閑話・彼女が目覚めるまでの間(カイル視点)
今回はヴィルヘルミナが階段から落ちた後のカイル視点です。
それではよろしくお願いします。
彼女が階段から落ちて、私はすぐに階段を駆け下りた。彼女を見ると頭から血を流し、真っ青な顔でぐったりとしている。
呆然としている場合じゃない。一刻の猶予もないと思った私はすぐに医師を手配し、彼女を抱き上げて寝室へ運んだ。
ドレスを着ていても重さをそれほど感じない。こんな頼りない体で彼女はずっと理不尽な状況に耐えていたのかと胸が痛んだ。
すぐに医師が来て手当をしてくれた。頭の傷は大したことがなく、体の打撲は身につけていたコルセットのおかげで骨折までには至らなかった。不幸中の幸いだった。
だけど、彼女は目覚めない。医師は頭を打ったせいで意識が戻らないのかもしれないと言った。最悪なことにいつ目覚めるかわからないとも。
私は絶望した。
だが、まだ絶対に目覚めないと決まった訳じゃない。それなら目覚めた彼女がせめて心安く過ごせるように動こう。そう決めた。
◇
まずは動きやすいように謹慎を解いてもらうことにした。
そこで王都にいる友人に醜聞の真相を手紙で知らせ、協力を求めた。証拠がないとルイーザたちを追い詰める事ができないので、彼らが繋がっていた証拠の手紙、盛った薬の入手ルートを調べた。驚くべきことに奴らはお互いを信じていなかったから、どちらかが裏切らないように念書を書いてお互いが保管していたそうだ。
呆れてものも言えないが、そのおかげで立派な証拠を手に入れられたので良しとしよう。そして集めた証拠を私の代わりに友人が王家へ提出してくれ、二人は捕まり、貴族位剥奪の上、この国を追放された。
さらにルイーザと男の家には二人の監督不行き届きとして、それぞれに慰謝料を請求した。
そして私とヴィルヘルミナは被害者として名誉回復し、社交界に復帰できることになった。
◇
そして次に彼女の実家のために動くことにした。今回の顛末を報告したいのと、私が行った彼女への仕打ちを包み隠さずに話して謝罪したいこと、支援したいことを話すために、直接伺うことにした。
ただ、いつ彼女の容態が変わるか分からなかったから、彼女の側を離れるのは不安だった。そこでメイドだったナタリーを侍女にして、乳母としてマーサを雇った。
そして私は伯爵家を訪れた。出迎えた当初はご両親、レオン殿は真っ青な顔だったが、事情を説明するにつれてだんだん顔が険しくなり紅潮していった。
最後にはレオン殿に殴られた。ご両親は酷く恐縮して謝ってくれたが、殴られて当然な私には怒る権利はない。だから気にしないで欲しいとお願いした。
支援に関しても、慰謝料の肩代わりを申し出て、侯爵家が後ろ盾になる事を約束した。もちろん念書を認めることも忘れない。
後はレオン殿の縁談だが、ルイーザのような女を選んだ見る目のない私では誰を紹介していいかわからないので、しっかりした妻を選んだ別の友人にお願いした。結果、相性の良さそうな素敵な女性との縁談がまとまった。
あと、彼女の元婚約者の家にも行き、謝罪した。こちらと伯爵家と合わせた金額に上乗せして、伯爵家と政略的な繋がりを絶たないこと、彼女の名誉を傷つけるようなことをしないと約束させて支払った。
もしマクラーレン伯爵家の名を汚すようなことをすれば侯爵家を侮辱するのと同等だと、上乗せした金額を返還の上、今回より多い慰謝料を請求すると釘を刺しておいた。
◇
後は社交界に復帰したといっても、噂好きな人間がいる限り本当の意味で彼女の名誉は回復できない。
彼らは悪意のある無しにかかわらず人間関係を荒らす。より面白い噂の方が広め甲斐があるからだろう。
ネタにされたこちらとしては業腹だが、それなら同じ手を使えばいい。情報には情報を。そう思って特に酷かった数人に絞って隠密に調べたら、面白いぐらいに集まった。これに懲りたら黙っていろ、もしちょっとでも彼女の悪い噂が聞こえたら、こちらも調べた情報を噂として流してやると脅したら、バネ人形のように何度も頷いていた。
これで大方、片付いた。でも一番大事な事が残っている。
私はまだ君の話を聞いていない。私が踏みにじってきた君の気持ちを知りたいんだ。
そして私は君に謝罪して、償わなければいけないんだ。
だからお願いだ、ヴィルヘルミナ。目を覚ましてくれ。君とちゃんと話したい、そして知りたいんだ。本当の君という女性を。
読んでいただき、ありがとうございました。




