スタンピード③
魔王と四天王の姿がそこにはあった。
「セイラ、アカ、壁の外まで押し返せ!」
セイラとアカがウォールの周りにいるゴブリンを瞬殺する。
ウォールは地面に倒れこんだ。
必死で呼吸をする。生き残った?
「しばらく動けないな。」
セイラは服を脱ぎ捨て青竜へと変身し、空中からコールドブレスを連発した。
「影の騎士!」
アカの左右に2体の黒いアカが出てきた。
アカはセイラが打ち漏らした敵を倒しつつ城門の外へと向かって進みだした。
「防壁の外の敵を討つ!私の攻撃後、チョコとバンピーで外の敵を仕留めろ!」
「うん。」
「わかったよ。」
魔王・チョコ・バンピーはアーサー王の居る南門の上に移動した。
「魔王ガルゴン殿!」
「挨拶は後で、攻撃を始める!」
「マジックタイム《魔法詠唱を一定時間不要にする》!ブラックホール!」
魔王の両手から2つの黒い球体が発生し、防壁の外に居るゴブリンへと放たれた。
「2重詠唱か!」
2つの黒球が、ゴブリン達を吸い込み、一発だけで数千のゴブリンが倒された。
「MP0!」
魔王ガルゴンの固有スキルで、次に使う魔法のMP消費を無しにするスキルだ。使うのは当然。
「ブラックホール!」
3発のブラックホールで、万を超えるゴブリンを倒したのだ。
「チョコ、バンピー後は頼む!」
そう言うと魔王はMPポーションを飲んだ。
「ライトニング!」
バンピーは雷の魔法でゴブリンをまとめて倒していった。
「マジックアロー!」
チョコは魔法で矢を作り確実にゴブリンを貫いた。
「すごい!これならいけるぞ!」
兵士の士気が戻ってきた。
「今のうちに立て直せ!」
「こうもりの群れ!」
「アローラッシュ!」
バンピーは雷で出来たこうもりを1000体以上飛ばし、ゴブリンを攻撃した。
チョコは矢を高速で作り、矢を連射した。
◇
セイラとアカは、防壁内部の敵を倒し、南門の外に押し返した。
「早く!南門をふさぐんだぞ!」
土魔法で南門がふさがれていくが、兵士の限界は近く、ポーションやMPポーションのストックも切れていた。
「大変です!南門の左右から、ゴブリンたちが進行してきます。」
南門の進行が遅れたため、ゴブリンたちは再度はしごによる防壁の制圧を試みたのだ。
セイラとアカは、左右に分かれてゴブリンの進行を止めに向かった。
セイラは順調にゴブリンを倒していたが、コールドブレスを撃つMPが切れた。
アカも、影の騎士2体の内一体がやられた。
セイラもアカも順調にゴブリンを倒していったが、じわじわと追い詰められていく。
セイラの変身が解け、アカの影の騎士の残り一体もやられたのだ。
「まずいわね!」
「このままじゃやられるぞ!」
◇
バンピーとチョコは、限界を迎えた。
MP切れでどちらも倒れる。
ゴブリンキングは、攻撃が弱まったタイミングで叫び声をあげた。
「ぐうぉおおおおおおおおおお!!!」
ゴブリン達全員が活性化し、一気に攻め落としに来た。
ただ、ゴブリンキングと精鋭は動かない。
ふさいだ南門が一気に破壊され、ゴブリンが城壁内へとなだれ込んだ。
「く、ブラックホール!」
城門の外に殺到するゴブリンにブラックホールを撃つ。
かなりのゴブリンを仕留めたが、魔王が膝をついた。
「もう限界だ。MPがない。」
「この国はもう終わりなのか!」
「そんな!あんな数のゴブリン、もう無理だ!」
◇
ゴブリンキング精鋭隊
ゴブリンがやかましくしゃべりだした。
「キング、突撃!」
「たたかう、おれたたかう」
「おんな、うばう」
「待て!あっちがすべての切り札を使い切ってからだ!後少し待て!」
ゴブリンキングは慎重に見極めていた。相手の切り札を使い切ったかどうかを。
今回の戦いに違和感を感じていた。
やつら、切り札を使うタイミングがおかしい。危なく特級魔法の餌食になるところだった。
俺が向こうの立場ならブラックホールをすぐに使っている。
あれを食らったら、強い者以外殺される。
慎重に見極めてやる!
実際には魔王達が遅れて到着した結果、ブラックホールを撃つタイミングが遅れただけなのだが、そのことによってゴブリンキングを動揺させていた。
◇
ウォールはまた絶望していた。あの数のゴブリン、我ら全員が命を捨てても守り切れない。
「今どんな状況?」
「ウイン!」
「とりあえず、倒せれば壁を壊しても良いよな?」
「出来るのか?」
「乱戦になってるところは無視して、ゴブリンだけの所を潰すなら8割くらい倒せると思う。」
「やってくれ!」
「壁がどんなに壊れても良いよな?」
「俺が責任を持つ!やってくれ!」
「分かった。」
「サイクロン!」
ウインは2発のサイクロンを同時に撃った。2つのサイクロンはゴブリンを狙うようになぎ倒して進み、アーサー王たちが居る城門前で消えた。
「2重詠唱か!しかもメアのサイクロンの何倍も強い!」
正確には二重詠唱ではなかった。
ウインはオールラウンダーのレベルが50に上がり、【マルチタスク】と言うスキルを覚えていた。2重詠唱は魔法のみを同時に2つ使えるスキルだが、ウインの【マルチタスク】は、魔法だけではなくスキルも込みで2つ同時に使うことが出来た。
ウインは素早く城門の外に出ると、両手を広げ、左右にサイクロンの魔法を撃った。
防壁のギリギリをサイクロンがなぎ倒した。
これによりゴブリンが城壁を登るためのはしごも飛ばされた。
「ウイン殿の二重詠唱か!」
「今のうちに防壁のゴブリンを倒せ!巻き返せるぞ!」
ウインはゴブリンの集団に向かってハイウインドを撃ち、ゴブリンの集団の中心に突っ込んだ。
「挑発!ハイウインド!」
アーサー王は驚愕した。
「あそこで挑発を使うのか!死にに行くようなものだ!」
だが、ウイン殿なら。
きっと大丈夫だ。大丈夫であってくれ!
アーサー王は神に祈った。
ウインはショートソードで近づくゴブリンを斬りながら、ハイウインドを連発していった。
そして、ゴブリンが集まってきたタイミングで、
「威圧!ハイウインド!」
一気に近くにいるゴブリンの動きが一瞬だけ止まった。
魔物に威圧は効きにくいのだ。だがその一瞬の隙で十分だった。
ウインは剣をしまい、両手を広げて両手からハイウインドを連発し、一回転しながら周りのゴブリンを一掃した。
ウインは、あり得ないほど魔法を連発していたが、途中から魔法を使わなくなった。
城門の前に戻ると、ショートソードを構えて敵を待つ姿勢を見せた。
「ぐうぉおおおおおおおおおお!!!」
ゴブリンキングが叫ぶと、残りのゴブリンがウインに向かって殺到した。
ウインはすべての攻撃をかわし、剣の間合いに近づく者すべてを斬り倒していった。
「すごい!あれが英雄ウイン!」
「絶望を奇跡に変えた!」
ウインが戦闘を開始してから3時間以上が経過していた。
「ぐうぉおおおおおおおおおお!!!」
ゴブリンキングが叫び声をあげた。
「まさか!ゴブリンキングが動くのか!」
「まずい!精鋭部隊が来られたら!」
「ん?ゴブリンが下がっていく?何かの作戦か?」
・・・・・・・・
「撤退したんだ!英雄ウインに恐れをなしたんだ!」
「そうだ!ウインのおかげだ!」
「またウインが俺たちを助けてくれたんだ!」
ゴブリンキング率いるゴブリン軍団は撤退していった。
アーサー王と魔王は、南門の上からただウインの戦いを見ていた。
「さすがだな。ウイン。」
魔王は感心していた。
ウインの戦闘を初めて見たが、圧倒的な力だ。
「ウイン殿が来てくれて我らは救われた。」
「やはりウインは英雄だな。」
兵士たちが騒ぐ。
アーサー王はほっと安堵した。
「うむ、二か国間の友好の懸け橋になり、ドラゴンから町を救い、交易路の建設に尽力し、今はこの国を救った!真の英雄だ!」
ウインは壁を蹴って魔王たちが居る城壁の上まで登ってきた。
「負傷者を集めてくれ!エリアハイヒールを3回だけ使える!」
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