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「うっおぉう……すげえな」
「あぁ、すげえな」
「ちょっとこれは予想外です」
周介たちはネットで検索したすた丼という店にやってきていた。
食券を買う際、周介たちは男子中学生らしく肉も米も大盛りという選択肢をとったのだが、その選択肢が誤っているということをいまさらながらに実感していた。
目の前に出てきた肉の山、そしてその肉の下にあると思われる米。すた丼、つまりはスタミナ丼なのだが、大量の肉に米、通常の丼とはレベルの違うその大きさに周介たちはわずかながらに気圧されていた。
部活動などをやって腹を減らした状態ならばまだいけるかもしれない。だが今の周介たちはただ歩いていただけだ。昼食としてこれが入るか怪しいところでもある。
「お、結構うまいぞ」
「うん、塩味がいい感じ。美味い美味い」
「生卵かけてもいいな、これはいい」
「案外ぺろっといけそうだな」
だがそんなことを考えたのも一瞬だけだった。実際に箸を伸ばしてみると文字通り吸い込まれるように肉と米の山がその体の中に入っていく。
食事という名目において、中学生の胃袋をなめてはいけない。特に肉に関しては彼らはとにかくどん欲だ。
肉肉肉肉米肉肉肉肉米と、肉と米の配分を調整しながらどんどんと肉と米を胃袋の中に詰め込んでいく。
本当に噛んでいるのかわからないというレベルだ。どんどんとなくなっていく丼の中身。恐ろしいほどの勢いで、周介たちは丼を平らげていた。
「ぶへぇ……なかなかうまかったな。特盛にしてもよかったかな?」
「見た目びっくりしたけど、そこそこだったな。あともうちょっといけそう」
「まぁまぁ、また動くんだし、食べ歩きとかすること考えたらこのくらいがちょうどいいんじゃないのか?腹八分目ってことで」
「俺もう金ないんだけど」
「それは知らない」
唯一刀を買ったことで所持金の少ない友人は食べ歩きができないということにがっかりしているが、それでもこの食事には満足できたようだった。
千円以下で満腹気分を味わうには最適といえるだろう。
「やっぱ米だな。日本人は米を食うべきだよな。そして肉!ザ肉!」
「確かに、ザ肉って感じの飯だったな。満腹満腹」
食べ終えた皿をきれいに並べて周介たちはとりあえず店を出ることにする。さすがに昼時にいつまでも店でたむろすのはマナー違反だ。
この満腹感を少し満喫したい気持ちもあったが、カウンターから見える外の行列を見るとさすがにのんびりするような気にはなれなかった。
「んじゃ次どうする?せっかく秋葉原に来たし、なんかやってく?ゲームとか」
「俺はメイド喫茶に挑戦したい。時間はまだあるだろ?」
「けどメイド喫茶行ったらたぶん他が回れなくなるぞ?まだスカイツリーと秋葉原しか見てないのに」
「あとひったくりと事故を見たな」
「東京で見るもんじゃないだろ。他、ほらいろいろあるだろ、東京に来たら」
「隣のお茶の水の楽器店とかもよくね?かなり俺気になってんだけど」
「どうせ買う金ないくせに」
「なくてもみたいんだよ!こういうのは気分の問題なんだよ!」
どうにも友人たちの中で完全に見て回りたい内容が異なっている。このままではいつまで経っても何もできないだろう。
そんな中、周介は自分の携帯のメッセージに通知が入っているのに気づく。そしてその内容を読んで目を細め、友人たちを見てため息をつきながら手を挙げる。
「じゃあこうしよう。東京駅に十六時に集合だから、秋葉原駅に十五時半集合。それまで自由行動。どうだ?」
現在の時間は十二時半。あと三時間は自由に行動できることになる。周介の提案に他の友人たちは互いに顔を見合わせて大きくうなずく。
「良しそうしよう!俺メイド喫茶行ってくる!」
「俺ゲーセン行ってくる!あとダーツ!」
「俺アニメイト行ってくる!その後本屋!」
「俺楽器屋!んじゃまたな!」
十五時半になるまで自由行動になった時点で、それぞれが勢いよく走り出す。自分たちの目標に向かって走り出すその姿は見ていて清々しい。
せっかく来た東京なのだ、楽しまなければ損というものだろう。
そんな友人たちを見送りながら周介は小さくため息をつきながら携帯の画面を見て、そして通話を始める。
「もしもし、ちょうど一人になった。どこで集合する?」
『今あたしも秋葉原ついたから、じゃあ駅前集合でいい?広場みたいな方ね』
「わかった、すぐ行く」
通話の相手に会うべく、周介はすぐに移動を開始した。その先にいる人物と、これからやることを考えて周介は気が重たかった。
「お待たせ。遅れたか?」
「来たばっかだって言ったでしょ?あたしも呼び出されて急いできたから……状況はあんまりよくないみたい」
集合場所である秋葉原の駅前の広場で待っていたのは瞳だった。学校を抜け出してきたのか、未だ学生服のままだ。
彼女はかなり大きなキャリーバックを持ってきていた。その中にいったい何が入っているのかはわからなかったが、彼女の格好が今度から周介が通う粋雲高校、その系列の中等部の制服であるということはすぐに分かった。
こうして学生服の二人が並んでいるというのは不思議な光景であるように思える。
特にここが秋葉原だからだろうか。一種のコスプレのように見えなくもない。だがれっきとした制服なのだ。何もおかしいことはないのだと周介は自分に言い聞かせていた。
「はいこれ、ドクターともう繋がってる。いざという時困るから通信機は常に持っているようにって言われなかった?」
瞳が渡してきたのは首につけるタイプの通信機のようだった。襟や服の内側に隠すことができるようになっている。その一部からはイヤホンが取り外せるようになっており、どうやら首の通信機と同期することで音を出しているらしい。
首に取り付ける部分には小さいがマイクもあり、小型ながらしっかりと役割を果たしているように見える。
「っていうか俺の場合時計しか持ってないんだよ。あとは携帯とかでやり取りだった。通信機とかってすぐもらえるものなのか?」
「外で活動する人は常に持ってる。あたしはもらったけど、ほとんどカバンの底にあったし使ってなかった」
「それって持ってる意味あるのか?」
「こういう風に使えたからいいじゃん。持ってたのは間違いじゃないってことでしょ」
「それもそうだな。でも俺がこれもらったら、安形の分はどうするんだよ」
「あたしのはこっち。それはあんたの。ドクターに届けてくれって頼まれたのよ。まぁ、ちょうど授業サボる口実が欲しかったからいいけど」
瞳は周介に通信機を渡すと、自分もすでにつけている通信機を見せてくる。
届けろといわれて素直にやってきたのが授業をさぼりたかったからだということに少し笑えてしまう。
瞳はどうやらそこまで真面目な生徒というわけではないようだった。もっとも、周介もそのことに関してとやかく言うつもりはないが。
『もしもしぃ?周介君、聞こえてるかい?』
「聞こえてます。ドク、手伝ってほしいことがあるって書いてありましたけど、一体どうしたんですか?」
先ほど友人たちと話していた時に周介にメッセージを送ったのはほかならぬドクだった。そして周介は機転を利かせて何とか一人になることができた。
手伝ってほしいことがあるという言葉は、緊急性こそ低そうだが、少なくとも面倒なことが起きていることは間違いなさそうだった。
『まぁちょいと厄介な状況になっていてね。さっき君が発見した光、こっちのチームで調べてみたんだが、それがなかなか厄介でね』
「厄介、というと、やっぱり、俺らと同じだったんですか?」
『そうだね。同じなんだけど、同じじゃないのさ。悪い意味で、いや、良い意味でもあるんだけど、良くもあそこまで放置されていたものだよ。僕としてはそっちの方が驚きだね。半分呆れてるレベル』
「……あの、話が読めないんですけど。順を追って説明してくれますか?」
ドクの説明はどうにも要領を得ない。そういう話し方をするのが癖なのか、それとも単純に周介をじらしているのか。どちらにせよ何かの手伝いをさせられる身からすればあまり良い対応とは言えなかった。
『オーケー、話を先に進めよう。安形君、君も聞いているね?』
「聞いてますよ。早く話進めてください」
『よしよし、この事件を君たちに解決してほしくて二人を呼んだのさ。簡単なことだろう?』
事件を解決といわれて、周介は死にかけたあの高速道路の一件を思い出す。
あれと同じことをまたやれといわれたら、周介はいの一番に断るつもりだった。
「あのドク、一応言いますけど、戦うとかそういうのは……」
『大丈夫、君たちが戦うわけじゃない。というか戦う相手なんていないさ。周介君は漫画の読みすぎかい?バトル漫画じゃないんだから、そんなに毎回毎回戦うようなことは起きないよ。せいぜい三回に一回くらいさ』
それは結構な頻度ではないのだろうかと周介と瞳は互いに顔を見合わせて首をかしげてしまう。
「ていうかドクター、あたしたちに何とかできるなら、他のチームでもなんとかなるんじゃないんですか?なんでわざわざ私たちなんです?」
『まぁまぁそう邪険にしないでよ。君たちの可能性を一つ、世に示すとしようじゃないか。何よりこれはなかなか貴重な体験だと思うよ?能力に関することではあるが、危険はかなり少ない。と思う』
「思うって、確証ないんですか?」
『あるわけないじゃないか。何が起きるかわからないのが世の中ってもんだよ。まぁとりあえず移動しながら話をしよう。ナビに従って移動してくれ。頼んだよ』
『了解。私、メイト11がナビを引き継ぎます。お久しぶりですね』
「あ、その節はどうも」
周介と瞳は互いに不審そうな顔をしながらとりあえず案内をしてくれるメイト11の指示に従って進むことにした。




