだった。


 顔写真もない。


 魔力登録もまだ行われていない。


 正式な認定は王都で行われる。


 つまり。


 まだ誰も知らない。


 アルトが死んだことを。


 俺は書類を見つめた。


 嫌な考えが頭に浮かぶ。


 そして振り払う。


 また浮かぶ。


 振り払う。


 それでも消えない。


「……無理だ」


 口に出す。


「そんなこと」


 だが心のどこかで理解していた。


 他に方法がないことを。


 復讐するには情報が必要だ。


 情報を得るには力がいる。


 力を得るには騎士団へ入るしかない。


 なら。


 どうする。


 答えは一つだった。


 ◇


 夕方。


 俺は再び墓の前にいた。


 手にはアルトの剣。


 そして騎士団からの書類。


「怒るよな」


 苦笑する。


「勝手に名前を借りるなんて」


 アルトは真面目だった。


 正々堂々を好む奴だった。


 だから本来なら絶対に反対する。


 分かっている。


 それでも。


「俺にはこれしかない」


 木板に手を置く。


「お前を殺した奴らを探す」


 静かな沈黙。


「だから少しだけ」


 深く息を吸う。


「お前の人生を借りる」


 風が吹いた。


 まるで許されたような気がした。


 都合のいい勘違いだとしても。


 今はそれでよかった。


 ◇


 その夜。


 俺は家に火を放った。


 燃え上がる炎が夜空を赤く染める。


 思い出が燃える。


 両親との記憶。


 アルトとの記憶。


 全部。


 もう戻らない。


 俺は振り返らなかった。


 墓だけが丘の上に残る。


 レイン・グレイは今日死んだ。


 臆病で。


 弱くて。


 何も持たなかった男。


 明日から俺は別人になる。


 弟の名を背負い。


 弟の人生を歩く。


 復讐のために。


 すべてを捨てて。


 燃え盛る炎を背に、俺は王都への道を歩き始めた。


 その時の俺はまだ知らなかった。


 弟を殺した事件が。


 王国そのものを揺るがす陰謀の始まりだったことを。

 読了ありがとうございます。


 少しでも面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価で応援して頂けると嬉しいです。


 広告の下にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けると、今後の執筆の励みになります。


 感想もすべて読ませて頂いております。


 これからレインの復讐と成長の物語が始まりますので、ぜひ続きもお楽しみください。


 よろしくお願いいたします。

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