ルナのスイーツコロシアム
ウインのスパルタ指導によってルナの元気がなくなってきた。
一旦アーサー王国の王都へと戻った。
王都の宿屋に戻ると、店主からルナ宛の手紙を渡された。
「スイーツ対決の審査員について相談があるようです。なにやら困っているようです。」
「あれ?俺手紙で今後の方針を連絡してたはずだけど、うまく伝わらなかったのか?実際に会ってちゃんと話をしたい。」
「分かりました。みんなで出かけましょう。」
円卓会議室
「ご足労いただきありがとうございます。」
ホープ大臣が出迎えた。
「ルナのレベルを上げたいっていう連絡は届いているか?」
「届いています。しかし本当に困っているのです。その連絡をいただく前からルナ様参加の前提でスイーツ大会の場所を押さえ、宣伝もして、国費を使ってしまっているのです。入場料を取れなければ大幅な赤字になってしまいます。今後の内政に影響を与える懸念まであります。ルナ様には国の内政とお菓子業界の発展のため是非ともご参加いただきたいのです!」
「おほん、そこまで内政に影響を及ぼすようでしたら、参加しないわけにはいきませんね。それで今回のテーマは決まってるのですか?」
ルナはスイーツ大会に興味深々だった。
「まだ決まっておりません。」
「俺は帰るぞ。」
「お待ちください!ウイン殿とベリー殿にもご協力をお願いしたいのです。ぜひ一緒にご参加を!」
「分かった。」
「・・・・・わかったわ。」
ベリーは嫌そうな顔をしていた。人前に出るの嫌がるもんな。
「今回のテーマについて、ルナ様から何かありませんか?」
「やりつくした感がありますね。ベリーの好きなお菓子は何ですか?」
「イチゴのショートケーキね。」
ルナはふむふむと頷いた。
「今回はイチゴのショートケーキ対決にしましょう。今期はイチゴの収量が少ないので、イチゴを使う分量に制限を設け、さらに国民のみんなに親しんでもらえると言うテーマも盛り込みましょう。」
「なるほど、分かりました。大会日は15日後の午前10時、コロシアムで行います。前日までには王都にお戻りください。今日はご足労ありがとうございました。」
俺たちは余った時間に魔物狩りをしてスイーツ大会の当日を迎えた。
「人多くね?」
コロシアム内部には1万人の観客が動員され、垂れ幕には目を引くようなキャッチフレーズがずらっと並んでいた。
俺とホープ大臣は観覧席の個室部屋にいた。
コロシアムの中心にはルナ・アーサー王。ベリーが審査員として座り、オーブンなどの機器も運び込まれていた。
「静粛にお願いします!これより、スイーツコロシアムを開催します!」
うぉーーーーーーー!!
大歓声が鳴り響いた。
「クロノが司会者か!」
「彼女は優秀ですよ。」
「司会は私クロノが務めさせていただきます。そして今回の審査員は」
進行は順調に進み、今回のテーマが発表された。
テーマは
・イチゴのショートケーキ
・イチゴの分量を制限
・国民に親しんでもらえる
と、発表されるたびにテーマを書いた大きな垂れ幕が降ろされた。
演出にこだわりを感じた。
「戦いを始める前に、三大スイーツ店からルナ様に謝罪があります。」
3人の男性が、
月のお姫様ケーキ
ムーンプリンセスプリン
スイーツ姫のタルト
をこれ見よがしに見せびらかすように前に出た。
「ルナ様を模したスイーツを無断で販売し。誠に申し訳ありませんでした。」
そういって頭を下げ、ルナに謝罪の為お菓子を渡した。
ルナは渡された月のお姫様ケーキ・ムーンプリンセスプリン・スイーツ姫のタルトを渋い顔で見た。
「まったく!、いけませんよ!いくら商品が売れるからって、勝手にルナ様の許可なくこう言う物を販売するのはいけません!」
クロノがかなり大げさに話す。これも演出だな。
観客から笑い声がどっと起こった。
「ルナ様は許してくださるでしょうか?コメントをお願いします。」
「ゆ、許します。」
あの状況じゃ許すって言うしかないよな。
「次は、王家にきっちり相談してくださいよ!」
3人の男はまた深く謝罪をした。
「それではスイーツコロシアム、スタートです!」
三大スイーツ店のパティシエがショートケーキを作り始めた。
さっき謝罪していたスイーツが売り子によって売られていた。
宣伝うますぎるだろ!クロノも商品を売ることをさりげなく観客に伝えた。
ホープ大臣はその様子を見てにやりと笑ってる。
クロノは審査員全員にコメントを求めたが、ルナの話だけは長かった。
「今回AチームからCチームに分かれて三大スイーツ店の戦いが始まりますが、私が今回注目しているのは元パン屋からスイーツ業界に進出した、Ⅽチームのパン・デ・ケーキ店です。最も規模が小さく、経営体力はありませんが、最近一気に評判を上げています。こういう新星には目を光らせていきたい所です。」
まだ続くのか、コメントが長い。
クロノは客席にもコメントを求めると、今度はこっちに向かってきた。
来るなよ!来るなよ!こっちじゃないよな!
こっちに来た!
クロノは室内に入ると俺の所に最短距離で歩いてきた。
「今後の大会について一言お願いします。」
「今回この大会を開くことが出来たのはルナとホープ大臣、後は裏方の功績が大きいからそういう人の話が聞きたいな。」
「なるほど、ウインさんはどんなお菓子が好きですか?」
こいつ、あっちに行けアピールを無視したぞ!分かっててわざと無視してるな!
「お菓子なら何でも食べるな。ホープ大臣の話は聞かないのか?」
「分かりました。ホープ大臣、お話をお聞かせください。」
「私はあくまで裏方、どうぞウイン殿とお話を続けてください。」
「ホープ大臣!ありがとうございます!ウインさん、今後の方針として国内の魔物狩りを優先するとのことですが、その心をお聞かせください?」
「ん?どっから仕入れたんだ?ほとんど話してないはずだぞ?」
「私もマスコミの端くれです。情報は集めますよ。それで、その心は?」
「ルナのレベル上げだ。」
「なるほど、目先の利益よりも国の長期的な発展を見ていると、そういう解釈でよろしいですか?」
「そこまで言ってないけどな!」
ウインとクロノの話は魔道マイクで拡散され、観客の受けも良かった。
「おい!お菓子作りが終わるぞ!クロノ!クッキングの実況してないよな?」
「クッキングなんて飾りです!要は食べた時の評価が大事なんですよ!」
「ここでクッキングすることを全否定する発言だぞ!良くない!そういう発言はだめだわ!後早く戻れって!」
審査が始まった。
Aチームは飴細工やチョコレートをふんだんに使用した豪華なデザイン。
Bチームは上のイチゴの飾りに目を引いた。
ⅭCチームは、地味な見た目だった。
俺の所にも同じものが届いたが、Aチームのケーキが一番おいしかった。
「審議が終わりました。結論から言います。優勝はCチームです!」
だがAチームとBチームは納得できない様子だった。
「俺たちのケーキの方が旨いに決まってる!」
「あんな地味なケーキには負けない!」
「お静かにお願いします!ルナ様、続きをどうぞ!」
「確かにAチームのケーキはおいしかったです。味だけで言えば一番でしょう。Cチームの見た目は確かに地味です。ですが今回のテーマを思い出してほしいのです。」
皆が一斉に垂れ幕を見た。
・イチゴのショートケーキ
・イチゴの分量を制限
・国民に親しんでもらえる
「Aチームにお聞きします。このケーキの値段はいくらですか?その値段は国民の皆さんに親しんでもらえる値段ですか?」
「そ、それは・・・」
言葉に詰まって何も言えなくなっていた。
「Aチームの技量は素晴らしかったです。ですが今回のテーマは国民に親しんでもらえるという物でした。この大会だけでなく普段のケーキ作りでも同じです。私は国民の皆さん全員が普通にお菓子を食べられる国にしたいと思っています。私からのお願いですが、Aチームはそのことを頭に入れて日々のケーキ作りを行ってほしいのです。素晴らしい技量を持った皆さんに期待しています。」
Aチームのパティシエは倒れこむように膝をつき、叫びながら両手で地面を何度も叩いた。
「うぉーーーーーー!!!。」
そして立ち上がって涙を流しながら言った。
「ルナ様の言う通りです!私は、もう一度原点に立ち返り、初心を忘れずにケーキを作ります!」
観客の中にはもらい泣きをする者もいた。
「期待しています。さて、Bチームですが、確かにCチームよりきれいな見た目です。ですが、ショートケーキの主役は上に乗ったイチゴですか?」
「そ、それは、違います。」
「そうです。主役はケーキです。ショートケーキはスポンジの間にイチゴ。生クリームがはさまりこの3つが口の中で混ざり合う瞬間こそがおいしさの要と言えます。Bチームは間に挟むべきイチゴを飾りに使ったのです。今期はイチゴの収量が少なく、十分なイチゴを確保できませんでした。こういう時でも工夫しておいしいお菓子を作ってほしいのです。もちろんBチームの飾りの方が見た目は良いので最初は売れるでしょう。ですがしばらくするとみんなが気付きます。Cチームのケーキの方がおいしいと。私は皆さんに長く愛されるお菓子を作ってほしいと思っています。」
Bチームは悔しそうに黙り込んでいた。
「Cチームの皆さん、おめでとうございます。今回は皆さんの勝ちです。」
「今回のスイーツコロシアムはCチームの優勝です。これにて閉幕とします。皆さんありがとうございました!」
・・・・・・
何なんだこの勝負。みんなガチじゃないか。
観客席で泣いてる人もいるし、
娯楽だと思って参加したけど、思ってたのと違うな。
しかし、ルナ、さすがスイーツ姫!
スイーツ道に関しては威厳すら感じる。
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