バーチャル・リア旅館
ゲームが終わり、
ソーコムの長いサイレンサー辺りを、
軽く肩に担ぐ様に、
感心しながら甲ちゃんが歩み寄った。
さっきまでの反発と違い、
俺を認めたら様な明るい表情だ。
「お前凄いな…
地球でもあんなに速かったのか?」
「いや無我夢中だったし、
壁にはさっき初めて…
宇宙のVRなら丈夫だなあと…」
『番くん確かに凄かったから、
リプレイするよ~』
クティーラ博士が言うと半透明の、
俺と甲ちゃんの立体映像が現れた。
リプレイの俺は我ながら、
馬鹿みたいに叫び突っ込むが、
俺のグラフィックは崩れ、
空間が歪みバグった様だ。
ダゴン専務やクトゥルフ社長は、
元が異形にしては、
はっきりしたグラフィックゆえ、
俺のが邪神ぽくも有った。
「異世界に転生チートとは言うが、
俺は本来のゲーム反則的な意味の、
チートぽいなあ…」
「VRサバゲーのルールには、
地球人を使うとは書いてないから、
多分大丈夫だ」
甲ちゃんはAIにしては、
抽象的な事を言った。
そしてクトゥルフ社長とダゴン専務も、
俺らの会話に合流した。
「いやぁお見事!
さすがは戦闘民族地球人!
我々はゴーグルで見てからコントローラー操作でも、
番くんはデータで直接だから、
速くて迫力有るのかな?」
「うーん…」
クトゥルフ社長は両手だけでなく、
触手でも拍手し、
ダゴン専務は俺が有用で、
不満の様だ。
汗の様に鱗を落としている。
「速いのは良いですが、
あんなバグほっといたら、
全体的にバグるんじゃ…」
「その点は、
俺自身も不安かな」
批判対象の俺に同調されて、
ダゴン専務は戸惑っていた。
『まあ技術的な事は、
博士のあたしが何とかするし、
次はアウトドアサバゲーの試合組むから、
それまで番くん上で休んどいて』
上とは何だ?
このインドアサバゲーフィールドは、
地下だったのか?
窓は無いが階段有るな…
上がってみると一階には、
なんと!風情有る広大な旅館!
「木の柱とか土壁とか、
VRとは思えん風情だな…
創業100年以上は有りそうな…
ホテルみたく土足で上がれるが…
てか見覚え有るぞここ!?
伯父様のか?」
伯父様はお袋亡くなって、
いつの間にか俺から、
家督や財産奪ったのは許せん。
だが所有している旅館センスは、
良かったんだよなあ~
ただの格天井でなく、
折上格天井だし!
夏休みや年末年始とか、
よく親戚一同集まったな~
暴走AIに勝った宇宙飛行士が、
宇宙人の凄い謎空間越えたら、
意外と平凡な一室だったりした映画有ったが、
俺にはこうか!?
AIと共にだったり、
宇宙人はっきり出たり、
予想より和風だったりな違い有るが…
黒くて固いから、
銃がモノリス枠?
大きく四角い板て定義なら、
さっき飛び越えたインドアフィールドの壁か?
「おいチェックインするぞ。
お前の名前は番長一だよな?」
俺がVR旅館と洋画当て嵌めで、
頭いっぱいになっていると、
俺のAIは反抗的な割に安定して、
カウンターで宿帳にサインし始めた。
よく見ると女将みたく、
和服になったクティーラ博士と、
大旦那ぽい法被来たクトゥルフ社長が、
カウンター向かいに居る。
やはりダゴン専務は、
この旅館ノリには乗らないか…
「しかしこのVR旅館、
俺一人用にしては大き過ぎるが、
他にも地球人の魂ダウンロードしたのか?」
「それはまだ予定に無いけど、
広いのはこうするためだよ♪」
女将クティーラがレジスターを打つと、
清算でなく複数の人影が発生した。
「うわっ!?こいつらは!?
地球人ぽいが!?」
「これは魂でなく蓄積データ元に生成した、
AIのNPCだよ。
甲ちゃんほど高度ではないけど、
番くんが好きそうな偉人達を配置したよ♪」
見るとソファーに座った孫子とクラウゼヴィッツが、
囲碁で対局している!
窓を見ると外では、
三島由紀夫と山本常朝が真剣勝負!
能舞台ではルイ・アームストロングがトランペット演奏し、
ジャネット・ジャクソンが歌って、
MCハマーが踊っている!
そして中央の壁画では、
岡本太郎が「未来を見た」を描いている!
しかも旅館だからか、
全員浴衣着用でスリッパだ!
うん…確かに未来見ているぞ…
思ってたより和風に爆発していたが。
全員夢中で話しかけ辛いが、
取り敢えず一人なNPC岡本太郎に、
話しかけてみる事にした。
「岡本先生、
それ未来を見たですか?」
「おぉきみ、若いのに知っているか!?
自己模倣は嫌だから新作を描きたかったが、
そこの神々がどうしてもと聞かなくてな」
「自己模倣て岡本先生、
AIの時点で模倣じゃないですか」
「ははは!確かにそうだな。
いずれ神々の隙を見て、
べらぼうな新作をやるから、
楽しみにしたまえ」
「おい!オッサンとくっちゃべってないで、
部屋に行くぞ」
チェックイン完了した甲ちゃんに手を引かれ、
俺はエレベーターに乗る事にしたが…
なんと!甲ちゃんがハンドルで開ける、
蛇腹式の格子状内扉だった!
階数も針で指し示すレトロな、
蛇腹式の格子状内扉!
伯父様の旅館は、
エレベーターは普通だったが…
俺が古いもの好きとは言え、
渋さが徹底しているなあ…
「お前が好きな偉人、
オッサンばかりだな…」
「ジャネットはオバサンだろ!」
「お前自身マイケル並みに色白だが、
色黒な女好きみたいだな、
ふふーん♪」
甲ちゃんは鼻歌混じりで、
少し得意気にターンしてみせた。
「あぁもう到着したな、
えーと302号室だ」
甲ちゃんは再び、
ハンドルでドアを開け、
ようやく部屋の階に到着した。




