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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」

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0032

「……あ、来た。おーい、こっちこっち」


夕方ごろ、互いに連絡を取り合って校門前で待ち合わせをしていた周介と瞳。二人は迷うことなく落ち合うことができた。


校門では何人かの生徒が帰宅を始めている。そんな中落ち合う二人は見ようによっては付き合っているように見えたかもしれない。


周介の顔色がものすごく悪いことを見なかったことにすればの話だが。


「ちょ、顔色やばくない?大丈夫?」


「やばい、なんだあの試験問題、意味わかんなかったんだけど。日本語で書かれてるはずなのに意味が分からなかったんだけど」


試験を終えた周介は、偏差値が高いというその意味を本当の意味で理解していた。今まで頭で理解していても『ふぅんそうなんだ』程度にしか考えられなかったが、基本的な知識量と考え方そのものが違うのだと叩きつけられた気分である。


そこそこ勉強ができるという自負があった周介からすれば、当然このショックはかなり大きいものだった。


「あー、まぁしょうがなくね?ここ一応偏差値かなり高い学校だしさ。あたしらには関係ないっしょ」


「いやいや、一応ここの生徒になろうってやつがこれはまずいだろ。なんだよあれ、本当に高校入試の問題か?」


「あたしも一応やったけどさ、普通に解こうと思ったら時間がかかりすぎるから、解ける問題から解いて、あと時間が残ったら挑戦する感じじゃんね。まともにやってると損するよあれ」


「……安形って結構頭いい感じなのか?」


「一応ここの中等部に通ってるし、そこそこじゃね?って言ってもあたし下から数えたほうが早いけど」


喋り方や素振りなどは若干軽い感じだが、それでも基礎学力はおそらく周介よりは上なのだろう。

若干のショックを受けながら周介は頭を抱えてうねり始める。


「ほら、面白い動きしてないでさ、とっとと中の案内するから、行くよ」


「わ、わかった。なんか入学前にすでにこの学校でやってけるか不安で仕方がないんだけど」


「んなこと今から心配してたって仕方ないっしょ。てか、百枝の場合は勉強よりも別の方を心配するべきだっての」


「別の方?」


「あたしらはこっちがあるっしょ。そういう意味」


そう言って瞳は自分の目を指さす。それが能力の発動を意味しているということはすぐに理解できた。


能力者になってまだ日が浅い周介を気遣ってのことだろう。能力が暴走しないように周介も特に注意している。


「百枝はさ、なんでうちの組織入ったの?どっかでなんかやらかした?」


本来であれば聞きにくいようなことを、瞳は普通に周介に聞いてきていた。とはいえ、能力を使っているところを見つかったから組織に勧誘されたのだということを考えれば、何かやらかしたという発言は何もおかしくはないわけだが。


「まぁな。受験の日に寝坊して、焦って急いでたらいきなり暴発。あれはビビった。マジでやばかったよ」


とはいえ、周介もそこまで思い詰めているわけではない。


一歩間違えば大事故につながっていたわけだが、今後気を付けて能力の管理をしていくしかないのだ。


済んだことは変えようがない。それに何より、周介は三千万という多額の借金を背負わされているのだ。

ある意味、帳尻はあっているのかもしれない。


「なるほど、焦って不安になって暴発ね。あるある。気を付けたほうがいいよ?あたしたちのこれ、慣れるまで結構簡単に暴発するから」


「そうなの?一応気を付けてるつもりだけど…」


「気を付けたってしょうがないの。息するなって言われてるみたいなもんだから。暴発しないようにうまくやらないと、一気に怪奇現象の出来上がり。百枝の場合、近くに道具があれば発動自体はできるんでしょ?」


「一応ね。安形もそうだろ?」


「まぁね。一応自分の媒体は常に持っておいたほうがいいよ。慣れてくると『あぁそろそろやばいかな』ってのが感覚でわかってくる」


それはマナの溜まり具合とでもいえばいいだろうか。自然にマナを取り込まないように訓練をした能力者でも、微弱にではあるがマナを取り込んでしまっていることがあるのだという。


そういう時に、能力が暴発しそうな感覚を知っているとよいかもしれない。


そしていつでも能力を自発的に発動できるように、能力の発動媒体を用意しておくことも必須なようだった。


周介の場合であれば何か回転できるもの。この場合は腕時計などでいいだろう。


「安形もそういうのもってるのか?この間見た限りだと、人形?」


「そ。だからあたしはこういう感じ」


カバンについたストラップの小さな人形。この程度のものでもいいのかと周介は目を丸くする。


そしてそこについているウサギの人形を見て、案外かわいい趣味をしているのだなと内心苦笑していた。


「ここが学食。多分一番お世話になるとこ。おすすめは日替わり定食、安定して美味しいよ。次におすすめなのはお蕎麦系。ここのお蕎麦、趣味で手打ちしてるおじさんがいるらしくて、結構おいしい。たまに学園祭とかで卒業生が来ると必ずお蕎麦注文してる」


まず周介が案内されたのは学食だった。大量の長机に椅子、そして食券機や商品のサンプルが表示されている。


すでに夕方で、食事時をかなり外してしまっているため、ここにいる生徒はほとんどいない。いるのは掃除などをしている清掃員などだけだ。


「食券買って、それぞれのラインに並んで渡して食事を受け取る感じ。百枝の中学って学食あったの?」


「いやなかった。うち公立だったから。ってか広いな。すげー広い。ここだけで体育館くらいあるんじゃないのか?」


「そりゃそうでしょ。ここに中等部とか高等部の学生が一気に来るんだもん。まぁお弁当持ってくる人もいるだろうけど、寮生はほぼ全員ここにくるからね」


「ほぼってことは、来ない人もいるんだろ?その人はどうするんだ?昼飯抜きか?」


「ううん、別の場所に購買部があるからそこでパンとか買ってる。市販のものならある程度あるよ。ノートとかシャーペンとかの文房具も売ってるし」


さすがに大きな学校ともなるとかなり恵まれているのだなと、周介は感心してしまっていた。金さえあればここだけで生活することができてしまう。


門のところに守衛がいるのも仕方のない話なのかもしれないなと、今更ながらこの学校と自分の通っていた中学のスケールの違いに純粋に驚いてしまっていた。


「購買部もそうだけど、お昼に行くとすっごく混むから、あらかじめ手に入れておくとかしたほうがいいかもね。ただそうすると本当に市販のものしか買えないけど」


「どっちをとるかだよなぁ…っていうか、値段どうなってんだ…?あんまり高いと買えないんだけど」


「普通じゃない?学食なんだし」


周介が食品サンプルが並んでいるガラスケースの中を見るとその値段が書いてある。定食系は千円以内、どんぶり系なら七百円以下、蕎麦系は高くても五百円台で食べられる設定にしてあるようだった。


若干高めなのかなと、そう思いながらも学食ならこの程度のものなのだろうかと周介は思ってしまう。


ただの学食ならばもっと安いところだが、この学校は良くも悪くも名門校だ。用意している値段設定も多少高めになっているのだろうということを周介は知らない。


「昼飯ってここと購買で買うほかないのか?あんまり金使いたくないんだけど」


「んー……あ、他に寮にいる先輩が、寮で弁当作ってきたりするけど?寮では朝ご飯と夕ご飯は出るから厨房あるし」


「ちなみにそれって食材も使い放題ってこと?」


「んなわけないじゃん。お米くらいは大丈夫らしいけど、その先輩は土日に食材買い込んでる。自炊ってのとはちょっと違うけど、似たようなもんだって」


食材を買って自分で調理する。出来合いのものを買うのとどちらの方が金がかかるか正直迷うところだった。


とはいえ選択肢の一つでもある。


「ここから一番近いスーパーとかだと、やっぱバス使わないとダメなのか?」


「寮に共用の自転車があるからそれ使える。あんま長い間使うと怒られるけどね。その先輩も自転車で買いに行ってるよ」


「……その先輩と仲良くなっていろいろと教えてほしいな……ってか、今更だけど、安形も寮に住んでるのか?」


「そ。あたしは女子寮だけどね。ちなみにその先輩も女子寮だから」


「そうだよな。さすがに男女は分けるよな…」


男女が一緒であったのならいろいろと間違いが起きかねない。そういった部分はしっかりとしているだろう。


寮監などもそのあたりは特に注意していることだろう。万が一があった時は学校の名に傷がつきかねないのだ。


「でもあれ、寮の食堂は男女共用だから。厨房も一応同じ場所にあるし」


「ん?じゃあ男子女子で建物がわかれてるとかじゃないってこと?」


「違う違う。同じ建物の、棟が違うって感じ。東側が男子、西側が女子って感じ。その中心部分に食堂とかリネン室とかそういうのがあんの」


「風呂とかも?」


「そ。言っとくけど、覗きとかはやんないほうがいいよ。寮監、あたしたちと同じだから」


そう言って瞳は自分の目を指さす。つまりは能力者ということだろう。ここで周介は少し気になることがあった。


「なぁ、安形ってあんまり能力とかそういう単語言わないけど、なんで?」


「なんでって……一応隠してるんじゃん。政府に認められてるとはいえさ、世間的にはあたしたちみたいのはいないってなってるんだから。何のためにうちの組織が隠してると思ってんの」


それを聞いて確かにその通りだと、周介は今更ながら自分の迂闊さに嫌気がさしていた。


隠すということはそれなりに理由があってのことだ。その程度の事も考えられない自分が嫌になる反面、ドクなどは普通に話していたことを思い出す。


「でもドクとかは?あの人普通に話してたけど」


「あの人にそういう細かいことを求めても無駄。変なところで細かいくせに、それ以外は大雑把なんだもん。百枝も気を付けたほうがいいよ。あんた妙に気に入られてるからさ」


ドクの評価は高いのか低いのかはわからないが、どちらかというと雑に扱われているという印象が強かった。きっとそれは間違っていないのだろう。


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