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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」

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「そのままを維持して。あとはあたしが動かすから」


 そう言うと、瞳はゆっくりとだが確実にマネキンを操りだす。


 その動きはスケートなどで周介がテレビで見たことがある動きそのものだった。ローラースケートでもあれができるのかと素直に感心してしまうが、何度か旋回すると人形は転んでしまう。


 ローラーの速度は変えていない。それが原因のようだった。


「なるほどね。体勢とローラーの回転を合わせなきゃいけないわけだ……百枝、タイミング見て速度変えてくれる?」


「タイミングって、簡単に言ってくれるな。自分でやるならまだしも、他の人の動き見てそれで変えろってのかなり難しいぞ?」


「じゃあ、あぁそうだ。あんたもやってみてよ。あたしがその動きをトレースするから。そうすれば簡単じゃん?やって」


「やってって……そんなに簡単に動き真似られるもんなのか?」


「何年能力者やってると思ってんの。それに百枝の動き何度も見てるし。多少なら真似られるから。あとはこっちで調整するし」


 なんとも心強い言葉に、周介は自分の装備の点検をしたうえでこちらに戻ってくるマネキンを見て自分の装備と見比べる。


 各種装備の着脱の方法も、このマネキンは周介がつけているものと全く同じものになっているようで、周介は少し興味があってそれらを着け外しを繰り返して装備のギミックをいくつか動かしていた。


「何やってんの?」


「いや、こうして第三者視点で見るとこの装備のギミック、格好いいなと思ってな。良くない?このプロテクター同士が結合するところとか。回転するギミックとか、良くない!?」


「いや……別にどうでも」


「ようやく気付いてくれたかい!」


 周介が装備のギミックにやや興奮気味に着け外ししているのを見たからか、ドクが勢いよく、そして元気よくその会話に割って入ってくる。


「やっぱり自分で見るよりも第三者視点で見せることが大事だったんだね!このギミック作るの結構苦労したんだよ!回転によって接合する各プロテクター、いや、各装甲というべきだろう!各装甲を接続するギミックは実はかなり力を入れているところなんだ!今は手や足しかほとんどないけど、今後は胸部、背面、肩その他諸々な部分にも装甲を追加できればいいなと考えているよ!」


「装甲……!いいね!いいですね!このチャック部分が回転と一緒に上がっていって最後首の装甲と合流するところとか、足の部分の部品と装甲が接続されるところとか、ロボットものみたいで熱いです!わかるだろう安形!」


「……へぇ、そうなんだ……?」


 二人が熱くなっている中、瞳はその熱についていけないのか困惑してしまっていた。


「この接続点のいいところは現場では周介君しか着脱ができなくなる点でもあるんだ。一応六角ボルトでも外すことができるようにしてあるけどね。いちいち止まって六角ボルトで開けるようなこともないだろうから。とにかくこれらがいいのは確定的に明らか!」


「別にどうでもよくない?なんでそこまで熱く盛り上がれんの?普通に手でチャックしたり手で付けたほうがよくない?」


 瞳の言葉に、周介とドクは一瞬顔を見合わせて何を言っているんだこいつはという表情をする。


 確かに間違ってはいない。自分の装備を自分で取り付けるというのは当たり前の話だ。周介の場合は自分の能力で取り付けるため別におかしな話ではないだろうが。


「いいか安形、こういうギミックは必要なものなんだよ。だって考えてもみろ、このギミック、超かっこいいじゃん」


「これは男のロマンなんだよ。こういった細かい、一見無駄にも思えることが、実は大いなる機能美というものを秘めているんだ。実は君の人形にも地味にそういった機能が隠されているんだよ?男のロマンを男が追い求めて何が悪いというのさ」


「あぁそう。何でもいいから早くしてくれない?」


 どうやら周介とドクの男としての話に、女である瞳は同意できないのかついていけないのか、興味なさそうにさっさと走るように周介を促す。


 さすがの周介も付き合ってもらっておいてこのまま装備談義するのも申し訳ないと思ったのか、軽く準備運動をしてからゆっくりと走り出す。


「軽く一周走ってきて!その後あたしが人形を動かすから!あんたは速度だけ同じにしてね!」


「了解!んじゃ行くぞ!」


 回転数を一気に上げていき、周介は勢いよく加速する。平坦な場所を一気に駆け抜けるその姿はプロのスピードスケーターを彷彿とさせる。


 だが実際には周介は地面を蹴って加速しているわけではない。ローラーの回転に合わせて体勢を変えているだけだ。


 僅かな微調整などが必要ではあるものの、何度も転んで失敗したことで周介はその辺りの調整は容易にこなせるようになっていた。


 伊達に何度も派手に転倒していない。


 能力の微調整もできるようになってきたおかげで、無理な速度で突っ込むということもなくなっていた。ブレーキのシステムなどが組み込まれていないため、周介の場合は自分の手や足の装甲を使って床をこすり、強引にブレーキをしている状態である。


 一見すれば危険な行動だろう。しかしそれもまた必要な行動である。一歩間違えば皮膚が引きずられることになるが。


「こんな感じ、んじゃ後は人形と随伴か」


「そ。百枝はさっきとは違うルート走って。人形の方にさっきと同じルート走らせるから。同じ回転でお願いね」


「わかった。やってみる」


 そう言いながら周介は自分と人形のローラーを回転させ始める。ゆっくりと動き出す両者、そして周介が体勢を変えると同時に人形も同じように体勢を変えた。


 そして加速すると同時に、周介と人形は並走するような形で走り出す。直線での移動には問題なく対応できている。そして周介は先ほどと同じように、同じような速度と同じような方法でブレーキをしながらカーブしようとする。


 周介は問題なく曲がることができた。だが人形の方は周介よりも簡単に減速してしまい同じ速度でのカーブができなかった。


 どういうことだと周介が迷っている中、人形は即座に態勢を整え、再び加速の体勢に入っていた。周介はその意図を読み取って再び人形のローラーの回転数を上げていく。


「そうか、人形の方が俺よりも軽いから減速しやすいのか。カーブだとあっちの方が早く曲がれるんだな」


 周介の体重と人形、マネキンの重量を比べた場合、当然マネキンの方が圧倒的に軽い。


 物体というのは軽ければ軽いほど加速しやすく減速しやすい。同じ速度で移動して同じ摩擦抵抗を加えても、軽いほうが当然早く減速する。


「ドク!マネキンの重量とかって俺と同じにすることはできるんですか!?」


「可能ではあるよ!けどその分内部に装備とか重りとかを詰め込まないと難しいね!その分人形に負荷がかかっちゃうから!」


「なるほど、そりゃ無理か」


 人間の体は骨や筋肉が支えることによって成り立っている。だが人形というのはその種類にもよるが、綿や針金といった素材を一定の形の布などで覆うことでその形を保っている。


 不自然な重量などを持たせれば、当然どこかに無理が生じてしまう。その結果部分的に壊れるなどということもあるだろう。


 人形を動かす。この能力がどのような法則のもとに成り立っているのかは不明だが、余計な重量を持たせては本来のこの精密な動きができなくなる可能性があるということだ。


 彼女の売りは精密な動作。そのためには余計な重りは極力ないほうがいい。


 今のように外側に何かを着せるということならば問題はなさそうだが、この状態でうまく動かすというのは難しそうだった。


「百枝!こっち来て!」


 瞳に呼ばれて周介はすぐに瞳の方へと走る。人形はそのまま外周を走り続けていた。


「なんだ?なんか調整するか?」


「いや、動かし方分かったから、あとはあんたがさっきと同じような感じで速度調整してくれればあとはこっちで何とかする」


「え?もうわかったの?」


 まだ外周部分を一周しかしていないというのに、もう人形の体の動かし方を学習したという瞳に、周介は目を丸くしていた。


 自分があれだけ転んで覚えた動きを、そんなに簡単に学ばれるというのは立つ瀬がないのだがと思いながら、周介は外周を勢いよく走行しているマネキンを見る。


 走っている姿はあんな感じなんだなと、周介はその姿を見てなかなか格好いいじゃないかと満足げにうなずく。


 だが周介が走っている時よりもブレーキのタイミングが遅い。ぎりぎりまで加速してその後に減速してもマネキンならば間に合ってしまうのだろう。そのあたりは人間とマネキンの体の動かし方の違いということだろうか。


「っていうかすごいな、俺あんだけ頑張って覚えたのに……安形覚えるの早すぎじゃない?」


「お手本があったからね。一から全部ってなったらやっぱ時間かかるし。それにこの辺りで動かしてる人形だってお手本見てやってるから。例えば、あのボクサーだったらこういうのとか」


 そう言って瞳は携帯の中にあるボクシングの映像を見せてくる。映像と実際に戦っているマネキンの動きを見比べると、確かに同じ動きをしていた。体格やリーチなどの若干の違いはあれど、その映像の中のワンシーンを繰り返しているのだということがわかる。


「あたしの能力はそういうことが得意なだけ。人形に特定の動きをさせる。力はそこまでないけど、そういうことが得意なの」


「安形君の能力は、加えられる力自体は人並みだからね。人並みだからこそお手伝いがはかどるっていうのもあるだろうけど。どっちにしろこちらとしてはありがたい能力さ。精密動作がかなり得意な部類なんだよ。指先までしっかり動かせるからね」


 周介が回すことに特化しているように、瞳の能力は精密動作をすることに特化した能力であるらしい。


 だからと言って、見ただけでそれを簡単に真似られるというのもなかなか恐ろしい能力だ。いや、これはひとえに安形の努力故の能力だろう。


「これからはマネキンと周介君のレースをしながら訓練するっていうのもいいんじゃないかな?周介君としても速度が重要だからね」


「そうですね。マネキンには負けてられないな」


「あとは、自分の速度調整をしながらも、他の人形の速度調整もできるようになればいいね。そうすれば人形を引き連れて外での活動ができる」


「それは……難易度が高そうですね」


「いきなりできるようになれとは言わないさ。言っただろう?最初は何もできなくても、できるようになっていくんだって」


 ドクがかつて引き合いに出した赤子からの話を思い出して、周介は少しだけやる気を出していた。


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