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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十九話「世界は動く、まだ見ぬ先へ」

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 周介の目に写ったのは変貌状態の猛と、黒い毛を大量に生やしているゆうたの姿だった。


 最早大量の毛のせいでゆうたの体は見えないほどだ。さらに言えばその黒い毛は未だ伸び続けている。そして辺りを触手のように探り回っている。


 一部の黒い毛が先端からは炎をまき散らし、その炎を噴出する毛が水を噴出すホースのように振り回されて岩肌に叩きつけられている。


 先程の衝撃音はこれであると理解し、周介は猛の後ろに跳躍する。


「猛、どういう状況だ?」


「なんだよ見に来たのか?ちゃんと怪我はさせてねえって」


「それは良いけど……なんだよあれ」


 周介の視線の先にいる黒い毛の塊。炎を噴出する毛。あの時見た能力とほぼ同じだ。あの時は毛の先端が熱を持っているだけだったが、今は炎を噴出するまでに至っている。おそらくは本来あのような能力だったのを、あの時は操れなかったか、あるいは炎が出ないように我慢していたのだろう。周りに誰もいない、暴れても大丈夫だからと、威力を押さえずにまずは全力で能力を使っているようにも見えた。


「あいつの能力、思ってたよりもいい能力だ。基本は変貌型だ。俺の初期の頃と似てる。少し落ち着くと、あの毛が自分の体の周りに集中してくるはずだ」


「変貌型って、初期はあんな感じなのか?」


「人にもよるけどな。召喚型もそうだけど、能力をある程度コントロールできるまで形は定まらないんだ。最初からある程度特色はあるんだけどよ。毛があるタイプはあぁいう風に毛がとにかく生えまくっていくことが多い」


 周介は変貌能力ではないためにそういったことはわからないが、どうやら変貌能力によって作り出される肉体はある程度形成するまでに時間がかかるらしい。ゆうたは今その状態なのだろう。


「あの炎はどうだ?」


「ん、変貌型に追加して発現系の能力も持ってるみたいなんだけど、あの炎、出してる部分に推進力が出てるみたいだな。ロケット噴射みたいな感じか?あれコントロールできれば相当強いぜ。問題は、どれくらいの強化がかかってるかって話だけど……」


 変貌能力の真髄はその強化にある。単純な力や耐久力、それらが一体どれくらい上がるかによってその性能が決まるといっても過言ではない。


 だが猛は強化に関してはあまり期待できていないのか首を小さく横に振っていた。


「大将もわかってると思うけどよ、能力は単純であればあるほど出力も絞られて強くなる。あいつの場合は変貌、強化、発現、三つに力を振り分けることになるから、強化の方は俺ら程の力は得られないと思う」


 能力はマナを消費しようとする人間の代謝のようなものだという。人間が体の中に入れていられるマナの量には個人差はあれど限界がある。


 ゆうたがどれほどのマナを内包できるのかは不明だが、そのマナを三つの系統の能力に振り分けていることになる。


 十ある出力のうち、強化、変貌、発現の三つに振り分けるのと、大門のように強化のみに十振り分けるのとでは得られる強化の割合が変わってくる。


 だがそれでも変貌能力であることに変わりはない。周介よりは高い戦闘能力を得られることだろう。


「なぁ大将、あいつ、俺が鍛えてもいいか?」


「……理由は?」


「単純に似たタイプだからってのもある。あと、あいつが望めばの話だけど、俺の後釜にしようと思ってよ」


 後釜。その言葉の意味が周介には理解できなかった。そして周介が怪訝な顔をしているのを見てそれを察したのか猛は頭をわずかに掻きながらため息を吐く。


「俺は一年で……場合によっちゃもうちょっと長引くかもしれねえけど、そしたらラビット隊からは抜ける。俺は大太刀部隊だ。だから、俺が抜けた後の穴を埋める役として、あいつを鍛える」


「……やっぱ小太刀部隊は嫌か?」


「……いや、嫌じゃねえ。小太刀部隊だろうと歯ごたえがある実戦は多いし、何より……ラビット隊の仕事が大事だってこともわかった。すごいってこともわかってる。けど、やっぱり俺は大太刀部隊の人間だ。あんたら小太刀の人間を守るのが俺の仕事だ。だから、俺はいつか大太刀に戻る」


 それは小太刀部隊の仕事の過酷さを理解し、小太刀部隊を尊重して、そのうえで自分が大太刀部隊の人間であると自覚したが故の結論だった。


「一年で戻らなくてもいいのか?」


「おう。少なくとも大太刀部隊に戻ってもしばらくは暇になっちまうだろうからな。ある程度落ち着くまでは、大将のところで世話になる。ダメか?」


「いいや?存分に使い潰してやるから安心しろ。頼りにしてる」


 そう言って背中を叩かれると、猛は少しだけ笑った気がした。変貌状態であるために周介にはその表情はわからないが。


「それで、ゆうたを鍛えるって?」


「あぁ。あいつの能力がどの程度か、まだ全容はわからねえけど能力的にも鍛えてやればラビット隊向きの能力になるはずだ。俺よりも耐久力は減るかもしれねえけど……あの能力の感じを見る限り、うまくやればいい能力者になるぜ」


「……鍛えるっていっても、限度は弁えろよ?あの子たちは……」


「わかってる。けどよ、あいつは根性あるよ。少なくとも他の三人よりずっと」


 猛はどうやら随分とゆうたを高く評価しているようだった。それがなぜなのかは不明だが、少なくとも猛はどこかの鬼のように無理はしないだろうと周介も判断していた。


 子供たちの訓練は比較的順調といってもよかった。


 能力を発現してその能力を最低限使ったことがあるからか、少なくとも周介の時よりはスムーズに能力の操作までたどり着けているようである。


 特にこの中で最も能力の操作が行えているのはみすずだ。ドクの指導の下、どんどんと能力の扱い方を覚えてきている。


 次点でゆうただ。猛の指導によってどんどんと能力を扱っている。当然その分周りの被害が増しているが、それを見越したうえでのこの場所での訓練だ。


 自分の時と比べると随分と優秀だなと周介は少しだけ悔しくなっていた。


 とはいえ子供の学習能力というのはそれだけ高い。少し教えただけで水を吸い込むスポンジの如く自分のものとしてしまうのだ。


 子供の成長とは恐ろしいものだと周介は実感する。とはいえ、他の大人たちからすれば周介たちに対しても同様の感想を抱かれてしまっているのかもしれないが。


「いやぁみんな優秀だね。この分なら一カ月くらいで普通に能力をコントロールできるんじゃないかな?」


 そういったのは大門だった。おそらく自分の時と比べているのだろうか、少しだけ複雑な表情をしていることに周介は気づいた。


「大門さんの時はどのくらい時間がかかったんですか?」


「いやもう大変だったよ。僕の場合出力が強いから相手をできる人も限られてたからね。それに、言っちゃなんだけどあの子たちは何度か能力を自分で使ってたからなのかな?初期の能力使用の教育が必要ない分やっぱり早いよ」


 それはつまり六郷会の人間に何度か使わされていた可能性があるということでもある。


 特にゆうたは能力に関して即座に使えるような状態にあった。どういうことをしていたのかは周介も知らないが、おそらくあまり面白い話ではないだろう。


 自分の弟よりも小さな子供たちがそのようなことをさせられていたというのはいい気分ではない。


 これからは少しでもマシな方向に進むことを祈るばかりである。


「あぁそう言えば周介君、伝えるのを忘れてた。今度ちょっと出張に行ってほしいんだよね」


 出張。今まであまり聞かなかった単語に周介は眉を顰める。


「なんですか出張って。どっかに行ってほしいなら仕事っていうべきでは?」


「あぁごめん違うんだよ。今回は装備の確認とかそう言うことじゃないんだ。ちゃんと公共の交通機関を使っていってもらう正規の出張だよ」


 つまり今までの仕事は正規の出張扱いにはなっていなかったのかと周介は顔をしかめてしまう。


 というより、わざわざ普通の公共交通機関を使って移動しなければいけない理由とは何だろうかと小首をかしげてしまう。


「今度はどこに行くんですか?宇宙進出を本格的に考えてNASAにでも訓練に行けと?」


「あぁいいね。それはすごく夢のある仕事だ。けどそうじゃないんだよね。周介君の右目の検査のためだ。精密検査は行ったけど、それはあくまで一般的医学に基づいたものだったから、次は能力的な検査をしてもらいたいんだよ」


 能力的な検査と言われても周介はピンとこなかった。というかどんな検査をするのかが想像できなかった。


「能力の検査って何するんですか?」


「専門的な話になるから少しかいつまんでの説明で良ければ……簡単に言えばエイド隊が能力を使って治療してるでしょ?あれは基本的に能力と医学を組み合わせたものだってのはわかるよね?この間君は医学的な検査だけをしたから、次は能力と医学を組み合わせた専門の検査をしてもらいたいんだ」


「……エイド隊の検査バージョンみたいな感じですか?」


「まぁざっくり言っちゃうとそういうことだね。能力の性質やらを調査している研究所というか医療施設というか……そういうのがあってさ、そこに行ってきてほしい」


 簡単に言ってくれるなと周介は少しだけ呆れるが、自分の右目のことや体のことに関して不安がないわけではない。


 過剰供給状態を発動できるようになって、どれほど体に影響があるのか自分ではわからないというのが正直なところだ。


 右目から見た時はところどころ蒼い靄が見えるだけでそれ以外は大した変化はないが、それがどのような問題を内包しているかもわからない。


 そういう意味では一度本格的な、専門家の検査が必要であるということは周介も納得できる話だった。


「行くのは良いですけど、それってどこです?月にあるとか言いませんよね?」


「いいね月の施設。いつか実現したら行ってみたいところだけど月じゃないね。今回行ってもらうのはドイツさ」


 ドイツ。さも当たり前のように海外に行けと言われるのはもういいとしても、正規の手段で向かうというのであれば周介としては少し気がかりがある。


「あの、正規の出張で、しかも公共交通機関使うってことはパスポート必要ですよね?前の時は帳尻合わせるとかなんとか言ってましたけど」


「あぁそのあたりは大丈夫。君の、というか君の部隊の人間のパスポートはすでに用意してあるから」


 本人の了承なしにそういった正式書類を作ってもいいものだろうかと周介は呆れてしまうが、周介たちがいる場所はそういう組織だということを再認識させられる。


 というか本当にいつの間に用意したのかと周介はため息をついてしまっていた。確かに海外で行動しやすくなるかもしれないがそれにしたってもう少しやり方を考えてほしいとも思ってしまう。とはいえ、そういった事務手続きが面倒なのも事実であるため、助かったといえば助かったのだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] ど、どこかの鬼(○川)さん……
[一言] パスポートに関してはラビット隊が地球1周の輸送でも問題なくできるってなった時点で用意はされてたんじゃないかな......
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