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入学式は体育館で行われた。校長の演説に加え、生徒会長の言葉など、周介たち新入生を歓迎する言葉を述べて簡単に終了した。
もはや一定の形式があるとはいえ入学式というものはどの学校に行っても似たようなものだろうと、周介は感じていた。
中学の頃の入学式とそう変わりはない。偉い人の言葉というものは総じて長いものだ。高校に来てもそれは変わっていないようだった。
そんな中、壇上に立っていた時、校長の視線が一瞬、ほんの一瞬だが周介たちの方に向いたことにそれぞれが気づいていた。
これだけの数がいて、これだけの生徒がいてその中で視線を向けられた周介はそれがどういう意味を持っているのかを完全に把握することはできなかった。
だがこの組織に長くいる瞳たちはその意図を何となくだが察していた。
入学式を終え、それぞれの教室に戻るとき、周介の携帯に瞳からメッセージが入る。入学式が終わっても教室に残っているようにという内容だった。
周介はてっきりまた鬼怒川に学校内を案内してもらうのかと思っていたが、そうではないことに気付くことはできなかった。
「さぁ正式に入学おめでとうございます。それではこれから三年間、クラス替えなどもありますからこの一年一緒に勉強する皆さんにまずは自己紹介をお願いしましょう。抱腹絶倒しなくてもよいので、自分のことがよくわかる内容をお願いしますね」
教室に戻り、HRを始めると同時に担任教師である志島は五十音順に自己紹介をさせていった。
どこの中学が出身か。そしてどんなことが趣味か、どんなことが好きか。大雑把にそんなことを話している中、周介はまず教室内の人間の名前を覚えることを優先していった。好きなことや嫌いなことなどはこれから否でも知ることになるのだ。まずは名前を覚えるところからだろうと考えていると、同じく能力者の白部の番になる。
「白部舞です。中等部からの進学です。趣味は読書、よろしくお願いします」
圧倒的に少なすぎる情報と、静かで暗い声音にクラスの全員が白部の第一印象を暗い少女ととらえただろう。
事実それは間違っていないだけになんとも言い難い。そして順序良く自己紹介が進んでいく中、周介の番になり立ちあがる。
「初めまして百枝周介です。愛知の学校から来ました。今は寮に住んでます。好きなことは格ゲーと音ゲーです。よろしくお願いします」
愛知からきているということに何人かの生徒が意外そうな顔をする。この学校の中で遠方からくる生徒というのはそこまで多くはない。
部活動のどこかが強豪ということもなく、よそから引き抜きを行っているということもない。
だがどこのクラスにも遠くからやってきている生徒というのは何人かいるのだ。そのほとんどが能力者なわけだが。
自己紹介が終わると、入学式も終え、HRも連絡事項などでつつがなく終了していく。この後は部活動の勧誘や見学を行う生徒がほとんどだろう。
そんな中、何人かの生徒が周介の周りに集まる。
「百枝だっけ?お前なんで愛知からこっち来たんだ?」
始まりの会話としては、地元から離れてこちらに来たというのは気になるところだろう。周介もこの内容はある程度予想していたためにさも当たり前のように答えることにした。もっともあらかじめ用意されている答えだが。
「親の都合だな。まぁいろいろあって親があっちこっち行っちゃうから住まいが安定しないんだよ。それで寮があるここに来た」
「寮ならほかにもあったんじゃね?ここ難しかったでしょ?」
「めっちゃ勉強した。ってか俺は東京に来たかった!だから頑張った。めっちゃ頑張って説得したよ。うちの地元と全然違って都会だからさ」
東京に出たかったからというのは別段嘘ということでもない。実際のところ嘘はとても頑張って勉強をしたというところだけだ。
その点だけは申し訳なく思うが、これも一種の事情があるのだから仕方がないと思ってもらうほかない。
「なぁ、百枝ってなんか部活とかやるのか?やらないなら一緒になんかやらね?テニス部とかこれから見学行くんだけどどうよ?」
せっかく誘ってくれているのだ、一緒に行きたいのはやまやまなのだが、周介は部活動、運動系の部活はやってはいけないと厳命されている。
さらに言えばこの後少々予定もあるのだ。
「悪い、この後寮の関係でいろいろ手続きしなきゃいけないんだ。また誘ってくれ」
「そっか、それじゃしょうがないな。じゃあまたな」
せっかく誘ってくれたのを断ってしまうのは非常に申し訳なかったが、周介は次々と帰っていく生徒たちや部活動に向かう生徒たちを見送りながら教室に残り続けていた。
そしてやがて残っている生徒は周介と白部だけになる。
白部は特に周介に意識を向けるでもなく、読書を続けていた。
「そっちにも連絡があったのね」
話しかけられたことで、一応周介がなぜ残っているのかは知っていたことを確認して周介は立ち上がる。
「一応な。なんで残らされてるのかはよくわからないけど。先輩に校舎の案内とかしてもらうんかね?」
「違うと思う。たぶん」
白部は視線をこちらに向けることなく読書を続けている。周介はとりあえず白部の前に立って軽く顔を覗き込む。
「俺百枝、よろしく」
「知ってる。百枝周介、安形さんのチームメイト。コールサインはなし。能力は狭限式複合二種単一型念動力、始まりの智徳。ドクターのお気に入り。でしょ?」
「……よく知ってるな……ってか、こういう場所でそういう話は」
「平気よ。人間そこまで誰かの会話に意識なんて向けてない。初めまして百枝君、私は白部舞。コールサインはクエスト03。よろしく」
周介の都合などまるで無視で話を進める白部に、若干眉をひそめながらも、周介は差し出された手を取って握手する。
こういう性格なのか、それとも単純に周りに合わせるつもりがないのか、どちらにせよなかなか面倒くさそうなタイプだなと周介はため息をついていた。
「で、俺らが何で残されてるのか、白部はわかるのか?」
「何となくだけど。たぶん、この高校の中で紹介するためじゃないかと思う」
「紹介?」
「そう。私たちはここでは新米だから、ここにもういる人たちに挨拶回り。どの人が組織の人間かも把握できてないから、そのあたりから始めなきゃいけない」
確かに周介たちはまだこの高校の事情を知らない。この高校の中で誰が組織の人間なのかも把握できていないうちは、派手な行動は慎むべきだろうということは理解できた。
だからこそこうして待たされているのだろう。
「白部もまだそのあたりは知らないんだな」
「体裁上は。でも情報としては知ってる。もう調べたから」
そう言いながら白部は読んでいた本から視線を上げて周介の方を初めて見る。
しっかりと周介の顔を見るのはこれが初めてだからだろうか、しっかりと周介の顔を観察しているようだった。
「思ってたよりも普通の顔。もうちょっとイケメンかと思ってた」
「悪かったな。そっちは前髪が鬱陶しそうだけど、切ったほうがいいんじゃないのか?」
「これでいい。能力を使う時にこうしておけば隠せる。それに顔はあんまり見られたくない」
目元まで届く前髪は、確かに能力を発動するときに目を隠すのにも役立つだろうが、それでも所詮髪だ。隠しきれるものではないし、何より隠すのにだって限界がある。
どちらかというと顔を見られたくないというのが本心なのだろう。人には見られたくないところの一つや二つはあるものだ。
周介はそのあたりは気にせずに、そういうことだと思うことにしていた。
「ところで調べたって言ってたけど、どうやって調べるんだ?そういう情報が載ってたりするのか?」
「……あんまり知らないほうがいいと思う。組織にも一応データベースとかがある。そういうデータを覗き見てるだけ」
「調べちゃいけない感じなのか?」
「一般の職員っていうか、私達みたいな学生には閲覧権限は与えられてない」
「じゃあなんで白部は知ってるんだよ」
「言った通り。覗き見たから。私の能力はそういうことが得意」
そう言いながら白部は自分の目を指さす。眼鏡越しのその目は黒く、周介の方をまっすぐに見ている。
情報を収集することに特化した能力なのだろうか、それとも誰かと視界を共有することができる能力なのか、あるいは誰かの知識をそのまま知ることができるのか。どちらにせよかなり有用な能力であるらしい。
羨ましい限りだと、周介がため息をついていると、教室の扉が開いて誰かが入ってくる。
「お、いたな。百枝、白部、そろそろ行くぞ」
入ってきたのは手越と瞳たちだった。知り合いがやってきたことで周介は少し安心するが、同時に知らない人間も入ってきたことで周介はわずかに緊張する。
「十文字、福島、あれが新入りの百枝だ。百枝、こっちの二人が大太刀部隊の十文字と福島だ」
紹介されて入ってきた二人、それぞれ十文字と福島という紹介された二人は周介の方をまじまじと観察しているようだった。
「初めまして。小太刀部隊所属になった百枝周介だ。コールサインはまだなし。そっちの安形とチーム組んでる。よろしく」
「よろしく。俺は十文字嘉久。大太刀部隊のノイズ隊所属。コールサインはノイズ02。よろしくな」
「同じく大太刀部隊、俺はミーティア隊所属、福島誠一郎だ。コールサインはミーティア03。よろしくな百枝」
十文字は線が細く、長身で眼鏡をかけている短髪の男子生徒。若干低い声が特徴的だった。福島は周介と同程度の身長に癖の付いた髪が印象的な男子生徒だ。
大太刀部隊と聞いていたために、もっと大柄で筋肉質な人物を想像していたのだが、ほとんど自分と変わりない高校生だということを知って周介は少しだけ安心していた。
「なんだ、てごやんが大型新人って言ってたからもっとごつい奴かと思ってたけど、そうでもないんだな」
「ってか俺と同じくらいの身長じゃん。何センチ?」
「百六十二」
「負けた!くそ!俺百六十」
どうやら福島は身長が低いことを気にしているのだろう。そのあたりのことは非常によくわかるため、周介としてはなかなか親近感がわくタイプだった。




