表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

二人にとっての選択

よろしくお願いします。

 一息に話しきったカイル様は、一旦言葉を区切ってから、頭を深く下げた。


「本当に申し訳なかった。許して欲しいとは言えないが……」


 そう言われても困る。話を聞いて酷い、許せないと思うのは、私が女性だから思うのであって、実際に味わったからじゃない。それを心から許せるかどうかは、それを味わった以前の私である本人にしかわからない。


 それに、私は以前のカイル様を知らない。今と話で聞く彼の姿があまりにも乖離していて、私は彼の話を信じきれていないのだと思う。そんな私に何が言えるというのか。


「……許します……って言って納得するんですか。私が本当の意味でわかっていないのに、口先だけで許されたいと本当に思うんですか。違うでしょう。それは以前の私に言うべき言葉で、今の私にはどうすることもできません。それは貴方もわかっているんじゃないんですか?」

「……ああ、そうだった。私は何度も君に謝らないで欲しいと言われたというのに、学ばないな。確かに私は無意識に形だけ謝って許されたいと思っていたのかもしれない。それではだめなんだ。私は君に心から償いたいんだ。そうでなければ君を愛しているなんていう資格はない。君を苦しめている上に、勝手なことばかり言っていると思う。だから、私は君の選択を尊重するよ」

「私の選択……ですか」

「ああ、君のご両親とも話しただろう? 君に何かあればその時に考えると。君は事実を知ったから、ここにいたくないと思って当然だ。それならしばらく実家で過ごすこともいいだろうと思う。ただ、離縁は待って欲しいんだ。もしそうなったら、君の立場が悪くなってしまう」


 私の立場?

 それならもう、これ以上ないくらいに落ちているのではないか。カイル様が先程言ったはずだ。私はふしだらな魔性の女だと。


「……私の立場なんて気にしても仕方ないんじゃないですか? もう充分悪いみたいですから」

「いや、君の名誉は回復しているんだ。その男とルイーザが結託して私を罠に嵌めたことが明らかになった時に、君は被害者として擁護される立場だったことも明らかになったんだ。むしろ、貴族女性たちは同情的だよ」

「そうなんですか……」


 だけど、一度地の底まで落ちた評判が、そう簡単に回復するものだろうか。私にはわからない。


 わからないのは自分の気持ちもだ。

 事実を知っても、私はここを離れようとは思えなかった。話を聞いても実感がないせいか、他人事のような憤りしか湧いてこないのだ。


 私はしばらく考え込んでいたようで、カイル様に話しかけられるまで気がつかなかった。


「大丈夫かい?」

「はい。少し考えていただけです」

「……ひょっとして、何か思い出したのかい?」


 カイル様は心配そうで、どこか不安そうに私に聞いた。私は無言で首を左右に振る。


「そうか……話したら思い出すかと思ったんだが、それだけ君にとっては辛いことだということなんだろうな。私はどうすればいいんだろうか。君が思い出さなければ償いが出来ず、思い出せば愛する君を失うかもしれない。選べないんだ……」


 カイル様は苦悩するように、両手で顔を覆ってしまった。この人もこうして苦しんできたのだ。


 確かに以前の彼は、彼が話すように酷い男性だったのかもしれない。ルイーザ様を都合のいい遊び相手だったと称して、女性を軽く見たせいで罠に嵌められた。


 それでもこうして悔いる彼は、本当に苦しんでいるように思える。記憶のない私には、事実を知ってもやっぱり責めることはできなかった。そんな私は甘いのだろうか。


「……私も選べません」

「え?」


 カイル様は両手を離すと、顔を上げた。


「私も、選べないんです。話を聞いてもやっぱり実感がなくて、ここを離れたいとは思えません。だったら記憶がないままここにいて、貴方と仮初めの夫婦関係を続けるのかと聞かれると、それも難しいと思います。貴方はずっと私に引け目を感じ続けて、私はそんな貴方に本音を語れない。お互いに気を使い続けて、いずれは疲れてしまうでしょう。それでは一緒にいる意味がなくなってしまうのではありませんか?」


 償いたいから一緒にいたいという彼と、好きだから側にいたいという私には温度差がある。


「……だから、少し時間をいただけませんか? これからのことも含めて考える時間を」

「……そうだね。それがいいと思うよ。だけど忘れないで欲しい。私はどんなことでも受け入れようと思っているから」

「はい……」


 そうして、話を終えた私たちはそれぞれの部屋に戻った。


 ベッドに横たわり、今日の出来事を思い出す。

 今日一日で色々なことが変わってしまった。初めて侯爵夫人の仕事をしたと思えば、カイル様から信じられない事実を聞き、これからどうするかを考えないといけない。


 私は正直、心から怒ることも悲しむこともできずにいる。聞いた事実は酷いものだと思う。でも今の私ではそこまでしか思えない。やっぱりどこか他人事だからだろう。


 それなのに私は、これからのことを決められるのだろうか。そんなことを考えながら私は眠りについた。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ