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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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 とりあえず周介は自分のクラスである3組に移動していた。寮生は全員バラバラのクラスであるために仕方なく、一人で3組の扉を開ける。


 僅かに話声が聞こえていた教室の扉が開くと、会話が一時的に止まり教室の中にいた何人かの視線が周介の方に向く。そして何事もなかったかのように元の少しだけ声の聞こえる教室内になっていた。


 教室内に用意された机と椅子は全部で四十。最初ということもあり、五十音順に席に着くようになっているらしかった。


 周介の苗字は百枝であるためにかなり後半だ。与えられた椅子に座り、周介はとりあえず自分の机に自分の小物を入れていくことにした。


 その中で、白部という少女がいないか確認しようとしていた。


 白部舞。それが周介と一緒のクラスになった能力者の名前だ。少女で舞という名前だということは先ほどのクラス発表の時点でわかっていた。


 どこにいるのか、誰がそれなのか、周介はクラス全体を見渡しながら確認しようとするが、この場にいる生徒たちの中の誰がそうなのか判別することはできなかった。


 一見すると普通の生徒たちだ。いや、実際普通なのだろう。頭がとてつもなく良いことを除けば。


 周介のように半ば強引にコネ入学させてもらえたような人間ではない。ここにいるのはあの意味不明だった試験問題を悠々とこなしていった天才肌の人間しかいないのだ。


 その時点で自分とは違うオーラを放っているように思えるから不思議だった。


 中学では平均よりは上程度の学力しか有さなかった周介だ。ここにいるのはきっとそれぞれの中学の学年でもトップクラスの実力を持った秀才たちだろう。


 あるいは中学の頃からこの学校に通っていたエスカレーター組かのどちらかだ。そんな人間の中に入っていきなり馴染めというのは少々酷かもしれない。


 とはいえ、朱に交われば赤くなるということわざがあるように、この学校に居れば自分の学力も自然に上がるのではないかと周介は期待してもいた。


 だが同時に、そんな都合の良いことが起きるはずがないとも思ってしまっている。期待とあきらめを含んだ考えを知ってか知らずか、教室の中の空席はなくなり、教室の前の扉が開いて教師が一人入ってきた。


「おはようございます。それでは少し早いですがHRを始めます」


 この学校の教師のようだった。女性の教師で、歳は四十ほどだろうか。穏やかな顔つきに、優しげな声が教室内に響くと同時に、少しだけざわついていた教室内が一気に静かになる。


「初めまして。私がこの三組の担任になります、志島春子(しじま はるこ)です。担当科目は現国です。皆さんよろしくお願いしますね」


 穏やかな笑みを浮かべた志島と名乗る女性に、教室内の生徒たちが小さく頭を下げる。


 さすがに声を大きくしてよろしくお願いしますという歳でもないからか、少し会釈する程度になっていた。


「では、まずは出席を取ります。この時点で呼ばれなかった人、クラスを間違ってしまっているのですぐにクラスを再確認してくださいね。今までも何人かいたので気を付けてください。では阿部義也君」


 五十音順に読み上げられる生徒の名前に反応して、一人ずつ返事をしていく。あから始まり徐々に後半へといく中で、その名前が読み上げられた。


白部舞(しらべ まい)さん」


「はい」

 小さく声を出したその少女は、眼鏡をかけた小柄な少女だった。体も細く、肌も白い。長く黒い髪が特徴的で、前髪が長く目元が見えにくそうだった。


 外見で言えば、暗そうな少女という印象だ。読書などを好みそうなその外見に、周介はどんな能力を使うのだろうかと少しだけ気になっていた。


「百枝周介君」


「はい」


 自分の名前が読み上げられた時、声を出すと先ほど周介が見ていた白部が今度はこちらを見ていることに気付く。


 向こうもこちらの名前を知っていて、そしてそれが誰だったのかを確認しようとしていたのだろう。


 ほんの一瞬だが視線が合う。特に意味を持っているわけでもないその交差する視線は、すぐに二人が視線を逸らしたことによってなくなった。


 話しかけるのも、意識するのももっと後になってからだ。相手がどんな能力を持っているのか、周介がどのような能力であるのか、それらを知り教えるのは今でなくてもよい。


「全員いますね。それではこれから入学式が行われます。五十分になったら体育館に移動しますので、それまでにトイレなどを済ませておいてくださいね。そして入学式が終わったら、皆さんにそれぞれ自己紹介をしてもらいますので、今の内に面白い自己紹介の内容を考えていてください」


 面白い自己紹介を考えろなどというなかなかにハードルの高いことを言う担任教師に、周介は若干眉をひそめながら、教室の空気がわずかに弛緩したのを感じ取っていた。


 怖い先生ではない、そんなことを教室内の生徒全員が感じ取ったのだろうか。少なくとも校則などでがんじがらめにするタイプの教師ではないようだった。


 進学校ということもあって、厳しい先生が多いのかと思ったが、どうやらそういうことでもないらしい。


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