白猫の未来
最終話です。
───この日、オルコット公爵領の大聖堂では盛大な結婚式が行われた。前日までの雨が嘘のように、清々しい晴天の一日だった。
オルコット公爵家の一人娘シャーロットとセリエ侯爵家次男クラレンスの結婚式。王族や国中の主だった貴族、領主を慕うたくさんの領民達が集まる盛大な式だった。
厳かな大聖堂の中トラヴィス オルコット公爵に手を引かれ、シャーロットは愛するクラレンスの元へ。クラレンスは公爵に礼をしシャーロットの手を取り神父の待つ祭壇へと2人歩いていく。
シャーロットは嫁ぐ訳ではないけれども、公爵はこれまでの様々な事を思い出し、幸せに満ち溢れ輝く娘のその後ろ姿を感慨深く見つめた。
◇
「───綺麗だ、シャーロット。……どうか幸せになっておくれ」
シャーロットとクラレンスの結婚式を、ブレンダは魔法で遠くから見守っていた。
『───せっかくなのだから変装でもして近くで見守ってあげればよかったのに』
声のした方をチラリと見ながらブレンダはふんと鼻を鳴らしながら答えた。
「───私は昔も今も、人の前にそうは姿を現さない。……そういうお前もシャーロットの側に行ってやらなくていいのかい? モリー」
ブレンダの横に座ったグレーの猫モリーは座って毛繕いをしている。
『結婚式に猫が居ても仕方ないだろう。……気が向いたらまた顔を出すよ』
「冷たいねぇ。……そもそもお前は『シャーロット』の使い魔だったじゃないか」
それが今回はシャーロットを守る為とはいえ王妃の側に行ってるし。……そう言ってブレンダはモリーを見た。
グレーの猫モリーは視線を魔法で映されたシャーロットから外さないままブレンダに言った。
『前世では。……だろ? 私は今でもシャーロットが一番だけど……。彼女は愛する者の為に魔力を失い人間となった。今の私はそんな彼女を守る為に最善と思える事をするだけだ』
「───前言撤回だ。お前はなんとも一途な猫だねぇ」
感心して言う魔女に、モリーは呆れたようにブレンダをチラリと見た。
「───そういうブレンダだってそうだろう。親友の子孫をいつまでも見守ってさ。しかも転生したシャーロットをここまで手厚く守っているじゃないか」
シャーロットは、前世魔女でありブレンダの親友であり使い魔モリーの主人だった。
ブレンダは昔と今のシャーロットを思い浮かべた。
「───生まれ変わっても、あの子の本質は何も変わらない。……私は何度出会ってもあの子に惹かれちまう。シャーロットに会うためなら、私はずっと公爵家の見守り人を続けるさ」
遠い昔、何人もの魔女がいた時代。シャーロットとブレンダは親友だった。段々魔女が減っていく中で、2人はいつも一緒だと笑い合った。
それが彼女はオルコット公爵家の始祖である青年と出会い恋をし、そして力を失った。……しかしその時親友は予言していた。
───いつか、自分はこのオルコット公爵家に関わるモノに生まれ変わると。
そうしてその予言の通りにシャーロットは何度か生まれ、そしてその度導かれるようにオルコット公爵夫人となっていたのだ。
「今回、直接オルコット公爵家に生まれるのは初めてだからねぇ。あの男の生まれ変わりを王太子の側近で見つけた時には正直迷ったがね」
『それでその後『王命』でエドワルド王子と婚約させられた時に何もしなかったのか?』
モリーは咎めるようにブレンダを見た。
「───最終的にシャーロットの望むようにはするつもりだったけどね。『王命』は出されてしまったし、素直にあの男の生まれ変わりにあの子を渡したくなかっただけさ。
……だけどエドワルドは勝手に自爆したのだし、シャーロットは可愛い白猫になってあの男と出会い恋に落ちたのだから、結果オーライだ。……私は優しいだろう?」
公爵家を狙う他の不安要素も排除出来たしねぇ、と笑うブレンダを見ながらモリーは思い出していた。
遠い昔にこの魔女ブレンダが連れていた、真っ白な可愛い猫姿の使い魔を。
「───? なんだい?」
『いや、なんでもない。……ああ、式が終わったようだね。2人が大聖堂から出て来たよ』
ブレンダは式を終えたシャーロットの姿を認めると、パァっと顔を綻ばせた。
「ああ本当だ。……ふふ。あれはシャンとしているように見えてシャーロットが凄く緊張してる時の顔だよ。……可愛いねぇ」
『いや、あれは次に何をするのかを考えてるんだよ。シャーロットはいつも一生懸命だからね』
元親友の魔女と元使い魔は、そう言い合いながらいつまでもシャーロットを見守っていた。
◇
結婚式が無事に終わり、クラレンスがシャーロットの手を取り微笑みかける。シャーロットも微笑み返し手を取って歩き出す。
2人が大聖堂から現れると、外で待ち受けていた参列者や領民達の盛大な祝福を受けた。
……こうして好きな方と結婚出来るなんて……。それにクラレンス様が素敵過ぎる……! どうしよう、幸せ過ぎて緊張してしまうわ。
シャーロットはときめきと緊張でどうにかなりそうな自分を必死で抑えて淑女の微笑みを浮かべた。そして次はどうするのだっけと考えチラリとクラレンスを見ると、彼もこちらを見ていた。
……ん? 手元を見ている? そうだわ、次はブーケトス! ……えーと、あの2人はどこかしら……。
シャーロットはさり気なく周りを見渡す。───すると、人々の向こうに白い猫がチラリと見えた気がした。
……あの白猫は……。
その時クラレンスが耳元に「斜め右だ」と囁いたので、そちらに視線をやった。……ああ、居たわ。
2人は微笑み合い、そしてシャーロットはブーケを投げた。
……それを受け取ったのは、シャーロットの親友のアマリア ベッツ侯爵令嬢。そしてその隣には彼女の婚約者、ブルーノ モットレイ。
ブーケを持ち嬉しそうに微笑み合う2人を見たシャーロットとクラレンス、周囲もまた微笑みと幸せに包まれた。
そしてアマリアとブルーノに負けじとクラレンスはシャーロットにキスをした。
「! クラレンス様……!」
「シャーロット。……愛してるよ」
「……! ……私も、クラレンス様を……愛してます」
真っ赤になって答えるシャーロットを見てクラレンスは幸せそうに微笑んだ。
───王子と婚約していた一年前には全く想像も出来なかった、幸せな風景がそこにはあった。
《完》
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
本見りん




