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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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「ここか……水はそこまで入ってないみたいだな」


 周介たちは知与の案内によって件の洞窟にたどり着いていた。


 今の海面からは少し高いところで大きく口を開いている洞窟は、満潮などの水位が高いタイミングでない限り海水が押し寄せるということはなさそうだった。少なくとも現時点で海水が足を洗うということもなく、岩肌が辺りには散見される。


 そして一部にはつい先日崩れたであろう岩や土などが辺りに散らばっている。まだこの辺りは馴染んでいないのがよくわかる。苔や海藻などの類も付いていない部分が妙に印象的な地面の色になっているのだ。


 洞窟内からは妙な音が聞こえてきている。それが洞窟を通る空気の音であるということに気付くのに少し時間がかかった。


 まるで何かの唸り声のようにも聞こえるそれは、洞窟特有の湿った空気を吐き出し、周介たちに叩きつけてくる。


「知与、この洞窟吹き抜けの部分があるのか?妙に風が通ってるけど」


「はい。島の途中に横穴のようなものが一応あります。ただそちらはそこまで大きな穴ではありません。人は通れないでしょう」


 逆に言えば人は通れなくても小動物であれば通れる大きさということでもある。今回の目標が小動物だった場合本当に見つけるのに苦労しそうだ。そんなことを考えながら周介は装備についているライトを点灯させる。


「悪い大将。遅れたか?」


「いや、ちょうど入るところだ。ライト着けておけ。その姿は……もう少しコンパクトにできればいいかもな」


「あいよ。にしても暗いな」


 猛は持っていたライトを変貌によって生み出された肉体につき刺すように取り付けると先頭を歩き始める。


 そしてその両脇を瞳の盾持ち人形が固める。ここからは何が出てきてもおかしくはないと判断しての行動だ。


「空気に関しては気にしなくてもいいかもだけど……さすがに狭いな」


「入り口部分は狭いですが、しばらく行くと広がっています。下っていく部分になるので、その場所に海水などもたまっていますが」


「あぁそうか、満潮の時には水が入り口から入ってくるんだもんな。潜水用の装備にしておくべきか……?いやでもあれじゃまともに動けないしな」


 戦闘を想定した状態でいる為に、水に潜ることまでは考えていない。多少濡れる程度はあきらめるべきだろうと周介はライトで当たりを照らしていく。


 主に岩肌が露出している洞窟内は狭く暗い。岩肌には苔がびっしりと張り付いていて、ところどころには貝のような、所謂亀の手なども散見される。


 完全に海の生き物の領域になっているこの場所で、周介たちは移動しにくそうにしながらも前に進んでいた。


「知与、この洞窟内にいる生き物、わかる範囲で教えてくれ」


「はい。えっと……蛇、トカゲ……それと海水のたまっている場所には小魚、カニ、えーと……あとは……ネズミ……いえ、羽があるから……蝙蝠、と……えっと虫?虫なんですけどこれは……」


 知与はこの洞窟内にいる生き物をとにかく列挙していく。ただ知与自身今まで見たことが内容な生き物もいる為に時折何という生き物であるのかを思い出すのに時間がかかっていた。


 とはいえ、この洞窟内にいるのは皆一様に小動物、小魚、小さな生き物たちばかりだ。


 周介たちが通ることができるような大きな穴が通り道になってはいるものの、小動物であれば通ることのできる小さな穴はいくつかあるらしく、それらを住処にしたりしているらしい。


 より一層探すのが面倒になったなと思いながら、周介は本格的にこの洞窟を完全に封鎖することも視野に入れていた。


 別に生き物を殺す必要はない。生き物の出入りを封じ、人間が入らないようにすればいいだけだ。


 とはいえそれもこの洞窟内に能力を保有した動物がいた時の場合だ。最低限生きていけるように空気孔だけは残して、その動物だけが出られないように工夫しなければならない。


 面倒な手法であることは理解しているが、天寿を全うしてくれるまでの間でいいのだ。あとどれくらいその生き物が生きるかもわかっていないのだから長い間ではないと思いたい。


 それらすべてが想定と仮定の上に成り立っているという危うさを周介も理解していた。


「結構いるんだな。その中のどれが目標か……なんてわからないしなぁ……」


「この洞窟にいるかもわからない状態じゃあね。周介、あんたはなんか感じないの?」


「感じないかって……あぁ、あいにく今日はそういうのはないな。危険っていう感じはまだしない」


 まだ、という当たり周介が警戒しているのがうかがえる。ドクが言っていたというのもあるが、洞窟が怪しいと周介も感じていた。証言全てを真に受けるわけではないが、海洋生物だった場合は洞窟ではなく既に海に逃げている可能性だってあるのだ。


 そうなった場合、周介たちのこの行動は完全に無駄骨ということになる。


 むしろ周介からすればそれこそ望むところであった。


「奥から無数の鳥……いえ蝙蝠が飛んできます!全員注意してください!」


「注意って言ったってな……ただの蝙蝠だろ?」


「蝙蝠って血を吸うんだっけ?」


「種類によってはね。ただこっちに来るのがそういうタイプなのかはわからないけど」


「やり過ごすぞ。いちいち戦う必要もないだろ」


 恐らくは周介たちのような外敵がやってきたことに慌てたのだろう。こういう洞窟内では縄張り争いなども強いはず。周介たちは暗闇の中からやってくる飛翔する影を捉えると同時に身構えた。


 蝙蝠は種類にもよるが、基本的には昆虫などの小型の動物を主食としている。中には果実やはちみつなどの植物を主食にするものもいるが、この洞窟内にいる蝙蝠がどちらに分類されるのかは周介たちには分らなかった。


 わからなかったからこそ、蝙蝠共通だと思われる対策をとることにした。


「全員防音!いいぞ!やれ!」


「おぉよ!」


 周介たちが装備の防音機能を起動させるのとほぼ同時に、猛の咆哮が洞窟内に響き渡る。洞窟内を反響し、音が幾重にも重なるように襲い掛かる。


 防音機能によって耳を守った周介たちでもその音は響いていた。耳からではなく体を通じてその音が体に染み込んでくるのだ。


 耳を塞いでいる状態の周介たちでさえ、うるさいと感じるほどの声だ。この暗闇の中で音を頼りに生きる動物にとっては、自らの知覚を封じられたに等しい。


 蝙蝠などの暗闇に生きる生き物は、いくつかの知覚によって周辺の状況を把握する。一つは触覚、一つは特殊な視覚、そしてもう一つが聴覚だ。


 蝙蝠が超音波の反響などによって周辺の状況を確認するというのはよく知られていることでもある。この大音量の攻撃に対し、蝙蝠が驚いてしまうのも無理のない話だろう。


 いや、もし仮に音を頼りにしていなかったとしても、この閉鎖空間に近い中で、木々を揺らすほどの大音量を聞かされれば怯みもするだろう。


 それが小さな蝙蝠であれば、もっと大きな影響を及ぼすことになる。


「知与、蝙蝠は?」


「気絶したものが一部いますが、それ以外は耳が聞こえなくなったのか、壁にぶつかったりしています。こちらに向かってくるのはほとんどいませんね」


「オーケー。このまま進むぞ。スタングレネードよりはいい効果だな。踏まないように気を付けろよ?」


「別に蝙蝠ぐらいいいんじゃねえの?気にしすぎだぜ大将」


「バカ言うな。俺らの都合であいつらの家に入り込んでんだぞ。動物だったら何してもいいとか考えるなよ?俺は少なくとも動物大好きっ子だからな」


「なんだよそりゃ。犬とか猫とか飼ってたタイプか?」


「その通り!うちは実家で犬を飼ってた!もう寿命で死んじゃったけどな!どんな動物にも優しくしろとまではいわないけど、むやみやたらに動物を攻撃することはやめろ。これは絶対だ。動物に対しては実弾禁止な」


「人間よりも動物に対して優しいように見えるのは気のせいか?人間に対しては実弾許可だろ?」


「人間が問題行為してたらそれは自業自得だ。自分でやりたいようにやってたんだから。まぁ発動直後でどうしたらいいかわからない状態だったら別だけど、レッドネームとかは自分の意志で能力を悪用してるんだ。それなら同じことを返されても文句は言えないだろ。けど、動物は違う。そういうこともわからないんだ。善も悪もない」


「……被害がどれくらい出るかの方が重要だと思うけどな。大事なのは善悪の問題か?」


「俺の気持ちの問題だ」


 組織がどうのこうのではなく、自分の感情の問題であるということをはっきり言ってのける周介に、猛は目を丸くしていた。巨大な白い体毛を持つ獣が目を丸くしている姿は、傍から見れば面白く見える。


 猛からすれば、今まで大太刀部隊にいた人間からすれば、ここまで自分本位な人間も珍しい。大太刀部隊は小太刀部隊の盾、一般人のための盾。能力の存在を隠すためなら、どんな行動をとることも厭わない刃となるように訓練をし続けてきた。


 そこには個人の意見などはあまりない。だからこそフラストレーションがたまることもある。だがそれは強力な能力を得たものの責任のようなものだ。強い力にはその分責任が付きまとうのは当然のことだ。それは権力だろうと能力だろうと変わりない。


 だというのに目の前にいる小さな隊長は、自分が嫌なことは嫌だという。それをしたくないのだという。


 子供じみた理屈だ。とてもあの時自分を守るために屁理屈を並べた人物と同じとは思えない。あの台風の時、あの爆発が起きる寸前に自分を助けた人物と同じようには見えない。猛は目の前にいる百枝周介という人物を未だに測りかねていた。


 だが、そんな周介の子供じみた発言に、他の隊員はみな従っている。従わせるだけの何かが周介にあるのだと、猛も少しずつ理解はしている。


 だがそこまでのものがあるのだろうかと懐疑的にもなっていた。


「知与、さっきの大声で能力を発動しようとした奴はいるか?」


「いえ、今のところいません。ただ……ん……?」


「どうした?」


「いえ……その……奥にある水たまり……潮溜まりっていうんでしょうか?海の水が溜まってる部分があるんですけど、そこがちょっと……」


 知与は自分が認識しているものをどのように伝えたらいいのか迷っているようだった。何かしら違和感を覚えているのはわかる。何かがおかしいと言いたいのは伝わる。だがそれを細かくどのように伝えたらいいのかがわからないようだった。


「奥の方でなんかあるんだな?」


「はい。奥の、少し開けたところがあって、そこに潮だまりがあって、そこが……なんていうか……粘っこいというか」


 粘っこい。妙な表現をするものだなと周介たちは小首をかしげていた。何やら粘性の生物でもいるのだろうかと疑問符を飛ばす。


「全員警戒。潮溜まりまで進むぞ。言音、その場所で使えるようにライトを多めに用意しておいてくれ。瞳は人形で防御の準備」


 周介の指示に従って全員が準備を進めながら洞窟の奥へと進んでいく。


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