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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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 ドクの指示によって着々と進む作業の中、周介と瞳はそのケーブルの行方をたどっていた。どこから繋がっているのかということではなく、今度から新しく発電するその場所がいったいどこなのかということを確認するためである。


 これから周介がこの拠点内で発電を行うということであればその場所を把握しておく必要があると感じたからでもあり、同時に作業を続けている人間の邪魔にならないようにしようという配慮からくる行動だった。


 新しい発電機と、配電設備を繋げることにより拠点の発電系統を切り替えるということならば、配電設備から延びるケーブルの一つは発電機に繋がっているということでもある。


 その中で最も太いケーブルを周介たちはたどっていた。


 といっても、ケーブルがそのまま置かれているわけではなく、特殊な容器に入れられているためにたどるのはそこまで難しくはなかった。


「でもさ、発電って言ってもそんなに簡単にできるもんなのか?回すだけだぞ?」


「普通の発電機だって、基本的にやってることは回してるだけじゃん。どういう方法で回すための動力を得るかの違いでしょ。あんたの場合、動力そのものを能力で供給できるんだし」


「そういうもんか……?めっちゃでかい設備が必要になる気がするけど、ここってそんなに広いのか?」


「まぁまぁ広いと思うけど……まぁその分無駄なスペースも多いってことじゃん?こんだけちゃっちゃと話が進むってことは、前々から準備もしてたんでしょ?」


 周介が能力者になってからまだ二カ月程度しか経過していない。だがドクの話を聞く限りすでに発電施設は完成しているようだった。あとはその動力たる周介が発動すればいいだけの話なのだ。


 そして今日、今までの配電システムから新しいシステムへと移行するための作業を行っている。今までの従来のものをいったん止め、新しいシステムへと入れ替える。それだけの物を作るのにたった二カ月しかかかっていないというのは明らかにおかしい。


 普通なら年単位での準備が必要になるはずだ。ただすでにあったものを配置したのではなく一から作ったのであれば材料などの調達などからそのくらいかかるはずだ。


 つまり瞳の言うように前々から準備を進めていたのだろう。本来どのような形にするつもりだったのかは不明だが、もともとあった別の何かを周介の能力に合うように改良したといったほうがいいだろうか。


 発電設備というのは基本的に原理自体は単純なものだ。直流だろうと交流だろうと、結局のところ磁石とコイルを用意し、コイルを回転させることさえできれば電気は発生する。あとはその規模が違うというだけの話だ。


 つまり、原子力火力水力風力などの違いはあれど、根本の原理自体はほとんど変わっていない。通常の発電機などであれば動力をどのようにして得るかということに終始する。


 その動力を能力で得られるのであれば、あとはその動力を伝達する機構さえ存在すれば問題なく発電は可能なのだろう。


「でもこれから大変なんじゃないの?この拠点全体の電力を賄うってかなり大変だと思うけど。少なくとも寝る暇ないんじゃない?」


「寝ながら能力を発動できるようにすれば……ってかそうすると寮に帰れなくなる感じか?それはさすがに……充電器は用意してるって言ってたけど……」


 電気というのは流すことは容易でも貯めることが難しい。もちろん電池などを使って電気そのものを貯めることは可能だが、現時点の充電設備ではそこまでの量の電気を貯めておくことは難しい。


 それが少量であればそこまで難しくはないだろう。だがこれほどの施設の全電力を賄えるほどの電力となれば話は別だ。


 電気の本質は発電と消費が同時に行われるのがベストであり、ラグが生じればその分損失が発生してしまう。


 この施設に必要な電力がどの程度のものかは把握しきれていないが、少なくとも少量ということはないだろう。


 現時点でも他所からかき集めた電力で必要最低限の電気を賄っているという印象だ。


 それを一人で賄うことになるというのは責任重大なような気がしてならなかった。


「まぁそれで金がもらえるっていうならそれでいいよ。さっさと借金返して清い体になりたいからな」


「百枝は借金がなくなったらここをやめるの?」


「どうだろ……正直わからないって感じだな。粋雲高校に入れたのもこの組織のおかげだし、高校にいる間はたぶん組織にはいると思う。そのあとはわからない。ぶっちゃけその時にならないとわからないしなぁ」


 周介がこの組織に入った切っ掛けが借金であったとしても、それは居続ける理由にはなり得ない。


 借金はいずれなくなるものだし、なくなった時に周介にとってこの組織にいる理由がなければやめてしまうかもわからない。


 もっともこれだけ秘密を抱えた組織だ。簡単にやめられるとも思っていなかったし、何よりこれだけの設備を投資した組織が周介がいなくなることを簡単に許すとも思えなかった。


 おそらく何らかの理由をつけて縛り付けるということは想像に難くない。もはや周介の一生は確定したようなものになっているのだ。


 あくまでこの組織の話であり、表の職業などがどのようなことになるのかなどは不明だが、それでもこの組織に関わり続けるのは間違いないだろうということはわかる。


「たぶんここに居続けるんだろうなぁ。ドクが離してくれない気がする」


「そうね。たぶんそうでしょうね。ご愁傷様」


「お前もだぞ。俺とチームになったからには一蓮托生だ。逃がさんぞ安形君」


「……うぇ……」


 心底いやそうな声を出してはいたものの、瞳は笑っていた。あながち悪い気分もしないのだろうか、その顔を周介は見ることはできていなかった。










「ここに繋がってるのか……無駄に厳重な扉だな」


 周介と瞳がケーブルをたどってたどり着いた場所にはかなり厳重に閉じられた扉があった。


 壁をぶち抜く形で続いているケーブルを追うには、おそらくこの扉を開けなければいけないのだろう。


「あんたの能力で開けられる?」


「ちょい待ち。んー……?」


 周介の能力は回すことだ。その気になれば鍵などの取っ手を回すことも不可能ではないのだろうが、まだ細かい操作が苦手である周介はそれを探すのにも苦労していた。


 周介は自分の能力で回すことが可能な物体を感知することが可能である。だがその感覚も何となくのものであり、どれがどの部品でどれを回すとどのような効果があるということを理解することはできない。


 あくまでこれは回すことができると認識できる程度なのだ。


「どれを回せばいいんだ……?とりあえず適当に回してみるかな?」


「その能力ってさ、限界まで回すとどうなるの?」


「限界までって、どういうこと?」


「例えば、車のハンドルとか、回せる限度とかあるでしょ?そういうのを超えて回した場合、どうなるの?」


 いわばそれは回転の限界点とでもいえばいいだろうか。ある一定以上は物理的に回らないように設定してあるようなものだ。以前訓練の時に一方方向には回せるが逆方向には回せないという体験をしたが、ドク曰く、完全に固定さえしていなければ周介の能力は回すことができるだろうという判断をしていた。


 それを考えると、どのような結果になるのか、その結果を予測するのは難しくはなかった。


「たぶん、壊れるんじゃないか?固定してる部分を壊して、それでも回せるんじゃないか?」


「でもそれじゃ、完全に固定してる部分も回せるってならない?強引に能力でさ」


「どうなんだろ。でも俺は完全に固定されちゃってるものは、何となく回せないなって感じるんだよ。変かな?」


「……あぁ、そういうことか。それならしかたないんじゃない?制限がかかってる能力だとそういうことってよくあるみたいだし」


「そうなのか?」


「あたしも同じ。能力発動に制限がついてるから。ドクが言うところの……なんだっけ、なんたら式とか言ってたっしょ?あれが能力の制限とか種類とかを表してるらしいんだけど」


 ドクが能力を表現する際に用いる方法のことを言っているのだと周介は理解できた。


 周介の能力は『狭限式複合二種単一型念動力』となる。


「その制限がかかってる能力者の人ってさ、感覚っていうか、考えっていうか、そういうのでこれは能力が使える、使えないっていうのがあるらしいんだよね。あたしもそう。人形は操れるけど、ロボットは操れない」


「なんか違うのか?どっちにしろ、人の形してるとかだったらいいような」


「そのあたりは本当に感覚でしかないんだよね。機械人形だからいけるだろとかドクは言ってたけど、無理だった」


「人形だったらいいわけじゃないのか……じゃあ藁人形は?」


「やったことない。あとはあれ、ポーズ作るためのあの木の人形。あれは動かせた」


 人形と一言に表してもその種類は様々だ。ぬいぐるみもマネキンも日本人形も西洋人形も、ドクの言う機械人形も果ては藁人形だってある意味人形だ。


 その中で瞳が人形として定義でき、なおかつ発動できるものは限られるらしい。


 能力の発動対象となるものが限られているものにとって、能力が発動できるかどうかは本人の感覚次第というのも大きいのだろう。


 特に発動対象がアバウトな人間はそれを確認しておいたほうが良いと周介は考えていた。


「百枝の能力もさ、結構発動できるものってアバウトじゃん?回せるかどうかなんて状況にもよるだろうしさ。場合によっては壊すかもだし」


「まぁ確かに。こういう扉とかを回しすぎたら、たぶん壊れるよな……」


 目の前にある大きな扉についている回すことができる部品一つ一つを確認していき、それらに手を出した場合最悪壊れるということを考えて周介は能力を発動するのをやめた。


 万が一この厳重な扉を壊してまた借金が増えようものなら目も当てられない。こういう時は下手に動かないほうが良いのだということを周介は学習していた。


 かなり大きな扉なのだから、これ一つ作るのにいったいどれほどの金が必要なのか周介には想像もできない。


 この扉だけならまだいいが、周辺の設備にまで被害が及べば今の借金の総額を上回る金が再び借金として積まれる可能性だってあるのだ。


 周介としてはそんな多大なリスクを冒してまで好奇心を満たしたくはなかった。


「とりあえず引き返すか?ここに手を出すとやばそうだし」


「気になるけど……開けられないんじゃ仕方ないか。ドクターを探す?」


「そうだな。とりあえず配電設備とかがあるところに行こうぜ。たぶんそのあたりにいるだろうし」


 周介たちは後ろ髪を引かれる思いでありながら、厳重な扉の向こうに入ることはあきらめた。そしてドクがいるであろう配電設備の近くまで戻ることにする。


 何人もの人間が作業を行う中、周介たちもその中に混じっていくことにした。


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