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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十話「分水嶺に立つ小動物」

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「というわけなんです。俺の天敵って、どんなタイプなのかなって」


 周介は一番相談しやすい大門に相談を持ち掛けていた。大太刀部隊でありながら周介とよく会い、なおかつ話し相手になっている大門は相談するには最適な相手だと思ったからである。


「天敵、天敵かぁ……なるほど、前に出るようになったのであればそういうことを知っておいてもいいかもしれないね」


 夏野菜の収穫を終え、次の野菜は何を育てようかと考えている中でするには随分と物騒な話ではあるが、周介にとっては重要な、命に関わる内容なだけに大門は真剣に考えてくれているようだった。


 大太刀部隊の中でも古株の彼ならば、良い意見を出してくれると思ったのだ。古守に相談してもよかったのだが、彼に話をするとまずそういう相手に直接当てられそうなので、まず知識として自分の苦手な分野を知っておくべきだと考えたのである。


「確認だけれど、百枝君の能力は身体能力強化はかかっていないんだよね?」


「はい、単純にものを動かすだけです」


「そうなると、攻撃を当てられることそのものが致命傷になりかねない。攻撃全てが弱点、っていう風に考えればいいのかな?」


 攻撃全てが弱点。確かにその通りかもしれないと周介は項垂れていた。


 ゲームなどでも必ず得手不得手があるはずなのに、全ての攻撃に弱いなどと言われると少し傷ついてしまう。


 実際その通りであるために一切反論はできないのだが。


「だから古守さんも君に身を守るための訓練や、避けるための訓練をしてくれているんだと思うよ?とにかく攻撃に当たらない。単純だけど、君の『性能』から言えば、回避こそが最も重要になることは間違いない」


「じゃあ逆に、俺に攻撃を当てやすい人が、俺の天敵ってことですか?」


「そういうことになるね。さて、ここで問題。君が今まで戦った中で、君に攻撃を当てやすかった人、攻撃を当てられた人っていうのはどういう部類の人かな?」


 周介の戦闘経験は決して多くはない。被弾が全くないかと言われるとそういうわけでもなく、周介も普通に攻撃を当てられたりしている。


 その人数が限られていること自体は確かだが、その人種に周介は心当たりがいくつかあった。


「えっと……俺と同じか、それと同じくらいの速度を持っている人」


「そう。機動力重視の人間にとって、同じ速度を持つ人間に攻撃を当てやすい。それは相手にも、そして百枝君自身にも当てはまる」


 能力戦において重要なのは相手との距離だ。自らの射程距離の中にいなければ満足に攻撃を当てることなどできず、相手の射程距離と自分の射程距離をいかに把握しながら攻略するかというところが重要になってくる。


 その中で、彼我の距離を簡単に変えられるのが速度だ。相手よりも機動力があればその分距離の維持や変更は容易になる。さらに言えば相手の攻撃も避けやすくなる。


 逆に言えば高い機動力同士の人間が相対した場合、相対速度がゼロになる可能性が高く、その分攻撃を当てることがより容易になる。


 攻撃をする際、相手の速度が速ければ当然偏差射撃などの技術を求められる。そういった部分でも速度が同じであれば近づきやすく当てやすい。もちろん速度が上がれば上がるほど、その分自分の態勢の維持などが難しくなるため一概にすべて当てやすくなるというわけではないが。


 また、身体能力強化を扱える能力者の中で高い速度を持った人間も、周介にとっては天敵に近い。

 つい先日手合わせした鬼怒川などがその典型と言えるだろう。


 高い機動力に攻撃能力。周介が全力で逃げても逃げ切れなかったほどの、単純ではあるが圧倒的な膂力。あのようなタイプはまさに周介の天敵というべき存在だ。


 古守はそれをわかっていたからこそ、近接時における対処の方法を周介に学ばせた。その土台は徐々にではあるが周介の中に築かれつつある。


「では次、他にどんな相手なら攻撃が当たりやすい?」


「……狙いをつける必要がない能力ですか?例えば、範囲攻撃、放射状に拡散する攻撃とかがあれば、当てやすいかと」


 周介と大太刀部隊の訓練では今、射撃系の単発、あるいは連発攻撃以外が認められていない。これは周囲の家屋や自然への被害を考慮した形でもあるが、それ以外にも周介に当たってしまうということを考慮している。


 周介のように機動力はあっても耐久力がない人間にとって、範囲攻撃はもっとも忌避するべき攻撃だ。


 何せ避けようにも避けるための場所がないのだから。


「うん、わかっているね。その通りだ。能力によっては広範囲への攻撃が可能だけれど、速いだけの人間なら、能力の攻撃で埋め尽くしてしまえば捕まえられる。特に百枝君みたいな能力者はこれに気を付けなきゃいけない」


「気を付けるって言われても……そういう相手に当たった時点で勝ち目がないんですけど」


「そう、だからこそ気を付けるんだ。範囲攻撃の特性は知っていると思うけれど、最も安全な場所も存在するんだよ?」


「でも、範囲攻撃なんですよね?どこに行っても危ないんじゃ……」


「いいや、安全な場所が一か所だけある。そここそが活路でもある」


 活路。といういい方に周介は考えを巡らせる。範囲攻撃に逃げ場などない。そう思っていたが、その実安全地帯は存在する。その言葉に、周介は一つ思い当たるところがあった。



「ひょっとして、発動者の周辺?」


「そう、範囲攻撃を発動する時、大抵の能力者は自分から一定距離空けることが多い。懐こそが最も安全ということだね」


 それは人間の防衛本能のようなものだ。敵への攻撃で自分がやられてしまっては元も子もない。


「とはいえ、能力者の中には自分の耐性を信じて自分ごと攻撃する人もいるから一概には言えない。だけどただ攻撃を受けるだけよりは絶対安全だよ」


「耐性?」


「特定の能力者は、その能力に関わるものに対して耐性を得たりするんだよ。例えば、炎だったりね。自分の能力で怪我をすることがないようにするための特性みたいなものかな?」


 能力を扱うものは無意識にその能力に対して防衛本能を働かせることで、その効果を弱めることがある。


 炎を扱う能力者であれば炎に強くなり、火傷しにくくなるという理屈だろう。周介はどういう理屈でそれが行われているのかは不明だったが、自らを巻き込む形で攻撃する人間がいるという事実に少しだけ恐怖していた。


「けどこの方法を取るには、当然それだけ相手に近づいて無事でいられるだけの対応力が必要不可欠なわけだね。相手が殴り掛かってきても、攻撃してきても瞬時に対応する必要がある。百枝君の場合でもそれは同じだね」


「……古守さんが近接を重視してたのはそういうのもあるんですかね」


「たぶんね。古守さんがどういう方針で君を鍛えていたのかわからないから確実なことは言えないけれど、現場に出るための下地を作っていたことは間違いないと思う。少なくとも君が今までやってきた訓練に何一つ無駄なことはない」


 大太刀部隊の人間が訓練するのだから、当然そういう方向に話が進むということは理解していた。周介も自分の身を守るための訓練を申し出たのだ。ある意味、古守がやってきたことはすべて自分の身を守るための手段。


 周介は今までの自分の訓練が全く無駄になっていないということを知って少し安堵していた。


「けど気を付けてほしい。中には範囲攻撃でも、安全地帯が射程距離から離れるということ以外にない能力もあるんだ」


「そんな能力あるんですか?それって……もう無敵なような気がするんですけど……」


「無敵っていうわけじゃないんだよ?そういう能力は大抵威力が低かったりするんだ。だから耐久力が高い人間ならほとんど効かない。百枝君みたいなタイプにはつらいかもしれないけどね」


 周介のような機動力重視耐久力皆無の人間に対しては、避けることが絶対にできない攻撃こそが天敵足り得る。


 そういう意味では周介は天敵が多いというべきだろう。


「俺の場合天敵だらけですね、攻撃当てられただけでほぼ負けじゃないですか」


「そうでもないさ。君みたいな機動力が高いタイプは、耐久力や攻撃力が高くても足が遅い相手なんかを一方的に攻撃できる。もっとも君の場合攻撃は武器に依存してるだろうから、それがないと話にならないけど」


「戦うならってことですよね。俺は……」


「戦うつもりがない。それも悪くはないと思うよ?けど、自分が力を持っているということを相手に教えることができれば、それだけ相手も攻撃しにくくなる。相手だって生き残りたいだろうからね。そういう賭け引きも、相手を攻撃しないという戦い方には必要だと思うよ?特に銃を使うことができるならね」


 銃を使っての攻撃の場合、相手は即座に銃の存在を理解できるはずだ。この世界において最も知られる武器。その効果も、どんなに知識のないものでも理解できる。


 当たれば、運が悪ければ死ぬ。


 そういう効果を持った武器を、こちらが所有し使っているというだけで相手の行動能力はかなり鈍る。


 誰だって死にたいなどとは思わないし、銃で撃たれるという恐怖心が、障害物などから身を出すことを躊躇わせる。


 銃などが全く効かないような能力を持っているとしても、銃で撃たれるかもしれないという考えが頭によぎるだけで動きが鈍るものだ。


「殺すこともできるんだぞっていう風に相手を威嚇するのは悪い事じゃないさ。特に相手が能力者ならね。君が相手を殺すかどうかは重要じゃない。相手にわからせてあげることも、また必要なことだよ」


「……威嚇射撃のための実弾ってことですか」


「そういうこと。相手も武器を持っている。能力っていう強い武器だ。百枝君が武器をもってそれを使うことは何も悪い事じゃない」


「でも実弾を使えば、最悪の場合……」


「そう、死ぬことになる。だからこそだ。相手もそれなりの力を持っている。いつでも人を殺せてしまう力だ。止めるための武力、なんて言い方は都合がよく聞こえるかもしれないけど、それを止められるのは今のところ僕らしかいないんだ」


 能力者を止められる存在は、今のところ能力者だけだ。武力を使って攻略するとなれば多くの被害を出すことにもつながる。


 実弾の有用性、それは周介も理解している。だがいざ使うとなれば指が震えてしまう。


「百枝君、覚えておいてくれ。君が誰かを気遣える優しい人物だというのは、とても良いことだと思う。けどそういう気持ちも何もかも踏みにじることができる人間もいる。そんな人間に相対した時、引き金を引く覚悟だけは、今の内から準備しておいたほうがいい」


 いつかは決断しなければいけない時が来るのかもしれない。周介の些細な躊躇いと、誰かの命を天秤にかける日が。


 そしてその日が遠くないことを、周介は何となく察していた。


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