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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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68.帰ってきました

短めです。


箸休め的な回になります。

馬車がゆっくりと止まった。

外から声がかかり、諾の返事の(のち)に扉が開けられた。


素早くマリーが降りていく。

次いで兄だ。


「アン」


兄が手を差し出す。

その兄の手を借りて馬車を降りる。


「アン、大丈夫か?」

「さすがに少し疲れました」


馬車の中でも兄やマリーが心配そうな視線を向けてくれていた。

思ったよりも長時間の話し合いになり、さらには予想外の重大な事を聞かされたので余計に心配になったのだろう。

アンリエッタはまだ万全な体調ではないので心身への負担をいつも以上に感じていた。


「早く休むといい」

「そうさせていただきます」


家族への報告はどのみち父が帰ってきてからだろう。

ああ、だけれど母やルイには軽くでも説明しておいたほうがいいのだろうか。

そのアンリエッタの心配を読み取ったように兄が言ってくれる。


「母上やルイには私が軽く説明しておく。どのみち父上を交えてきちんと話さなければならないからな、それまではゆっくりしているといい」

「ありがとうございます」


ここは兄に甘えよう。

兄ならうまく説明してくれるだろう。

頭が回らない状態のアンリエッタはうまく説明できる気がしなかった。


「ああ。マリー頼むぞ」

「勿論でございます」


マリーが頭を下げる。

兄にエスコートされて玄関に向かう。


「お帰りなさいませ、エドワール様、お嬢様」


玄関扉の前で出迎えたジュストが頭を下げる。


「ああ、帰った」

「ただいま戻ったわ」

「皆様お待ちです」


また家族が玄関ホールで待っているのだろうか?

……少なくともルイは待っているだろう。

兄と揃って頷く。


「開けてよろしいでしょうか?」


わざわざ確認するということは、ルイが相当拗ねているということだろうか?

思わず兄と顔を見合わせる。


だがいつまでもここでこうしているわけにはいかない。

兄と一つ頷き合う間に覚悟を決める。

とにかくルイに流されないようにしないと。


「大丈夫だ。私が止める」

「お願いします」

「任せなさい。開けてくれ」

「はい」


ジュストが一礼してゆっくりと扉を開ける。

兄にエスコートされたまま扉をくぐる。


「リエッタ!」


呼びかけられると同時に抱き締められた。


「ルト?」


声にも腕にも馴染みがあったから身構えることはなかった。

だが何故ここにいるのだろう?


「ちょっと離れて!」


ルイが怒鳴るがエドゥアルトの腕は緩まない。


「怪我をしたと聞いて。これでも急いで駆けつけたんだけど。大丈夫? 何で出掛けたりしていたんだい?」


矢継ぎ早に言われて口を挟む暇がない。


「ルト、落ち着いて?」

「落ち着けるわけがないだろう」

「でも落ち着いて」

「心配でならなかったんだよ? 上から壺を投げつけられたって聞いて」


情報が大袈裟に告げられたようだ。

きちんとした情報は大事だ。

ここはきっちりと訂正しておく。


「投げつけられたわけではないわ」

「そうだね。上から落とされたんだったね。そちらのほうが悪質だ」


確かに壺を投げつけられたのなら避けられたかもしれなかった。

駄目だ。やはり疲れている。

そのようなことが問題ではないのだ。

上から投げつけられたら避けられないだろうし。


「水と壺は別々よ」

「時間差なんて誤差の範疇だ」


違うと思う。


「壺が落ちてきたのはわざとではないのよ」

「水をかけようとした時点で同じことだよ」


そう言われれば何も言えない。

アンリエッタもその危険性はわかっていたし、何故やめるという選択肢を取らなかったのかと思ったから。


「本当に生きた心地がしなかった」

「ごめんなさい」

「もう二度と御免だ」

「ええ」


アンリエッタも二度と御免だった。


エドゥアルトがぎゅっぎゅっと抱き締めてくる。

そんなに抱き締められるとさすがに苦しい。

それを訴えようとしたが、その前に。


「姉上の怪我に障るでしょ!」


我慢の限界の来たルイが叫んでエドゥアルトの身体を引き離した。

はっとした顔のエドゥアルトに心配そうに訊かれる。


「リエッタ、ごめん。大丈夫だったかい?」

「ええ、大丈夫よ」

「姉上、こんな男を甘やかす必要はないよ。顔色が悪い。部屋でゆっくり休もう?」

「確かに顔色が悪い。部屋まで連れていくよ」

「ちょっと。いくら婚約者とはいえ、姉上の寝室には立ち入らせないからね」

「だがリエッタが倒れたりしたら危ない」

「ふざけないで。それなら僕が連れていくよ」

「いや、それは婚約者の役目だろう」

「いや、身内の役目だ。僕が連れていく」


アンリエッタを間に挟んで二人は言い合う。

アンリエッタはとにかく少し休みたい。

埒が明かないと判断した母がマリーに言う。


「マリー、アンを部屋に連れていってあげて」

「承知しました。お嬢様行きましょう」

「ええ」

「私がついていこう」


兄が申し出てくれる。


「ええ。エドお願いね」


揉めていた二人ではなかったので母も承知する。


「お兄様、ありがとうございます」

「いや。心配だからな」


そう言った後で兄はアンリエッタをエドゥアルトとルイの間からそっと自身のほうへと引き寄せた。


「「あっ!」」


二人が揃って声を上げる。


「二人はここに残りなさい」


反論しようとしたエドゥアルトとルイは母の顔を見て神妙な顔になった。


「はい」

「リエッタ、また後で。ゆっくり休んで」

「ええ。ルト、また後で」


挨拶だけしてアンリエッタは兄のエスコートで自室へと向かった。






兄はアンリエッタの自室のソファまでエスコートし、そこにアンリエッタを座らせた。


「お兄様、ありがとうございました」

「いや。ゆっくり休むんだぞ」

「はい」


兄はぽんと一つ頭を撫でて部屋を出ていった。


「お嬢様、御召し替え致しましょう」

「ええ。お願い」


マリーの言葉に立ち上がる。


「まずは髪をほどきましょう。こちらへお座りください」


言われるがまま鏡台の前に座るとまずは耳飾りなどの宝飾品が外される。

それからリボンをほどいていく。

全てのリボンを外すと髪に櫛が通される。


化粧を落としてしめつけの少ない部屋着へと着替えた。

そのまま寝室へと向かう。


寝室に入ればきちんと寝具は整えられている。

寝台に横になった。


「ゆっくりとお休みくださいませ」


マリーが一礼して寝室を出ていく。

アンリエッタは目を閉じた。


思っていた以上に限界だったらしい。

アンリエッタはあっという間に夢の世界へと旅立った。




読んでいただき、ありがとうございました。

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