残された脅威
俺はベッドで目を覚ましたが、メツ討伐後の記憶が一切ない。
ベッドから起き上がろうとするが、がくんと膝から崩れ落ちるように倒れた。
体が思うように動かない。
そこにセイラが駆けつけた。
「無理をしないでください!」
セイラは俺をベッドに寝かせると、今までの状況を説明した。
「メツを倒した後ファントムが現れてウイン様・エムル様・ルナ様・ベリー様に体当たりをした所まで覚えていますか?」
「覚えてるぞ。」
「その攻撃によって呪いを受けたんです。他の3人はみんなまだ眠っています。」
「命に別状はないか?」
「はい。ただいつ目覚めるかはわかりません。」
「そっか。他の名前持ちの情報はあるか?
「メツを倒した以外は現状維持です。四天王・魔王様・ウォール・メアはいつもの仕事に戻っています。」
俺は自分のステータスを確認した。
どうやら弱体の呪いでステータスを下げられたことで、意識を保つことが出来なかったようだ。今は1%の力も出せない。魔法やポーションによる治療は効かず、自己治癒力に頼るしか回復する方法は無いようだ。
だんだんわかってきたぞ。メツの二段階目はあのファントムだった。恐らく、メツにダメージを与えた上位4人に呪いを与える自爆攻撃だ。
もし少数で挑んでいたら全滅していたな。
俺が早く目覚めた理由は、固有スキルの回復力アップかレベルが高いかどっちかだと思うが、今は良く分からないな。
「俺って何日くらい眠ってたんだろ?」
「3日です。」
俺はその後20日ほど療養して、体力を回復させた。
他の3人も徐々に目覚めだしたが、完全回復まで時間がかかりそうだった。
最後にベリーが目覚めるのを確認した後、俺一人でデイブック外周の探索をすることにした。
デイブック民主国が滅亡したのを聞いて外周探索を決めた。
メツ討伐までと俺たちが寝込んだことで時間を消費した。
3人が完全復活するまで名前持ちとの戦いはしない。
今の内に出来ることをやっておきたかった。
デイブックの未開地外周探索はディアブロ王国の南東部から右回りに行う。
そこに魔王が訪ねてきた。
「ウイン、調子はどうだ?」
「完全回復したぞ。」
「うむ、それは良かった。デイブック外周未開地へ探索に出かけるとのことだが、ウインに部隊を預けたい。」
「他の部隊を引き連れて探索をするのか?俺に部隊の運用は出来ないぞ。」
「大丈夫だ。難しく考える必要はない。ウインが先行して探索を行い、後ろの部隊が魔物を討伐しつつウインの後を追う形にしたいのだ。名前持ち2体を討伐したことで対名前持ちの反省点が分かってきた。ウイン一行、特にウインに負担をかけすぎたのだ。出来る限り他のメンバーのレベルアップを進めてから残りの魔物に挑みたい。」
「俺の方で魔物を全部倒さなくても良くなる感じか。メンバーは決まっているのか?」
「名前持ち討伐の時と近いな。療養組と私は行けないが、他は全員参加だ。」
2000人の精鋭と 四天王・オガ・ウォール・メアか。
「俺は出かけてしまって良いよな?」
「問題無い。連絡係をウォールに一任している。ウインを見つけてくれるだろう。」
「分かった。みんなの様子を見てから出かける。」
エムル・ベリー・ルナはアーサー王国の王城で療養していた。
ルナの部屋に追加でベッドが運ばれ、3人一緒に休んでいるのだ。
俺がルナの部屋に近づくと、メイドが素早くみんなに連絡していた。
すぐに扉があけられ、俺は部屋に入る。
「みんな、調子は大丈夫か?」
「しばらくすれば回復すると思うわ。」
「大丈夫です。時間はかかりますが。」
3人の様子を見ると、前より顔色は良くなっていた。
「僕はウインに看病してもらわないとさみしくて壊れてしまうよ。」
エムルも元気そうだ。
「みんな元気そうだな。俺はこれからデイブック外周を探索してくる。」
「気を付けてくださいね。特にデイブックの南の未開地はバグズが発生した場所です。」
ルナが真剣な表情をした。
「ああ、無理も無茶もしない。」
皆に見送られるた後、俺はデイブック外周未開地に出発した。
◇
デイブック北部
「本当にデイブック・・・・滅亡したんだな。」
家は所々焼け落ち、人の気配が一切なかった。
魔物の数も多い。
そこにウォールがやってきた。
「ウイン!見つけたぞ!」
「ウォール。そっちは順調か?」
「ああ、順調に魔物を討伐している。」
「もし、大丈夫そうなら俺がもっと前に先行しても良いか?」
魔物狩りを後続部隊にお願いして探索を早めに進めたいのだ。
「大丈夫だ。デイブックの中央部辺りまでなら先行しても問題ない。」
当初はデイブックの外周未開地の探索をする予定だったが、旧デイブック内の魔物が思ったより多く、デイブック国内だった場所の魔物狩りも行うことにした。
「分かった。明日から中央に向かう。」
◇
「やっぱり、中央部にも人が居ない。」
良く食べに行った飲食店。
宿屋。
冒険者ギルド。
昔世話になっていた孤児院。
どこにも人が居ない。
その後デイブック南部も人は居らず、デイブックの滅亡を肌で感じることとなった。
デイブック南部まで探索を終えたが、魔物はいるものの、名前持ちは居なかった。
残るはデイブック南部のさらに南の外周未開地だ。
デイブック南部のさらに南。ここには大きい未開地が広がっている。
ゴブリンキングを発生させた上にドラゴンの生息地でもある。
ここが未開地の中で一番広いな。
「ここからが本番だな。」
俺はウォールに連絡をして南の未開地へと向かった。
◇
デイブック南の未開地にはゴブリンの生息地が広がっている。
バグズが居なくなってからも10万以上のゴブリンが生息していた。
繁殖の為の女をすべて使いつぶし、餌を食いつくした。
次はアーサー王国だ。
ゴブリン達は息巻いていた。
「ゲゲゲ!もうドラゴンの縄張り以外、食い物取りつくした!」
「北、向かう!」
「「うぉおおおおおお」」
だが誤算があった。
ウインがそこに迫っていたのだ。
「ぎえええええ!」
「なんだ?」
ゴブリン達は悲鳴を聞いて辺りを警戒した。
「あっちをみろ!たつまきがこっちにくるぞ!」
ゴブリンの元に2つの竜巻が迫っていた。
「「ぎゃあああああ」」
未開地のゴブリンは10万以上の大規模なものだったが、ゴブリンキングが居ない。
統率が取れておらず、若いゴブリンが多数でレベルも低かった。
ゴブリン達は、ウインの各個撃破により、ほとんどの者がウインの姿を認識する前に倒されていった。
密集したゴブリンに対しては魔法で一気に数を減らした後斬り殺し、
散らばったゴブリンは、斥候スキルで一気に距離を詰めて全滅させていく。
さらにウインは固有スキルキャンプの能力により、回復力が高い。
自身の回復力を常時アップする能力に加え、キャンプハウスによる休息の相乗効果で、異常な回復力を持っていた。
地味ではあるものの、ゲリラ戦の連戦という状況でウインは疲弊することなくゴブリンを狩り続けたのだ。
さらに斥候スキルで敵の位置を完全に把握し、常に奇襲する側に回った。
物資をストレージで補給し続け、武具が痛んでも錬金術師のスキルで常に万全の状態を整えてゴブリンを倒し続けるのだ。
一見すると地味なウインのスキルだが、何でもありの遊撃戦。
この状況下でウインを止められる者は居ない。
恐らくこのウインの本当の強みに気づいているのは魔王だけだ。
ゴブリン側に成すすべはなかった。
未開地のゴブリンキングはほぼウイン一人の手によって倒された。
◇
デイブック南部の未開地
「ゴブリンも倒したし、次はドラゴンの生息地だな。」
ドラゴンの生息地には様々な魔物が生息しているが、斥候スキルで確認しただけで200体以上のドラゴンを確認できた。
「これは、1000体以上居るかもな。ただ、小さい個体が多い。」
ウインはドラゴンを中心に討伐していった。
ウォールが来たな。
「ウイン、未開地の状況を知りたい。」
「未開地に強い魔物の反応は無かった。ゴブリンはほぼ倒したし、ドラゴンも倒したぞ。」
ウォールは驚いた表情をしていたが、話を続けた。
「そうか。未開地の魔物討伐は後続部隊に任せてもらって良いか?」
「分かった。俺は魔の森で魔物討伐をしに行く。」
「連絡は任せてくれ。」
こうして順調に未開地の魔物狩りは進み、この大陸に残る脅威は牛の魔物1体だけとなった。
だが残された脅威はあまりにも大きい。
他の脅威が払しょくされた今、残された脅威はこの大陸にいる者の恐怖の対象となった。
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