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「さて、今日の訓練……もとい試験はこれで終了。みんな疲れているだろうから休んでほしい。明日の訓練はハードだよ?どの部隊にとってもね。それじゃあ解散」
ドクの言葉によってその場の全員、怪我人役だったものも含めて解散していく。
まだ日も高く、ここからしっかり休息を取れば明日に疲れを残すこともないだろうとそれぞれが休息を取るべく宿舎などに向かう中、周介はその場にいるドクの前にやってきていた。
「ドク、一ついいですか?」
「……今回の試験のことに関して以外の話で頼むよ?僕と話すこと自体、あんまりいい事じゃないからね」
「わかってます。さっきの六割の話ですけど……俺や知与、言音なんかは今年能力者になりました。そういう人間も中堅扱いしていいんですか?」
ラビット隊に所属している人間の半分は今年能力者になったものだ。瞳、玄徳、猛は既に何年も前から能力を保有していたが周介たちは違う。
今年能力者になり、今年組織に入った。いわば新入りに当たる。そんな人間が中堅と同格扱いされていることに疑問を抱いたのである。
「なるほど……周介君としては、まだまだ中堅以下っていう気持ちなのかな?」
「正直に言えば……知与の能力も言音の能力もすごいものだっていうのはわかりますし、何よりあの二人は能力を使いこなしてる。知与に至っては、その成長速度だってすごい。けど……」
「……中堅と呼ばれるハードルが低いんじゃないかって思ってるのかな?」
「低いとは思いません。ドクの考えてる中堅っていうのの中に、俺が含まれてるのが、少し」
「不服、というよりは過大評価なんじゃないかって考えているわけだ」
ドクの言葉に周介は頷く。周介はそこまで自己評価が高い方ではない。周りに非常に強い人間や段違いにハイレベルな人間がいるせいでもある。何よりその能力が少々特殊過ぎるというのも理由の一つだろう。だがそれらを踏まえても周介は自分自身の評価は低い。過小評価と言われても違和感はない程度には。
「組織の体制上、どうしたって現場経験を積める人間は限られる。条件さえそろえば現場に出やすい小太刀部隊の中でも、君達ラビット隊の出撃頻度は組織内でも上位に入る。たとえ短い時間だとしてもその経験値は決して中堅クラスに見劣りしないと思うよ」
「実戦経験が豊富であれば、誰でも中堅になれるってことですか?」
「言い方が少し大雑把だけどね。訓練は大事さ。けど、訓練と実戦を繰り返し行う場合と、訓練だけを行ってきた場合では、どうしても練度に差が出るものなんだ。君も大太刀部隊の人たちと訓練してきて、それが何となくわかってるんじゃないのかな?」
周介は返答に困ってしまった。確かに思い当たる節があったからである。
大太刀部隊の人間は基本的に戦闘訓練を主として日々訓練を行っている。周介が訓練の相手となっているのは大太刀部隊の中でも未熟なものが多かった。それは単純に能力を扱い切れていないという話だけではなくて、現場の出撃回数が少ないものという意味も含まれる。
そういう中で出撃回数が多い者ほど、厄介だったのを覚えていた。
訓練が必要なのは当たり前のことだ。だが訓練だけでは強くはなれない。もちろん訓練をすれば強くなれるのは間違いないのだが、越えられない一線というものがあることを周介は身をもって知っていた。
「君が能力者になって日が浅いことはみんなが知っている。だけどね、君が実戦を何度も経験して、たくさん訓練してきたことを知っている人もたくさんいる。君は過大評価というように感じているかもしれないけれど、僕はそうは思わない。それに今回選抜試験に参加している人たちも、同じように感じている人は多いと思うよ?」
「そうですか?あんまりそんな感じはしないですけど」
「今まではそうだったかもしれないね。けど、今回の試験で君に対する考えは大きく変わっているはずだよ」
ドクの言葉には確信めいたものがあった。いったい何をどのように考えたらそのような結論になるのか周介には理解できなかった。
「まぁ、結果は後からついてくるさ。もっとも、それだってそう遠い話じゃない。君のしてきた努力は間違いなく実をつけているよ。懐かしいね、最初はローラースケートだって苦労していたのに」
「それは能力を身に着けたばっかりの頃の話でしょう?二月とか、三月とか……」
そう、まだ二月から一年も経っていないのだ。一年も経っていないのに周介はここに立っている。
それが過大評価と言われれば、確かにまだ早すぎるようにも感じられるだろう。
だが周介と対峙したものや、周介の動きを見た者は早すぎるということはないとそう確信する。
特に周介と一緒に行動したものは、そう感じるのだ。
「僕が言ったことを覚えているかい?最初から何もかもできるような人はいないって」
「……そうでしたっけ?」
「酷いなぁ。できることを増やしていく。君は一つずつそれをやってきた。この世界のすべての機械を操ることができる。僕がそういったことを覚えているかな?」
「……そんなこと言ってましたっけ……?」
「言ったよ。僕との会話ももうちょっと覚えててほしいなぁ。あの時の君は無理だって言ったけど、今はどうだい?できるような気がしてるんじゃないかな?」
ドクの言葉を否定することはできなかった。確かに周介はその気になればそのあたりの機械は操れてしまう。操れるようになった。それは二月の頃の周介ならば考えられないようなことだったにもかかわらずだ。
「君は君が思っている以上に頑張ったんだよ。もう少し自分の頑張りを認めてあげてもいいんじゃないかな?」
そう言ってドクは笑いながらその場を去っていく。自信を持てと言われているようにも感じられる言葉選びだった。周介もそれを理解している。だがどうにも、その考えを素直に受け止めることはできなかった。




