ヤマト
3日間十分に休息を取った俺たちは、ヤマト本土に向けた船に乗り込んだ。
本土とは4つの島からなるヤマトの中心に位置する一番大きい島だ。
ホープ大臣とウォールの働きで、出航の手続きは無く、のんびり出来た。
大型船3隻による出港となり、残りの2隻は護衛用だそうだ。
帆の後ろから風の魔道具で風を送り、船はすいすい進んだ。
「船か。こうやって本格的に乗るのは初めてだな。」
大型船を錬金術で作るときに試運転はしたけど、ちゃんと目的地のある航海で乗るのは初めてだった。
新鮮な感じがする。
ルナとエムルも初体験のようで、テンションが高かった。
気になったのは、ベリーの顔色が悪いことだ。
「ベリー。大丈夫か?」
俺はベリーに話しかける。
「大丈夫よ。」
「そうか?表情が暗いぞ?無理に聞くつもりはないが、何かあれば言ってくれ。」
「ありがとう。」
ベリーはお礼を言うが、これって何かあるときの奴だよな?
気になるけど、無理に聞きだす気はない。
そっとしておこう。
俺たちはみんな部屋に戻る。
1部屋を4人でまるまる使っている。
特別待遇だろう。
「ヤマトの事について知りたいんだけど、分かる人いるか?」
ルナが立候補する。
「ヤマトは、独自の食文化があり、寿司が有名ですが、米粉を使った団子など、スイーツも独自の文化を持っています。後は、ヤマトは4つの島からなり、中心の本土から見て、北・南西・南東に3つの島があり、それぞれ領主が治めています。アーサー王国やディアブロ王国に比べて、周辺の領主の権力が大きい国です。」
序盤でスイーツの話をする所がルナらしいな。
「王の一強じゃなく、周りの貴族の権力が強いってことで良いのか?」
「正確には貴族ではなく領主と呼びますが、その通りです。」
「ウイン、伝えておきたいことがあるんだよ。」
エムルが割って入る。
「なんだ?」
「ヤマトの南西領主と南東領主の評判は悪いんだ。ヤマトについてからは発言しにくくなるかもしれないから、今言っておきたかったんだよ。」
エムルからまともな意見が出た!
エムルがここまで言うなら相当評判が悪いんだろう。
「分かった。覚えておく。」
うーん。順調だな。海賊も出ないし、順調で退屈だ。
なにも無いままヤマト本土に着いた。
ヤマトの中心部と城は本土の中央にあるらしい。
早速向かいたかったが、もう夕方だ。
俺たちは手配されていた宿に泊まる。
護衛として30人が同行しているが、護衛というのはあくまで名目上の話だ。
実際には戦闘をそこそこできる文官である。
30人という人数も、多すぎず、少なすぎないよう配慮されている。
例えば1000人の護衛を連れて行ったら、ヤマト側に威圧感を与えてしまう。
100人でも微妙だ。
結果30人が良いとなったらしい。
宿に入ると、お菓子が用意されていた。
緑やピンクの花の形を模したきれいな形のお菓子。
間に甘い豆を潰したものが入ったお菓子など色々用意されていた。
ルナは、和菓子について聞きまくる。
「なるほど、これはどら焼きで、こちらが、ようかんですね。この白くて丸いものは何ですか?」
「イチゴ大福です。米で作った生地の中にイチゴと小豆を甘くしたものが入っています。」
ベリーはイチゴ大福を迷わず選び、緑茶を飲んでいた。
「ベリー、お茶の飲み方がきれいだな。」
「そんなことないわよ。普通よ。」
慣れているようにきれいな飲み方だった。
「このグリーンティーは良いね。気に入ったよ。」
エムルは緑茶を気に入ったようだ。
ルナは懸命にメモを取り、エムルはひたすらお茶を飲む。
ベリーはイチゴ大福とお茶にしか手を付けない。
「食事の準備が出来たようです。行きましょう。」
部屋に入ると、魚や貝などの切り身、煮魚、焼きエビ、ご飯が並ぶ。
ベリーは、器用に箸を使って食べる.
ルナとエムルは、ベリーを見ながらすぐにコツを掴む。
俺もベリーを見て真似をする。
「ヤマトの料理か。旨いな。」
油は少な目であっさりしているんだけど、うまみがあって食が進む。
煮物も刺身も違う味わいがある。
「私も好きです。」
「僕もだよ。生の魚を食べるのは初めてだけど、これは帰ってからも食べたいよ。」
ベリーは黙々と食事を続けていた。
次の日、俺たちは中心部へ向かい出発した。
ヤマト本土側の護衛が200人付き、馬を使って移動することになった。
「僕がウインと一緒に馬に乗るよ。」
「いや、一人で乗るぞ。」
意外にもみんな乗馬が出来た。
デイブックにいた頃に学校で習う為、俺とベリーは問題なく乗れたし、エムルとルナは王族のたしなみとして、訓練を受けていたようだ。
「また魔物が居るぞ!」
俺たちはその日の内に3回魔物と遭遇した。
「魔物っていつもこんなにいるのか?」
今のディアブロとアーサーじゃ考えられないほど多くの魔物と遭遇した。
ヤマト側の護衛が答える
「いつもは魔物を討伐しているのですが、今、名前持ちの魔物の相手をしており、手が回らないのです。」
「バグズか?ゴブリンの魔物じゃないか!?」
「いえ、狐の魔物です。」
「ゴブリンの魔物は居ないのか?」
「東の城に現れて逃走した話は聞きますが、今は狐の魔物の方にかかりっきりです。」
うーん、思ったよりゴブリンが暴れてないのか?それとも狐の魔物がやばいのか?
「狐の魔物について教えてほしい。名前とかレベルとか分かるか?」
「名前はキュウビです。レベルは400越え、同族の魔物を生み出すスキルと、同族を支配するスキルを持ちます。」
400越えか、大陸最強の名前持ち、ブルーザに近いレベルだ。バグズのレベルが280だったから、キュウビは手ごわそうだな。
バグズを後回しにするのもわかるが、俺はバグズが気になってしまう。
大陸で、ベアード・メツ・ブルーザと3体の魔物を倒してきたが、バグズが一番厄介に思えた。
ゴブリンはレベルが低く弱いイメージがあったがバグズで考えが一変した。
他の名前持ちは行動パターンに癖はあったが、一定の動きをする為読みやすい。
だが、バグズ率いるゴブリン軍団はまるで人間のように何をするか分からない厄介さを感じる。
こちらの動きに合わせて柔軟に行動を変えてくる。
今も討伐できていない相手なのだ。
だが、キュウビにも目を光らせておく必要があるな。
「詳しいステータスって、城に行ったら教えてもらえると思うか?」
「教えてもらえると思います。秘密にすることでもありませんし。」
「分かった。ありがとう。」
キュウビとバグズ。
2体の名前持ちと、あふれるように出てくる魔物。
状況はあまり良くないように感じる。
城に行ったら色々聞いてみよう。
そんなことを考えつつ、俺たちは城に到着した。
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