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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」
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0059

「あははは!バカだ!バカがいるぞ!マジでこいつ刀買ってやがる!」


「うっせぇ!お前男なら買うだろ普通よぉ!」


 途中、周介たちは別の班のクラスメートと偶然遭遇した。


 そして刀を竹刀袋に入れて持っている友人を見て、事情を察して大いに爆笑したのである。


 それが木刀ではなく模造刀だという事実を知ってなおのこと大爆笑に発展したのは言うまでもない。


「わかってねぇなああいつらよぉ!日本刀は日本男児の魂だろ。心だろ!こういうものにこそ心血注ぐもんじゃないのか?」


「まぁあれだよな。その結果お前はもうこの旅行でほぼ何も購入できなくなったわけだけど、それでもいいんだろ?魂だもんな」


「その結果菓子とか珍しい食べ物とか売ってても手が出せないわけだもんな。覚悟が違うぜ覚悟が」


「俺はいいと思うぞ。今回の旅行中に金貸してとか言われても絶対貸さないけどな」


「お前ら俺の敵か!?敵なのか!?」


 冷静になると思いきりすぎたかなと周介の友人は後悔すらし始めているが、周介たち小物を買ったチームは悠々と他に何を買おうとかと考えている状態だった。


 とはいえ、秋葉原に居られるのもそう長い間ではない。中学の制服を着ている以上、学生らしいものしか購入するのは難しい。


 しかも値段に制限もつく。選ぶのも難しいところであるが、そんな中、周介たちは電気街に戻ってくる。


 途中、出店などでたこ焼きやパフェなどが食指を刺激する。気づけばもう昼を過ぎている。そろそろ何かを食べたいところである。


「秋葉原で有名な飯屋とかないのか?メイド喫茶以外で」


「なんかうまい飯屋とかないのか?メイド喫茶以外で」


「メイド喫茶もいいと思うんだけどなぁ」


「ダメだよ、俺がほぼ一文無しなんだ。電車賃考えると……あと千円しか使えない」


「お前もう東京駅に帰れよ。バスで一人寂しく待ってろよ」


「ざっけんな!まだまだ遊ぶぞ!金はないけど!」


 一緒に回るうえで金がない人間と一緒に行動するとどうしても行動が制限されてしまう。

 どうしたものかと周介たちは悩んでいた。


「とりあえずあれだ、ラーメン屋が有名みたいだしそこ行こうぜ」


「えー。東京来てまでラーメンかよ」


「じゃあどこ行く?ほかにもすた丼ってのもあるらしいけど」


「すた丼?」


「スタミナ丼の略だろ。肉がこうがっつり乗ってる」


「ここいいじゃん!ここにしようぜ。腹減った!」


 先ほどの刀のテンションのままに、友人に引き連れられて周介たちは店に向かっていた。


 周囲にはガチャポンが大量にあったり、アニメや漫画のための店があったりといかにも秋葉原といった町並みが広がっている。


 高いビルがそこかしこにそびえたち、どこもかしこも人がいる。いかにも東京の中の一つの都市という街の中を周介たちは食事目当てに歩き出す。


 そんな中、周介は一瞬足を止めた。


 何か理由があったわけではない。あえて理由を挙げるとすれば何となくだ。漠然とした、止まらなければいけないという予感があった。何となく、その予感を感じ取った周介は細い路地があるその場所で足を止めた。


 外は明るいが、ビルとビルの間にあるその道はやや暗かった。日陰になっているせいもあって、そしてビル同士の距離が近いということもあって、非常に狭い。


 建物との間に、何やら扉のような敷居が作られている。この間にだれも入れないようにしているのだろうということは予想できた。


 だがその先で、わずかに光るものが見えた。僅かに覗くその隙間から、わずかに光る蒼い何かが二つあった。


 僅かに輝く蒼いその光を見て、周介の背筋に寒気が走る。その光の意味を考えて、即座に自分の携帯を取り出して、すぐに自分の左腕についている腕時計を操作する。


 ドク宛に送られる緊急信号と同時に、周介はドクへ電話を試みていた。


『はいもしもし?今絶賛仕事中なんだけれども、どうかしたのかな?』


「ドク、やばいかもしれないです。今すぐにチームを動かす事ってできますか?」


『……何があったんだい?端的にお願いするよ。携帯で通話ができているということは、そこまで切羽詰まった状態ではないということはわかるけど』


 確かに周介がこうして通話をできているということから、極限までに切羽詰まっている状況というわけではない。


 だが今ビルの間に確かにいるそれを見て、何も問題がない状況ではないのは確かである。


「今秋葉原にいるんですけど、ビルとビルの間の隙間に、蒼い光が見えるんです。二つ見えます。位置的に、目みたいな感じの」


『……今すぐ君はそこから離れるんだ。いや二十秒待ってくれ。今の位置情報を今君の腕時計から確認する。ちょっと近くの商品でも見ているふりをしてくれるかい?』


「構いませんけど……もし何かあったら」


『発動状態で周囲に何か影響はあるかい?不自然に暑かったり、逆に寒かったり、何か変な音がするとかは?』


 周介はドクに言われた通り、この辺りの違和感について探る。普段の秋葉原の姿を知らないために確かなことは言えないが、少なくとも現状感じ取れる異常はそこまで大きくはなかった。


「寒くもないですし、暑くもありません。風は吹いてないですし……しいて言えばちょっと臭い位ですか」


『臭い?悪臭ってことかい?』


「えぇ、東京だとこれくらい当たり前なのかもしれないですけど……でも……これは……」


 周介は東京のにおいというものに慣れていない。どこか独特な、悪臭に近いようなにおいが多いことに気付いていた。


 汚物のような、腐った匂いがこの街には多いのだ。人が多い街であれば、人が出すゴミが多いのも必然である。そのため周介たち田舎育ちの人間が悪臭であると感じてしまうのも無理のない話だろう。


 だが周介はこの匂いが、何かおかしいと感じていた。先ほどまで歩いていて、このようなにおいはなかった。


 人が出すゴミのにおいではない。ゴミが発するようなにおいではない。それが一体なんであるのかはわからなかった。だが東京についてずっと嗅いできた、都会独特のにおいではない。今まで嗅いできた、わずかな違和感の残る種類のにおいではない。


『何か、気がかりなんだね?君は、それが何かおかしいと、そう思うんだね?』


「はい。においが違うというか、種類が違うというか……どっかで嗅いだことがあるような、どっかで、近くで嗅いだことがあるような……」


 周介は焦りながらも、何とか冷静になろうと努めていた。そして何とかその匂いがいったいなんであるのかを思い出そうとしていた。


 だがどうにも思い出せない、どこかで嗅いだはずなのだ、どこかでこの匂いを知っているはずなのだ。そう確信できる何かが周介の中にはある。


 今まで生きてきて、何度か嗅いだことのある匂いだった。その匂いは、はっきり言っていい気分のするものではない。記憶からか直感からか、それとも漂う悪臭からか、周介はわずかな不快感を覚えていた。肌を這うような、それでいて体の内側に入ってくるような不快感だ。強烈で、一度感じたら忘れられなさそうな、そんな強い印象を周介に与えてくる。


 だがそれを思い出すことができずにいた。それを、記憶の奥底から引きずり出すことができなかった。


『わかった。周介君、君はすぐにそこから離れてくれるかい?もう位置情報の確認はできた。あとは君が安全な場所に退避するだけで問題はないよ』


「大丈夫なんですか?俺がいなくても……って、俺がいたって何ができるわけでもないか……」


 周介は今自分の装備を持っているわけでもなければ、この場所を知らせる以上のことができるとも思えなかった。


 何せ周介はつい最近能力を身に着け、ようやくまともに能力を操れるようになってきたばかりのひよっこだ。そんな人間に、この状況を変えられるとは思えなかった。


 それに、周介の能力は物体を回転させることだ。そんな能力で、仮にいったい何ができるというのだろうか。


 早く移動する程度の事しかできなさそうな能力だ。そんな能力で、何かをできるはずもない。少なくとも、この状況では何もできない。


『そういうことさ。君はせっかくの卒業旅行中なんだ。どうしても手が欲しい時はまたコールさせてもらうよ。それまでは、ゆっくりしていてくれ』


「了解しました。では、離れます。また何かあれば、電話してください」


 周介がドクとの会話を終えると、ちょうど周介がいなくなったことに気付いた友人たちが来た道を戻ってきていた。


「あ、いたいた。何やってんだよ。早く行こうぜ、腹減ったよ」


 どう言い訳をしようかと思っている中、周介はすぐ近くにあったガチャポンが大量にある店を見る。


「だってみろよ!この数!やばいだろ!ガチャポンだぞ!」


「ん?おぉ、すげえ量だな。店の中全部ガチャガチャなのか?」


「いろいろあるな。後で寄ろうぜ。それはいいから飯食おうよ、腹減った」


「悪い悪い。ついテンション上がった」


「まぁ、テンション上がるのは仕方ないよな。テンション上がってちょっと大きな出費をするのはよくあることだよな。つい刀を買っちゃっても仕方ないよな」


「それはないわー」


「乗れよそこは!そこは乗ってくれよ!」


「いや、がちゃがちゃにテンションが上がってついやっちゃうのはわかる。刀を買うのはちょっとわからないけど」


「わかれ!日本男児!日本の夜明けぜよ!」


「ちょっと何言ってるかわからないです」


 周介は友人たちとともに、元の日常に戻ることに成功していた。


 そのビルの隙間からほんのわずかに漂う異臭。それに気づくものがいったいどれほどいるのだろうか。

 いったいどれほどのものが、あの暗がりの中にある蒼い光に気付くのだろうか。


 そして、あのビルの隙間ではいったい何が起きているのだろうか、ほんのわずかな隙間からしか状況を把握できなかった周介には知る由もない。


 友人たちと歩く中、周介は一瞬だけビルの隙間の方に視線を向ける。このまま本当に立ち去っても良いのだろうか。そんなことを考えながら。


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