表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十話「分水嶺に立つ小動物」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

515/1751

0515

「兄貴!大丈夫ですか!?」


 真っ先に周介のもとに駆け寄ってきたのは玄徳だった。


 鬼怒川が砕いた障害物を周介の体に当たらないように傘になっている中、駆け寄ってきた玄徳の顔を見て周介は安堵の息をつく。


「あ、げ、玄徳、おれ、俺、生き、てるか?」


「大丈夫です、生きてます!無事ですよ兄貴!」


「死んだ、死んだと思った、死ぬって思った……やば、やばかった……!」


 周介は恐怖のあまり若干ではあるが錯乱状態にあった。自分が本当に死んでしまうのではないか、いや、あの一瞬、本当に死ぬと思ったのだ。


 体が動いたのは、本当にとっさの行動だった。何も考えていない、体が勝手に動いたと言っていいような、そんな行動だった。


 なぜ自分が助かったのかもわかっていないような状態で、周介は立ち上がることさえもできずにいた。


「いやいや自慢していいよ。一分間とはいえうちから逃げきったのはなかなか!ちょっと見ない間に随分と上達したじゃんか!」


 鬼怒川が楽しそうに笑う中、周介は何か言わなければと思いながらも、頭もろれつも回ってくれない。


 今この状態で何を口にしたらいいのかもわからないうえに、体の力も完全に抜けてしまっているのだ。


「兄貴、大丈夫ですか?立てますか?」


「……だ、ダメだ、こ、腰、抜けた……はは、な、情け、ないな」


 これが腰が抜けるという状態なのだろうかと、周介は自分の足に全く力が入らない状態になっていることに自嘲気味に笑う。


 だがそんな周介を笑うものはこの場にはいなかった。それだけ、鬼怒川から逃げきるということは大きな意味を持っていたのだ。


 いくら加減をしていたとはいえ、小太刀部隊の人間でそれができるものなどほとんどいないと言っていいだろう。いや、大太刀部隊の中でも、片腕の状態の鬼怒川に対し一分間逃げ切ることができるかどうか。それだけのことを周介はしたのだ。


「肩貸しますよ。捕まってください」


「わ、悪い……!まだ手、震えてるよ。格好悪いなぁ……」


 せっかく一分間生き延びても、これでは勝ったなどと口が裂けても言えない。あと十秒でも時間があれば鬼怒川は周介を仕留められたのだ。そういう意味ではほとんど負けに近い。


 だが直接対峙した鬼怒川はそう思ってはいないようだった。


「何言ってんの、格好悪いわけないじゃんか!圧倒的脅威に対して一分とはいえ生き延びた!これはすごいことだよ?」


「でも、先輩も、か、加減してたでしょ?」


「最初はね。でも途中からそれじゃやばいと思って切り替えた。本当に当てるつもりで攻撃してたんだよ?でも当てられなかった。片腕の状態とはいえ、ちょっと悔しいよ」


 転機は、鬼怒川が指を使い始めたあたりだ。周介の機動力、そして対応力を見て単純な攻撃では攻め崩せないと判断した鬼怒川の判断は間違っていない。


 大太刀部隊ならではの、勝負勘とでもいうのだろうか、このままでは本当に当てることはできないと判断し、現状できる最適な手段をとることにしたのだ。


 結果、その行動によって周介を追い詰めることはできた。追い詰めることはできたが、勝利条件ともなっている攻撃を当てるということはできなかった。


 当初鬼怒川は、ある程度百枝の成長度合いを見る程度のつもりだった。直接対峙したほうがそれはよくわかる。危機に相対した時、どのような対応をして切り抜けるのか、それは直接対峙しなければわからない。


 そして、周介は鬼怒川の想像以上の動きを見せたのだ。鬼怒川も途中からは勝つために戦った。だが勝つことはできなかった。


 状況的には勝ったといっても問題ない、次の一手で周介は確実に攻撃を当てられていたのだから。

 だが結果は結果だ。鬼怒川はそれを覆そうとしようとは思えなかった。


 周介の動きには、常に恐怖が付きまとっていた。鬼怒川の攻撃に対する恐怖。自らに襲い掛かる死への恐怖。


 周介は常にそれを乗り越えながら動いていた。いや、乗り越えるというのは適切ではない。常にそれから逃げようと必死に足掻いていた。


 そのすべての緊張などから解き放たれ、今周介は満足に体も動かせない状態になってしまっている。

 勇気を振り絞って挑んだものに、もう一度と鞭を打てるほど、鬼怒川は鬼にはなれなかった。


「お疲れ様です。百枝さん、大丈夫ですか?」


「足に、力が入ら、ないくらいです。それ以外は……外傷らしい外傷は」


「いえ、かなり無茶苦茶な動きをしていました。念のためエイド隊に診てもらったほうが良いでしょう。今日の訓練はここまでですね」


「えぇ?ヨッシーさん、まだもう一人残ってるじゃないですか」


 そう言って鬼怒川は玄徳の方に視線を向ける。次は当てて見せるといわんばかりの不敵な視線に、玄徳は受けて立つと視線を逸らすことはなかった。


「残念ですが、そうもいきません。この惨状では……」


 古守が視線を向けた先には、鬼怒川が破壊の限りを尽くした訓練場がある。障害物の大半が破壊され、瓦礫の山と化している訓練場があった。


 これでは満足な訓練ができるとは言えない。少なくとも古守が求める市街地戦ができるとは思えなかった。


「これだけの損害……大変なことですよ?鬼怒川さん」


「あ、あー……いや、ちょっと、加減が……ね?」


 鬼怒川は視線を逸らせながら困ったように笑みを浮かべている。


 建物を壊さないようにという前提を初手から破っていただけに、古守は頭が痛くなっていた。


 この修繕は時間がかかるかもしれないなと、そんなことを考え、周介と玄徳はとりあえずエイド隊の居る医務室に向かうことにした。


 結果から言えば、周介の怪我はその日のうちに完治させることができていた。


 筋肉の筋と、内臓の一部に損傷、打撲数か所などなど、いろいろとあったがそのあたりはエイド隊の人間によって即日完治することができていた。


 とはいえ、急激な負荷によって体が悲鳴を上げているのは事実。体の負担を考慮して直近での訓練は控えるようにと通達されていた。


 以前手越が言っていたのと同じだ。痛みを与えられ続け、その日のうちに治され続けると脳が勘違いを起こして痛みを感じることがある。それを防ぐための休暇のようなものだった。


 休暇と言っても、周介はやることが目白押しだ。特に能力操作における訓練や、材料などの運搬は日常的にやっていることだ。


 とにかく体を休める、という意味であればこの程度をしていても何も問題はない。いつも通り荷物を運んでいると、周介は今までと少し違うことに気付いていた。


「お、ラビット隊じゃねえか。今度俺らとも訓練してくれよ」


「ラビットの、次は俺らとやろうぜ」


 そう、大太刀部隊の人間から妙に声をかけられるのだ。周介達ラビット隊が普段から荷物運びをしているのは割と知られていることではあった。何せ周介がまだ新人で、荷物運びを手伝っていた頃に挨拶だけはしっかりしていたからこそ、そういうチームであるという認識が強くなっていたのだろう。


 もっとも、今は別のチームとしての認識が強くなってしまっているようだったが。


「あ、百枝じゃんか」


 今度は誰が声をかけてきたのだろうかと、周介が重機の上から視線を向けるとそこには福島と十文字がいた。


 どうやら二人は学校終わりに拠点にやってきたようである。


「なんだお前らか。どうした?」


「どうしたじゃねえよ。お前やったな!鬼怒川先輩に一泡吹かせたって、大太刀の中じゃ話題になってるぜ?」


「大したもんだよ。俺らじゃ絶対無理だから」


 どうやら周介が鬼怒川に勝ったという事実がかなり湾曲して伝わっているようだった。


 実際に見たものからすればどのような顛末だったのかはよくわかることだろうが、実際に現場にいなかったものからすれば周介が鬼怒川に実力で勝ったなどと思われるのだろう。それはさすがに問題があった。


「あのな、片腕の状態で、しかも最後には追い詰められて、あんな状態で一泡吹かせたなんて言えないっての」


「いやいや、戦闘の映像見たけどよ、あれはお前の勝ちだって。鬼怒川先輩訓練所滅茶苦茶にしてたじゃんか」


「あれだけ逃げられるのは大したもんだよ。その後足ガックガクになってたらしいけど」


「お前らもあの人に追いかけられてみろ、んでもって攻撃が目の前を通過してみろ。『あ、死んだ』って思うから」


「嫌だね。俺ら大太刀の中でも後方部隊だぞ?何が悲しくて前衛トップクラスの人間とやり合わなきゃいけないんだよ」


 鬼怒川は前衛でもトップクラスの実力者だったのかと、周介はそんな相手と訓練をさせられたことに強く憤慨していた。


 とはいえ、良い経験になっているといえばその通りで、大した怪我もなく終わらせられたのは運がよかったというほかない。


「俺の部隊は狙撃専門だからあんまり訓練には参加できないけど、十文字のところは中距離部隊だし、百枝との訓練もあり得るんじゃね?」


「確かに。百枝、その時はお手柔らかに頼むよ」


「こっちのセリフなんだよなぁ……お前らが俺に加減してくれよ。そうじゃなきゃ俺跡形もなくなるし」


 周介が二人の戦闘を見たのは一回だけだ。旅行の際に遭遇したウィリーブルとの戦闘。森林地域、それも夜間での戦闘であったためにあまり多くの情報は見えていない。


 しかも福島はその時単純に弾を作っていただけ。十文字は周介の見えないところから攻撃をしていただけ。


 それでもその火力の高さは今でも覚えている。


 そんな人間が相手になるなどと考えたくもなかったが、一つ疑問が生まれる。


「そういえば福島の部隊の……ミーティア隊の人とは割と一緒の現場になることが多いけど、十文字の部隊の人とはあんまりかかわったことないな。ノイズ隊、だっけ?」


「あー……うちの部隊は若干特殊だからなぁ……うちはミーティアみたいなのと同じくコンセプトチームなんだけど、立ち回りからすると見えないところからの攻撃が多いって感じなんだよ。ゲリラ的な戦い方っていうのかな?」


 ミーティア隊が狙撃特化に対して、ノイズ隊はゲリラ戦術重視の戦い方を重んじるタイプのようだった。


 確かに旅行の時の戦闘でも、十文字は姿を見せることなく一方的に攻撃していた。


 遮蔽物が多く、なおかつ相手へ一方的に攻撃できるような能力を持っているのだろう。


 確か十文字は何かの紙を使っていたように思えたと、周介は思い返していた。


「けど、たぶんうちの人間の攻撃は百枝みたいなタイプに対しては天敵だと思うぞ?少なくとも被弾ゼロはまず無理だ」


「あー、確かに。百枝はその辺りを今後課題にしてかなきゃかもな」


 十文字と福島の言葉に、周介は引っかかる部分があった。


 天敵。その意味を周介は理解できていなかった。周介にどのような天敵がいるのか、そしてどのようなタイプが天敵なのか、能力者の戦いにおける有利不利を、周介はまだ知らないのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ