猫姿の娘と親心
シャーロットは頬を染めパッと顔を上げた。
「ッあの……。クラレンス様には本当にお世話になったのです。彼が居なければ私は今頃どうなっていたか分かりませんわ……」
うっとりしたような表情でそう言いながらクラレンスを見る娘の目。そのクラレンスは遠慮がちながらも娘を温かく見守るように見つめ返している。
……公爵は言い知れない不安のような、大切な人を奪われそうな不快感に襲われる。
……しかし、である。
このクラレンスという青年は、エドワルド殿下との婚約話が出る前には妻が好青年だと認めていた。
……妻が認めた、そうつまりは魔女殿が認めていたという事である。が……。
「セリエ殿。───この度は娘が大変お世話になったようだ。……しかし私に事情位は話してくれても良かったのではないかね」
公爵はこの10日間、夜も眠れない程娘を心配し探し続けた。その様子をこの男は知っていたはずなのに実は娘を匿っていたとは許し難く、恨み言の一つは言っておきたかったのだ。
───たとえその時娘が猫になっていたのだとしても。……いや正直にいえば、猫姿の娘を愛でたかった気持ちも多々あったのだが。
「───それが、『ロッティ』が『シャーロット嬢』だと気付いたのがつい先程でして……」
クラレンスが申し訳なさそうに説明していると、横からシャーロットが彼を庇うように前に出て言った。
「クラレンス様が私の正体を知ったのはついさっき、人間の姿に戻ってからよ。それからブレンダに魔法をかけてもらって人目につかないようにここまで戻ってきたの」
父である自分からクラレンスを守るかのような娘の態度に公爵は少なからずショックを受けていた。
……が、その内容は事実が分かりすぐに父である自分の所に戻ってくれたという事。
公爵は、なんとか自分の心を抑えた。
「───そうであったのか。セリエ殿。疑って申し訳なかった。そして娘を保護してくれた事、心から感謝する」
公爵は娘の肩を抱きつつクラレンスに礼を言った。
……クラレンスの事を気に入っていたはずだったが、娘の青年を見る目に心穏やかでいられない公爵だった。
そして公爵はその後2人からシャーロットが猫になってからの様々なこと、そして弟パーシー グレゴリー伯爵一家の話を聞いたのだ。
「……パーシーがそんな事を言ったのか。そしてネイサンがシャーロットに暴力を……!? 許せん……! そうか、あの不思議な事件はそういう事であったのか」
公爵は怒り驚き、そしてその経緯を聞かされ納得した。
そして魔女から言われたという、『シャーロットが滞りなく元の生活に戻れる計画』と『今後の憂いをなくす為の計画』を聞いた。
公爵は大使の協力を仰ぐ計画をなるほどと納得し、憂いを無くす為の計画は相手がそれに乗らなければ済む話であったのでどちらも了承して実行し、今に至る。
◇
オルコット公爵は2日前のシャーロットが無事に戻った日の事を思い出しつつ、改めてその姿を見て安堵する。
魔女ブレンダの計画通り、シャーロットは隣国の大使に保護されて無事に公爵家に戻った事になっている。
そして公爵は娘に向き合う。……どうしても娘に言っておかねばならない事があったのだ。
「……シャーロット。私はお前に謝らなければならない。
───私がアナベルが亡くなってすぐに再婚をした事だ」
公爵は真剣な顔で娘シャーロットに語り出した。
……アナベルとはシャーロットの母。前公爵夫人である。
父の真剣な様子に気付いたシャーロットは、姿勢を正し父の目を見て話を聞く。
「……お前も知っての通り、オルコット公爵家では公爵夫人が不思議な『力』を持つ。当主はその不思議な存在は知ってはいるが、その権限を持つのは公爵夫人のみ。
それ故に、アナベル亡き後突然出された王命での婚約を無くすには新たな『夫人』が必要だと、当時私はそう早合点をしてしまった。
お前に相談もせず勝手な行動をして本当にすまなかった」
公爵はそう言って頭を下げ、シャーロットに深く謝罪した。
……父が何故、シャーロットの母が亡くなってすぐに再婚をしたのか。その理由を告げられたシャーロットは戸惑いながらも父を見た。
「───私は王命によって無理やり定められたシャーロットの婚約を、何としてでも無くしたかった。愛するアナベルが亡くなったあの時、すぐに無理を通そうとしてきた王家の事を許せなかったのだ。だから我が公爵家の妻に代々与えられる『力』を手に入れるべく、知人であった夫人と契約婚をした。……愚かな事だった」
公爵はそう言って俯いた。
シャーロットは当時の事を思い出して胸が痛くなった。
……大好きだった母が亡くなり悲しみに暮れる最中、王命で出されたエドワルド王子との婚約。
そして突然の父の再婚。母ととても愛し合っていたと思っていたのに、かなりショックだった。それから義母と義妹がこの屋敷にやって来て……。
シャーロットは胸が締め付けられるように切なくて、ギュッと指を握り締めた。




