魔王の娘
「父上なんか、だいっきらいだああああぁぁぁぁぁっ…………!!!」
とある城の一室で、城中に伝わるほどの声が響き渡った。少女が叫びながら部屋から飛び出し、通路を走り去っていく。
「よ、よろしいので?」
開いたまま放置された扉から兵士が覗き込む。
「ああ、いいんだ……巡回に戻ってくれ」
「かしこまりました、魔王様」
兵士が扉を閉め、立ち去っていくと魔王と呼ばれた男は机の上に置かれた写真立てを見つめる。そこには数人の男女が写っていた。
「ポール……」
写真の中の一人の名を呟く。その呟きに返事を返す者は誰もいない。
「父上は嘘つきだ……、確かめるまでミィは認めないぞ」
少女は頬を濡らしながら空を駆けていく。
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「未来国家ドーン、魔力暴走で都市が異空間と化す──、か。都市一つ丸ごととは、随分と大規模だな。ベスティアも王が床に臥して国内が荒れてるって話だし、どこも落ち着かねえなぁ。うちが言えた事じゃあねえが」
新聞を広げ、内容に目を通すロイド。他国の出来事を他人事のように呟き、数ヶ月前から立て続けに起きた出来事を思い出す。
「食事の用意出来ましたよ。何か興味を引く出来事でもありました?」
朝食を運んできたショウがロイドへと尋ねる。
「世の中、平穏とはいかねえもんだって実感しただけだ」
ロイドは気怠げに返事をし、新聞を畳む。
「おっ、今回は美味い」
ロイドがスープを口にし、思わず感想が口から零れる。ショウが来て早4日、初めての感想である。
「味が安定しないんだよな……朝のはやけに塩っぱかったし、ちゃんと味見してっか?」
「してますよ?いつも大して変わらない筈ですけど」
『ショウは何食べても美味しいって言うからね〜』
「はぁ……味音痴も親譲りか」
バシャァァンッ!!
「──川に何か落ちたか」
呆れながら焼き魚を口にするロイドがふと呟く。
「ショウ、ちょっと見てきてくれねーか?」
「あ、はい」
屋敷の裏手には川が流れており、屋敷で使用する水は川から水車によって引いている。稀に上流で死んだモンスターの死体や岩等の漂流物が流れてくる。漂流物が引っかかり水車が止まると困るという事で度々確認しにいっている。
「何が落ちたんだろ?近くにモンスターはあまり近づかないからだけど」
『鳥かなんかじゃない?』
川の様子を見てみても特に変わった所は無い。
「水車も止まってないし、問題は無さそうだな。流れてくるのは桜の花びらと人だけ………人!?」
上流から桜の花弁と共に流れてきた人を見送りかけ、すぐ様追いかけていく。
「ふぅ、危うく見逃す所だった……」
『普通すぐ気づくよ。どこか抜けてるんだよね』
流されていった人物を抱えて岸へ上がる。
『水はあまり飲んでないみたい。だけどあちこち怪我してる、モンスターに襲われて気絶しながら川に落ちたっぽい』
「とりあえず無事なら良かった。傷は治療するとして……この娘」
桜に近い薄い桃色の髪、褐色の肌、端整な顔立ち、ショウよりいくらか年上だと思われる少女にはショウ達には無い特徴、頭の上に真っ直ぐと伸びている黒い角が生えていた。
『魔人だねこの娘、中々の魔力量だなー』
魔人とはこの世界とは違う次元にある異界、魔界に生きる種族の総称。その種類は多岐に渡り、その全てを把握している者は多くない。こちらの世界に移住した種族も多く、厳密には先祖が魔界出身の種族である。
(………暖かい)
「ぅぅ………ここは……?」
屋敷へ運びながら魔法で治療している最中、少女が目を覚ます。
「あ、気がついたみたいだね?俺は怪しい者じゃ……」
「生きてた……やっぱり嘘だ……」
「ん?……今なんて……」
小声で喋る少女に聞き返す。
「結婚しよう!」
「いや、俺はまだ結婚できる年齢じゃないから出来ないよ」
『急にどうしたのこの子?ショウも唐突の求婚にもっと驚いていいんだよ……?』
イブのツッコミを聞き流すショウ。元より聞こえていない少女はショウの姿を見て首を傾げる。
「そういえば前会ったときより縮んでる!もしかしてそういう病気!?髪の色も違うし、病気で髪の色まで変わったのか……」
(なんか話が噛み合ってないような……)
「多分人違いじゃ……」
「何騒いでんだお前ら?」
庭先で話しているとロイドが外に出てくる。
「あ、ロイド!」
「知り合いですか?」
「まあな。おいミドカ、そいつはポールじゃねえ。そいつはショウ、あいつの息子だ。あいつなら死んだぞ、7年も前にな」
「ロ……ロイドまで嘘つくの!?父上だけじゃなくロイドまで……」
「んな質の悪ぃ嘘つくかアホ。俺はあいつの最期に立ち会ってんだ、間違いない」
「そんな……嘘だ………」
(はぁ…あの馬鹿、まだ伝えてなかったのか。相変わらず娘に甘い、いずれこうなる事はわかってたろうに……)
目の前の少年は人違いであり、尋ね人は既にいない事実を突きつけられた少女はその場で泣き崩れてしまう。少し困った顔をしたショウは、懐からハンカチを取り出し少女へと差し出す。
「父さんとどういう関係かは知らないけど、泣くならハンカチと……胸くらいは貸すよ」
「ひぅ……うぅ………うぁぁあああぁぁぁ……!!」
ショウのハンカチを受け取ると、ショウに抱きついて再び泣き出した。
(思ったより力が……骨が………)
自身の軋む骨を案じながらも顔には出さず、少女が泣き止むのを待ち続けた。
「すぅ……すぅ…………」
ミドカと呼ばれた少女は散々泣いた後、泣き疲れて寝てしまった。ミドカに毛布を掛け、ロイドに訊ねる。
「それで、この娘は誰なんです?父さんの知り合いみたいですけど」
「こいつの名前はミドカ・ウォーカー、かつての戦友、現魔王の娘だ」
(語り部)
「これまで出てきた人物にも魔人はちらほらいるよ。生前のフローヴァも該当するね。それに獣人もそう、ロウダスの母親である狼王も魔人の枠組みの中に入る。場所によってはモンスターと同じ扱いをしたり、差別する場所もあって交流が増えたこの時期でも何かと課題が多いけど、これは人間同士でも起きている事だね。───あぁそれと、ロイドの家に新聞とか届くのかとか思うかもしれないけど、ロイドの家のポストは転移系魔道具でね、遠くの街から郵便物が直接送り込まれるんだ。フィルターがかかってて送れる物は限られるけど、ああいう危険地帯に住む人がよく愛用しているよ。配達員も安心さ!」




