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「よし、各系統のチェックは問題なさそうだ。それじゃあ切り替え作業を開始しよう。通電の状態は問題ないかな?」
「はい、問題ありません。旧電源系統は一時停電状態に、新電源系統は通電確認も終わり、ケーブルの各種測定値も許容範囲です。発電機の最終チェックは先日終わっておりますから切り替え後、いつでも新電源系統を稼働できます」
「よろしい。ではお願いします」
「はい、それでは電源系統の切り替え作業を開始します」
周介たちが配電設備の周辺にやってきたとき、ちょうど最終調整をしていたのだろうか、ドクがてきぱきと作業を指示しながら、書類などを確認して問題がないことを確認しつつ作業の状態を眺めている。
「ドク、始まるんですか?」
「あぁ二人とも。探検はどうだった?」
「でっかい扉の前で引き返してきました。開けられそうだったけど、壊したらちょっとまずいと思ったのでやめておきました」
「英断だね。始まるというか、むしろこれから終わるところさ。今最後の切り替え作業を行っているところでね。メーカーの人にお願いしているのさ。彼らは一般人だから気を付けてね」
どうやら今配電設備で作業をしているのが、一般のメーカーの人間であるらしい。
だが先ほどまでの会話とこの拠点の状況を見て、周介たちは疑問が残っていた。
「あの、どうしてわざわざ新しい配電システムを作るのに一般人を連れてきたんです?切り替えって、専門業者がいないとできないような感じなんですか?」
「んん、いい質問だね。ぶっちゃければ僕らのやり方によっては必要ないさ。今まで使っていた部分に新しいケーブルを接続するだけでいいんだからね。でもそれじゃダメなのさ。そうすると今まで使っていた部分が使えなくなるからね。それは良くない」
「使ってたっていうと、いろんなところから供給してもらってたってやつですか。使うことってあるんですか?」
「もちろんあるさ。何が起きてもいいように、こういう配電システムは残しておくべきだよ。新システムは君の能力に依存する発電設備だけど、君が長期間日本の拠点を離れなきゃいけなくなった時、あるいは君自身が体調不良などで来られなくなった時、あとは発電システムそのものに不調があった時とかにこの旧システムを一時しのぎで使うことになるのさ」
電源というのは基本的に正副予備の三系統を用意しておくことが好ましい。それができなければ正副の二系統は確保しておかなければ安定した供給ができなくなる。
ドクの言うように、何らかの不調があった時にそれらの代替として供給し続けるためには別のルートからの供給が不可欠になる。
今回周介の能力によって大容量の発電が可能になったとはいえ、問題が完璧に解決したというわけではないのだ。
可能ならば他にも発電設備を内部に作り、外部からの供給は第三の発電系統程度にしておいたほうが本当に安定した供給が可能なのだろうが、そう易々と新しい発電方式を作れるはずもない。
「じゃあもう一つ質問いいですか?今回の新しい発電機って、もともと開発してあったやつを流用したんですよね?」
「お、いいところに気が付いたね。その通りなのさ。この空間内での発電を考えた時、いろいろと案はあったんだよ。発電を起こすために必要な動力の確保、これが一番の課題でね。火力水力とかまぁいろいろとあるんだけど、そうなると余計な設備もたくさん作らなきゃいけないから大変でさ、でも根本の発電機構だけは作っておいたんだよ。後の動力確保に接続さえしてしまえばどうとでもなるような感じで。環境問題っていうかこの空間的な問題でどういう発電にすればいいかってだいぶ議論がされてて本当に困ってて」
「風見さん、仕事中ですよ。トリップするの勘弁してくれませんかね?」
「あぁごめんごめん。悪かったよ」
名前で呼ばれて困ったように笑うドクを見て、周介と瞳は顔を見合わせる。
「あの、ここの人たちはドクのことを名字で呼ぶんですね。誰もドクとかドクターって呼ばないような気がするんですけど」
「ん、まぁそうだね。純粋にうちの組織に入っていない人は、僕のことをドクターとは呼んでくれないなぁ。仕事の付き合いって感じになるから」
「仕事の?組織じゃない?」
てっきりドクと同じチームに入っているということもあり全員が組織の人間かと思ったのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「言い方が悪かったかな。正確に言えば組織だけに所属しているわけではないってことさ。いろんな企業にも同時に所属しているんだよ。簡単に言えば能力を使った技術開発とかも行っている感じだね。いくつもの企業で競合で作ってうちの組織でそれを試す。それで実際使えそうであれば一般に流通するって感じ」
「……なんかそれ権利関係面倒くさそう」
「安形君は痛いところを突くね。実際その通りさ。いくつもの企業が表向き、いやこの場合は裏向きかな?まぁどっちでもいいや。各企業は基本的に僕らのために技術供与してくれているけれど、やっぱり自分たちの利益が大事だからね。開発というよりは技術の切磋琢磨のために協力してるって言ったほうがいいのかな?とはいえ、良くも悪くもこういう場はなかなか緊張感があるよ。ただやっぱりモノ作りが好きな人が多いから話が進むのは早いよね」
本来であれば企業の人間であれば自分の企業の技術は隠し、よその企業の技術を手に入れてくることを前提とした動きをするべきなのだろうが、ここに集まっている人間は良い意味で技術屋気質なものが多いらしい。
とにかく新しい技術を使って何かを作るということが好きな人間のようだ。そういった人間が能力を発現するというのも何か共通点があるのかもわからない。
「組織に所属してる人間で、他にも企業で働いている人とかいるんですよね?どうやってドクのチームに入ったんですか?」
「基本的には僕や他の幹部連中が面接してるかな。技術っていう知的財産を扱っているわけだから、そういうことに関しての考え方とかは結構気にしているよ。ぶっちゃけこっちとしては協力してくれればそれでいいからうちの組織にしっかりと貢献できる人ってのが好ましいかな」
やはり組織に入ろうとする人間の中には開発のためではなく技術の確保のために動く人間もいるのだろう。
だがそういった人間は開発ではなく別の方面に回されるようだった。そのあたりは最低限考えてあるようである。
どのような判断基準があるのかは不明だが。
「小太刀部隊って現場部隊と完全裏方部隊とで別れてるじゃないですか、その辺りってどういう判断基準でやってるんです?」
「本人の性格とか能力とか運動性能とかが基準かな。あとは本人の希望も一応判断材料にするよ。といってもどう頑張っても無理だろって人は望む場所には入れなかったりするけどね。君の場合裏方も現場もいけるから君の意見を参考にしつつ判断するよ」
意見を参考にするといっているだけで、意見を聞くとは言っていないあたりドクも大人だ。確定できていないからこそあまり大したことは言えないのだろう。
もっとも、周介の場合十中八九現場と裏方の掛け持ちになるだろうが。
「あたしは裏方のほうがいいんですけど、その意見って聞いてくれます?」
「もちろん参考にさせてもらうよ。安形君の場合は今まで結構長い事裏方で働いてくれてたからね。実績は十分さ」
やはり参考にするだけで決定するわけではないのだなと、ドクの大人な部分を見てしまい周介と瞳はため息をつく。
可能ならば周介は裏方でいたいと思っているのだが、ドクの考えや周介の能力を考えるとそれは難しそうである。
瞳の能力も裏方に向いているが、周介の能力と組み合わせることで外でも活動が可能であるということがつい先日立証されてしまった。
おそらくこれから外の活動に駆り出されることが増えるだろうということを考えてか、瞳は大きくため息をついていた。
「なぁ安形、うちの組織、労働基準法とか適応されないわけ?」
「そもそもあたしらみたいな高校生未満を雇ってる時点でアウト。明らかに違法よ違法」
「うちの組織は違法組織だったか……マフィアかギャングかな?」
「マフィアではないなぁ。うちの組織の起源イタリアじゃないし。ギャングって方が正しいのかな?いや微妙かな?モッブって言い方もあるかもだけど……別に犯罪をやってるわけじゃないし」
「いや、さっき違法だって話したじゃないですか。違法ってことは犯罪でしょ」
自分が所属している組織は正義の側だと思っていたのだが、その実犯罪組織側だったということを知って周介は愕然とする。
退職届を提出したいところだが、その場合多額の借金に追われることにもなるためにもはや逃げることはできない。
「まぁまぁ、どっちにしろうちはうちの目的のためにやってるって感じだから犯罪云々は気にしないほうがいいよ。法律なんて時代と国によって一変するんだから。うちの組織はワールドワイドに手広くやってるから。あくまでこの組織は日本担当だけど」
「矛盾の塊みたいな言葉ありがとうございます。実際のところ、前に話してた他の国の同様の組織も、似たような感じなんですか?」
周介が所属している五輪正典はあくまで日本の組織だ。他の国にはその国の同様の組織があるのだという。
二本の剣を象徴とした、能力者による秩序の崩壊を防ぐための組織。言ってしまえば能力者のための鎮圧組織といえなくもない。
そういった組織がほかの国にもある場合、どのようなことをしているのか少し気がかりでもある。
「他の国の組織か、まぁいろいろとあるけど、やっぱり共通してるのはあんまり法律とかは気にしていないってところかな。能力者の定義自体をまだ法律で固められていないからね。犯罪とかどうこう言われてもって感じなのさ」
「つまり、よその国でもやりたい放題って感じってことね。前に海外に旅行行った時もかなり面倒くさかったけど」
「へぇ、安形って海外行ったことあるのか」
「ある。その時はアメリカだったけど、大変だった。うちの組織とアメリカの組織がつなぎをつけていろいろと話をするわけ。ただの旅行のつもりだったのに大迷惑。海外に二度と行きたくないって思った瞬間よ」
「あー、そっか、そういうのもあるのか。能力者って不便だな」
「不便っていうか、組織同士のつなぎが面倒なだけ。ドクターはまだいいけど、うちの大隊長とかまで出張ってこられちゃ迷惑でしょうがないっての」
「……大隊長?」
「風見さん、作業終わりましたよ!」
大隊長という単語が出てきて周介が疑問を抱いたとき、作業を行っていたメーカーの人間が小走りでこちらにやってくるのが見えた。
どうやら切り替えの作業自体が終わったらしい。これによって新しい給電システムが使えるようになる。




