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ありよう

心、こころ


俺はこの単語が嫌いだ。


精神と書けば、まだ、科学的な気がする。


どこにあるのかも、わからない。

音が柔らかく、弱い言葉。


「随分、お痩せになりましたね」

「病気にかかったからね」記憶よりずっと細くなった手をまじまじとみて、実感する。


「慌てなくて大丈夫です。ゆっくりご通行ください」

笑顔の交通整備員。巨大なビルが工事中。


教授の友達という教授に今回の件を相談し、対応を決める。いろいろと俺の動き含めて最悪状態。それでもこれ以上悪化しないように知恵を貸してくださる。


「なんでバカなことをしたのか。終わったことは仕方ない。23日までに書類系は全部終わらせて、先を見なさい」

「申し訳ございません」

「次にやることだけ考えて。今はそれに集中する。余計なことはしない」

「弁護士含めて相手を信じられない状態です」

「そうかもね」

「あ、先生方は信じています」

「なら、そうしなさい。会ったこともない相手ではないし、私の授業も取っていたでしょ」

「はい。先生の授業を取っていました」


そう。法学部だけど金融法の先生。

知財法の俺とは違ったが、当時俺は失業していたから時間があり、また、たまたま知財の授業前で設定されていたから、スケジュールがあって授業を受けた。


2010年の出来事、今から13年前の記録。

13年後、詐欺事件の被害者として先生に再び会った。


会ったこともない相手の優しい言葉に溺れて300万円を失い、13年前に一度、授業を受けた先生に助けてほしいと、手を伸ばす。


その先生の手は、黒板に書いていた記憶の手より、ずっと細く、背中もだいぶ痩せている。


「やるべきことはわかった?」

「はい。今のところ」

「とりあえず、来週中に書類関係は結果はわからないけど、出し終わるから。落ち着きなさい」

「頭が回らず、眠れません」

「なら、眠るまで書類書きなさい。書類出したらもうやることないから寝て、起きて太陽浴びて。ここでへこたれたら、それこそ負けだと思わない?」

「今はうなづくこともできません」

「そう。まあ、なるようにしかならないよ。過ぎ去った時間は戻らない。だから、先を考えて。やることだけを考える」

「はい」


オフィスで出してもらったペットボトルのお茶を持って、虎ノ門から新宿まで歩いている。頭を冷やしたかった。


その途中。工事現場前を通りかかったらお姉さんが工事現場から出てくるトラックを止めていた。俺は急いで通り過ぎようとしたら綺麗な笑顔で言われた。急がないでいいと。


通り過ぎたそのあとに、ショーウィンドウに映る自分は疲れていた。


心の行方、心の在り方。

精神という定量化された分析データでは「わからない」、心の持ち方。


精神科医でもわからないパンドラボックス。


透けて反射する俺の顔は、どうしたらいいのか、途方に暮れている。

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