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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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「なぁ、さっき政府に認められてるって言ってたよな?」


 案内をされる中で、周介と瞳は購買部に立ち寄り、飲み物を買って近くのベンチで話をしていた。


 近くでは部活をやっている生徒たちがいる中、こうしてベンチで話をする生徒は全くいなかった。


 だから周介は聞いてみたいことを聞くことにしていた。


「言ったよ。うちの組織の話っしょ?」


「そう。政府公認なの?」


「公認ではない。公になってないって意味でね。だからいろいろと便宜を図れんの。てか百枝さ、うちの組織がどう成り立ってるのとか、説明された?」


「全然。なんか俺らみたいなのが集まって、やばい事件が起きたら出動して、世界各国に似た組織があるってことくらいしか教えられてない」


「雑!説明めっちゃ雑!それ説明したのドクターでしょ」


 その通りだと周介が告げると、あの人は本当にもうとため息をつきながら瞳は飲み物を口に含んでのどを潤した。


「うちの組織はね、いくつかの大きな企業にスポンサーになってもらってんの。技術供与とかも含めてね。何か問題が起きた時は、そういう企業を優先的に助けるとか、そういう約束があるわけよ」


「おー。そのスポンサーの中に政府も含まれると」


「そういうこと。といってもその企業のかなり上の人しか知らないし、日本の場合ってだけだし、うちの組織もいくつかに分かれてるから全部が全部ってわけじゃないけどね」


「いくつかって、大太刀か小太刀かって話?」


 周介の言葉に、瞳は額に手を当ててため息をつく。そんなことも話していないのかとあきれているようだった。


「うちの組織は、日本の中でも大まかに分けて六つに分かれてんの。地方によって担当が分かれてるって言えばいい?北海道、東北、関東中部、関西、四国中国、九州沖縄って感じ」


「あー、関東支部とか北海道支部とかそんな感じか」


「そういうこと。スポンサーになってる企業は、あくまで組織全体だけど、そういう地域ごとに局所的なスポンサーもあるから、そういうことにも気を使うってこと」


「よくそんなこと知ってるな。いや、それって基礎知識なのか?」


「あたしの場合、もう何年も所属してるから、そのあたりは当り前、ってかそのあたりを全く説明しないドクターがおかしいの。まぁね、この間入ったばっかの人にそんなこと説明したって仕方ないってのもあるかもなんだけどさ」


 瞳としてはドクが必要なことを全く説明していないことに憤りを感じているようだった。もちろん、ドクとしても折を見て話すつもりはあったのかもしれない。


 だが自分が所属している組織がどのようなものであるのかも全く説明もしないというのはどうなのだろうかと、自分の周りにいる大人たちに不甲斐なさを感じているのも事実だった。


「てかさ、百枝を勧誘に来た人もそのあたりの説明しなかったわけ?」


「勧誘…あぁ、俺を勧誘、ってか脅迫に来たのは井巻って人だったけど」


「え、副長が来たわけ?うっわー……それは……しかも勧誘じゃなくて脅迫って……あんたの能力相当やばいの?それともやばいことやったとか?」


「まぁ、それなりに。だからものすごい借金とかある。それを働いて返すために組織に入ったって感じ」


「なるほどね、それでか。まともに説明もされずに来たってわけね。で、あんたとしては借金を返すまではうちの組織にいると」


「そういうこと。たぶんだけど、借金返した後も、なんかしらの理由つけて縛り付ける気満々なんだと思う」


「副長がそういうことをするとは思えないけど……元気だしなって。そのうちいいことあるって。少なくとも、この学校にはほぼ無償で入れるわけっしょ?」


「まぁな。その点に関してはすごくありがたい。俺の学費がかからない分、妹たちに回せるからな」


 粋雲高校は名門校だ。私立ということもあって学費も高いだろう。それらすべてが免除されているというのは確かに魅力的だ。


 今日の試験で、単純についていくことができるかわからないという不安を抱えたわけだが、そのあたりは今は置いておくことにする。


「百枝、兄弟いるんだ」


「あぁ、妹と弟が一人ずつ。まだ両方小学生だけど」


「ふぅん、いいお兄ちゃんやってるんだ」


「いや、良い兄ちゃんとは言えないよ。こんなことになってるんだから」


 そう言いながら周介は自分の目を指してから飲み終えたペットボトルをゴミ箱に入れる。


「安形は兄弟はいるのか?」


「一応ね。上に姉が一人と兄が一人。あたし末っ子だから」


「いいねぇ。俺も上の姉弟が欲しかったよ」


「いやいや、下の兄妹の方が絶対いいから。上がいたって鬱陶しいだけだから」


「そういうもんか?持ってる人にとってはそういうもんなのかもしれないけどさ」


「そういうもんなの。少なくともあたしは下の子たちの方がうらやましい。あんたはその分頑張らないといけないかもしれないけどさ」


「……まぁな」


 頑張らないといけない。それは確かにその通りだ。周介は自分の目を意識しながら小さくため息をついていた。


「ここが学生寮。右側が男子、左側が女子。っていっても、私も今度の三月から入るんだけど」


「中学生のとは別になってるのか?」


「そ。ここは高校生用の学生寮。場所は覚えておいたほうがいいよ」


 瞳に案内されてやってきた場所にはかなり大きめの建物があった。一般的なアパートよりもさらに大きい。マンションと言われても信じてしまう程度の大きさだった。


「この中に何人くらい住んでるんだ?まぁ中学の寮の話でいいんだけど」


「うちの方では…大体女子で二十人くらいかな?男子は…正確な人数はわかんないけど、たぶん同じくらい住んでると思う」


「合計四十人か。かなり大所帯だな」


 軽く一クラス分は住んでいるという事実に、周介は驚きを隠せない。


 こういった場所に住むということがどういう意味を持つのか、周介はあまり理解できていなかった。

 遠い場所から通っている者もいれば、周介のように訳ありでここに暮らしている者もいるだろう。


「集団生活してるってことはさ、いろいろ問題とかあるんだろ?」


「まぁね。同室のやつが嫌な奴だとすごく苦労すると思うよ」


「同室…二人部屋だっけ?」


「そ。あたしはまだいい奴に当たったけど、結構喧嘩してる人とかも見たことあるし、そこは完全に運だよね。そこは祈るしかないっしょ。それに、あたしらは大抵、あたしらと同じような境遇の人と一緒になるようになってるから」


 そう言いながら自分の目を指さす瞳に、周介はなるほどとうなずく。事情を知らないものと一緒にいるというのはいろいろとストレスになるものだ。


 そういう意味では同じ境遇のものと一緒になるというのはありがたくもある。


 といっても、家族以外の人間と過ごしたことは、学校の旅行など以外ではあまりないので少し不安にもなるが。


「先輩後輩と一緒になることもあるのか?」


「いや、たいてい同い年。じゃないと部屋内でパシられたりするからだめなんだって。まぁそのあたりは学校側が気を使うっしょ」


 確かに先輩後輩関係を狭い室内で作ってしまうと、たいてい先輩の人間が強い顔をしてしまいがちだ。

 だからこそ大抵は同じ年で固めるのだろう。


「この寮、割と細かいルールとかあるから気を付けたほうがいいよ?もし食材とか買い込むならなおさらね。そのあたりは入寮するときに確認しときな」


「そうだな。そうさせてもらうわ。洗濯とかは自分でやるんだろ?」


「共用の洗濯機があるからね。まだあたしらこの中に入っちゃだめだし、そのあたりも入寮の時に見てみればいいんじゃない?」


「それもそうだな。必要なものリストアップしとかなきゃな…洗濯物干す用のハンガーとかかな?」


「あぁ、そういうのは大丈夫。乾燥機あるから。まぁ、天日干ししたいっていうなら別に買ってもいいと思うけどね。ここの建物の一部、洗濯物干せるようになってるから」


 そう言って周介たちは入り口の裏側に回り込む。そして瞳が指さす先、ちょうど二階部分だろうか、テラスのようになっていて、そこには物干しざおのようなものがいくつもそこにあった。


「うちと同じ構造でよかった。あそこで洗濯物は干せるわけよ。ただあんまり干してる人いないけどね。天気とかもあるし、何より乾燥機の方が楽だし。よほど大きなものじゃないとあそこには干さないよ」


「なるほどな。んじゃ最低限でよさそうだ。洗剤とかはさすがに自分で買っとかないとだろ?」


「まぁね。一応共用のがあるけど、あたしあんまりあれ好きじゃないから自分の買ってる。シャンプーとかリンスとかボディソープとかも同じね。一応共用のがあるけど、たいていみんな自分の使ってる。さすがに歯ブラシは共用のはないからね。歯磨き粉も同様」


「オッケー、そんだけわかれば十分だ。部屋の中の構造とかは?二段ベッドとか?」


「いやいや、ベッドが部屋の両脇にあって、その間が通路になってる。窓際に勉強用の机がある感じ。仕切りのカーテンとかもあるけど、まぁそのあたりは見て判断してよ」


 頭の中でイメージし、周介は今後一緒に行動するものが、一緒に暮らすものがどんな相手なのだろうかと考える。


 そして、寮をしっかりと観察してそこがどういう場所なのかを探ろうとしていた。


「一応注意しておくけど、ここには普通の生徒も暮らすからね。共用のスペースとかで当たり前に組織の話とか大声でしないようにね」


「了解。そのあたりは慣れていくしかないな。気を付けるよ」


「よろしい。んじゃ次行こっか。どこ見たい?」


「そうだな…校舎の中って入れるのか?入れるなら中を一通り見てみたいな」


「わかった。今先輩たちが部活やってるだろうから、邪魔はしないようにね。観戦だって本当は避けたほうがいいんだから」


「あぁ、それはドクに言われた。テレビ越しならいいんだろ?」


「百枝のそれが、テレビに悪影響を及ぼさないようなものならいいんじゃない?テンション上がってテレビ壊したなんて言ったらさすがに擁護できないから」


「わかってるって。そういや安形はスポーツ観戦の趣味とかあるのか?」


「観戦っていうか、ダンスの映像を見るのは好きかな。結構参考になるし。同じ理由でバレーとかも。あと動物のドキュメンタリーとかも見る」


 テレビ関係は見ても問題ないということがわかり、周介は少し安心するも、能力の暴発が機械に影響を及ぼす場合、それも難しいのだろうなと、周介は少し複雑な気分だった。


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