アーサー王国の人手不足
ウイン一行は、孤児院訪問を終え、アーサー王国へと向かう。
「エムル、孤児院の担当から外れた方が良いぞ。子供の教育に良くない。」
「僕はこう見えて子供好きなんだ。降りる気はないよ。」
「エムルには向かないわよ。」
「今に対策を練る必要があるな。」
「ひどいよ!僕は子供を救おうと頑張っているんだ!」
そこじゃない。エムル、問題はそこじゃないんだ。
エムルの思想を真に受けた子供が大人になることが問題なんだ。
「エムルに言っても無駄だな。後で魔王に相談する。王都が見えてきたぞ。」
俺たちは一直線に王城に入場する。
ウイン一行とアーサー王、ホープ大臣で夕食を食べながら話を始める。
ホープ大臣は今の経済問題に触れた。
「やはり、我が国の人手不足は深刻です。その影響で、デイブック民主国の近くに住む国民を北西部に移民させるのに手間取っております。」
アーサー王国は、デイブック民主国に魔物をなすりつけられてきた。
対策としてデイブックに近い南東部に住む国民を移民させたいのだ。
経済的な土台は整ってきたが、今度は実行に移すための人手が足りない。
「この国にいる盗賊を捕まえて強制労働させたら駄目か?」
「それには2つ問題があります。1つは、盗賊を生きたまま捕らえるには、多大な人員を割かなければなりません。もう1つが、国民の批判です。盗賊とはいえ、人を強制的に働かせるとなると、国民の反対が予想されます。」
「盗賊を生きたまま倒すのは俺がやっても良いか?ただ、運んだりするのに人手は必要になるけど?」
「できると思います。ある程度なら人員も充てられます。」
「もう一つは、国民の反対だけど、俺が怒り狂って国に圧力をかけたことにして捕らえた盗賊を強制労働させる方向で進められないか?何かあったら俺のせいにして俺が国を出れば、王国側に被害は出ないと思うし、ホープ大臣ならうまく宣伝できるんじゃないか?今は緊急事態だとか色々理由は作れそうだし。」
「うまくいく可能性はあります。しかし失敗した場合ウイン殿に被害が及びます。」
「ホープ大臣のことを信頼しているから、成功しそうな気がする。失敗しても大丈夫だからやりたいぞ。」
「そこまで私のことを買ってくださるとは!」
ホープ大臣はウインの言葉に涙をうかべた。
今まで黙っていたアーサー王が口を開いた。
「ルナたんはどう思う?」
「私は、やってみる価値はあると思います。ただ、責任はすべて私が」
「駄目だ!王族に被害が来るのは無しだ!今国の内部で対立するのはまずい!」
俺は即座に止めた。国をまとめるべき王族に批判の矛先が向くと、国の改革自体が止まる可能性があるのだ。
「では、失敗したら私を連れて行ってください!」
「国を出るといっても、数年程度したら帰ってこれると思うぞ。」
「数年程度なら、私がついて行っても問題ありませんよね?」
「うーん。」
「ウインは数年程度と言いました。その程度の期間なら私がいなくても大丈夫ですよね?」
俺は言葉に詰まる。
「はっはっは!ウイン殿の負けだな!もしウイン殿に批判が来るようなら、ルナたんをつれて国を出てほしい。このくらいのリスクはとらせてほしい。」
「わかった。」
「では早速作戦会議ですな!公式には、ウイン殿はどのような理由で盗賊を捕まえたいのですかな?」
「公式には、か・・・理由は」
①盗賊がまじめに働いている人間から奪って得をするのが許せない
②盗賊のせいで街道の整備に兵を多く配置する必要があり、その分魔物狩りが遅れて人が死ぬ
③今は国の危機で緊急事態だ。盗賊を野放しにはできない。
④盗賊は今まで奪い続けてきたからその分を働いて返してほしい。
「なるほど、この4つで良いですな?」
「思いついたのはこれくらい、あ!このまま盗賊を野放しにして、困っている人をほおっておくのは神に対して顔向けできないってのも入れてほしい。」
「なるほど、この国は信心深い者が多いですからな!」
盗賊の強制労働に反対が出そうなのは、宗教上の理由が大きかった。
信仰心の強い者は神でもない人間が人を家畜のように扱うことに抵抗感を覚えがちだ。
「それでは、ウイン殿以外の皆様には、宣伝の協力をお願いします。」
こうして俺は、30人の兵士を引き連れて盗賊狩りへと向かった。
◇
街道から数キロ先の洞窟へとたどり着いた。
「56人いるな。俺が無力化してくるから、そのまま待機しててくれ。」
「わかりました!」
兵士は元気よく敬礼をした。
うん、声が少し大きいな。
「出来れば奇襲したいから、静かに頼む。」
兵士は黙ってうなずく。
「普通に家に帰る時のように洞窟に入っていったな。なんか不安になるぞ。」
兵士の間に不安が漏れる。
「英雄ウイン殿だから大丈夫だ!」
リーダー格の兵士が不安を消すように落ち着かせた。
兵士たちはずっとそわそわしていた。
5分後
「終わったぞ。運ぶのはお願いします。」
ウインが兵士に頭を下げる。
「え?終わったんですか?」
「もっと早くした方がよかったかな?」
「逆ですよ!早すぎるんです!」
「次に行きたいんだけど、何人かついてこれるか?」
「無理です!この盗賊を連れて帰るだけでいっぱいいっぱいです!」
ウイン「そっかー。王都からまた兵士をだしてもらうか。ついてきてくれて助かった。それじゃ!」
◇
王都に戻ると、アーサー王、ウォールと面会出来た。
「次の盗賊のアジトに行きたいから兵士を出してほしい。」
「わかった。次は100人ほどだそう!」
「すまない。今から盗賊のアジトに行きたい。」
「30分ほど待ってくれ!」
しばらくすると、
ウインと兵士100人は盗賊狩りへと向かった。
「兵士を追加で用意する。」
王がウォールに命じた。
「そうですね。まさかここまで速く進むとは・・・」
「10日もかからず盗賊が居なくなるな。」
「はい。追加の兵士は300人ほどで良いですか?」
「いや、1000だ」
「それだと、一時的に人不足になりますが?」
「かまわん。ウイン殿の時間の方が大切だ。」
王の言葉にウォールは納得する。
ウインが居なければ出来ないことは早めにやっておいた方が良い。
皆が出来ることは後回しでかまわないのだ。
「わかりました。」
◇
ウインの活躍により、7日で盗賊は一掃された。
約1000人の盗賊を捕まえたのだ。
ホープ大臣「ウイン殿、ありがとうございます。問題なく盗賊を強制労働させられます」
ホープ大臣は頭を下げた。
みんなの活躍により、盗賊の強制労働に批判の声はあまり上がらなかった。
特にホープ大臣は見えない所で苦労があったと思う。
だからそこまで頭を下げなくてもいいと思うが、この話を切り出すと話が終わらなくなる気がした。黙っていよう。
「これで人不足は解決したか?」
「いえ、まだまだ足りません。もちろんウイン殿の活躍によって街道に配備した兵の効率化や盗賊の労働力アップの効果はあります。ですが人はまだまだ足りないのです。」
「どのくらい必要なんだろ?」
ホープ大臣「欲を言えば今の人口を2倍にしたいです。」
今のアーサー王国の人口は約9万。
あと9万必要ということになる。
「9万、きびしいな。」
「かなり厳しいです。ですが、ウイン殿のおかげで我々は大きく助けられています。」
「後は、ディアブロ王国の冒険者にこっちで働いてもらうのと、デイブックから人を引っ張ってくるくらいしか思いつかないな。ベリーやルナ、エムルに協力してもらえればある程度はいける気がする。」
「まずは、ディアブロ王国の冒険者に働いてもらえるようこちらの方で進めます。」
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