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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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 玄徳の能力を使えばただの肉体能力だけでも十分な機動力が得られる。だが周介は玄徳と別行動をとっていた。


 屋根から屋根に飛び移りながら周囲を確認する、それだけの事であれば周介の機動力だけでも問題なく行動できるためだ。


 足についたローラー、そして腕と腰についたワイヤーとフック、そして背中についた補助用のアーム、腰の両脇についているジェットエンジンを改良して作られた噴出器。これらを駆使して周介は空中を跳び回っていた。


 ビルの多いこの地形では、ワイヤーフックと補助アームは思っていた以上に効率よく動いてくれていた。


 特に新しい装備である補助アーム、周介の能力によって動くこのアームは空中での姿勢制御にも一役買ってくれていた。


 空中で体を動かして体の向きや方向を変えることはできなくもないが、その効率はあまり良いとは言えない。全身を動かしてようやく少し動く程度だ。


 だがこのアームを勢い良く動かすことで急速に体の向きを変えることができていた。


 周介の能力によって動くこのアームは、単純に周介の動かし方次第でどのような動き方もする。それは速度という意味でも、駆動方面という意味でもだ。


 つまり空中で勢い良く動かせば、当然その反動として本体である周介の体も動いてしまう。作用反作用の法則に従って動く、これを利用して周介は空中で姿勢を変え、着地する際にも足からではなく補助アームから着地するようにしていた。


 高低差がある状態で足から着地すると、多少足に負担がかかることを考慮しての着地方だったが、これが思っていたよりも具合がよかった。


 背中から延びる四本の腕、これを使うと単純に手足を使うよりも安定した着地ができる。もちろん背中につけられているため、多少衝撃はあるが、それを緩和するようにアームを動かせばいいだけだ。


 かつて首都高で玄徳を受け止めた時のように、腕をうまくクッション代わりにすればいいのだ。これを生身でやるのと機械でやるのとでは全く違う。周介は動きながら息を整え、ビルの屋上で周辺を見渡しながらその動きを再度確認していた。


 空中での動きには腰に取り付けられた噴出器も一役買ってくれる。単純な反動でどうしようもない体勢の時には噴出器によって多量の空気を噴射することで強引に態勢を整えることができる。


 ただ、周介自身がこの扱い方に慣れていないこともあって出力の調整に手間取っていた。時折出力を高くしすぎて逆に体勢を崩すことも多い。だがそれでも空中での姿勢制御能力は格段に向上しているのが実感できた。


『もしもしこちらドク、ラビット01、聞こえているかな?』


 唐突に周介の頭部装備に取り付けられている無線が声を出す。それが聞きなれたドクの声だと知って周介は若干驚いていた。


「こちらラビット01、ドク、どうしました?」


『いやいや、君達が装備を持ち出したって話を聞いてね。具合はどうかなと思って。実戦投入は初めてだろう?使用感を聞いておきたかったんだよ』


 どうやら自分の作った装備がどのように動いているのかを確認したかったようである。今回ドクは作戦行動に関与していないが、それでも装備関係に関しては関与するつもり満々のようだ。相変わらずというかなんというか、もう少し別な方向にも興味を持ってほしいものだと周介は呆れるが、自分の装備を動かしながらその細部もチェックしていく。


「いい感じですよ。ただ背中のアームをもうちょっと調整してほしいです。具体的にはもうちょっと長くできますか?」


『長く、かい?それ以上重量を大きくすると君への負担が大きくなってしまうと思うんだけど……特に背中に乗せるならこれ以上は』


「なら足につけるのはどうです?腰とか、あるいは尻部分って言えばいいですかね?このワイヤーとかの位置を変えればできないですか?」


『随分とアームが気に入ったんだね。オーケー、そういうことなら任せてくれ。こちらで調整しよう。アームは単純なワニ口だけど、普通の手とかにしたほうがいいかな?』


「あんまり複雑な形だと動かしにくいかもしれませんからこのままでいいですよ。あとは武器とか道具を装着しておいてくれれば……いや、結構乱暴な使い方してるから付けないほうがいいかな……?」


 今周介は着地だけではなく跳躍にもアームを使っている状態だ。勢いよくアームを動かすことで周介の体を強引に空中に跳んでいる。普通に足で跳ぶよりもずっと高く、遠くへ跳ぶことが可能になっているのだ。


 そういった負荷のかかる使い方をしていれば、そこに装着されている武器などにも多少の負担がかかる。


 複雑な構造の武器ではその負荷に耐えられない可能性があるためあまり推奨はできないかもしれなかった。


『まぁそのあたりは君がどういう使い方をしているのか見てから判断させてもらうよ。荒っぽい使い方っていうのがちょっと気になるけど、使ってくれているのであればありがたいさ。他に要望はあるかい?』


「ひとまずはそのくらいですね。あとは……俺が手で持てるような武器とか道具も作ってほしいですかね」


『いいねいいね、そういう要望は大好きだよ。オーケー、そのあたりも考えておこう。それじゃペット探し頑張ってくれ』


 本当にただ装備に関してのアンケートをしただけなのだなと周介は呆れながら無線を切る。本職がどちらなのか聞いてみたくはあるが、ドクからすれば装備を作るほうが本業と言い出しかねないだろう。


『兄貴、聞こえますか?』


「どうした?目標見つけたか?」


『いえ、先生から装備の改良について要望を聞かれてまして、兄貴の方には何かありますか?あれば伝えておきますが』


 玄徳の方にも質問しているのかと、周介は呆れながら「もう伝えたよ」と玄徳に言ってペットの捜索を再開していた。


 雨の中動き続けるというのはなかなかに体力を消耗する。特に体温が冷えるのは気をつけなければならなかった。


 周介たちが身に着けている装備はある程度水を弾いてくれる性質であるらしかったが、首元などから雨が染み込み、どうしても体が冷える部分が出てきてしまう。冷える以上に動いていれば当然体も熱くなるのだが、それにも限度がある。


 雨は強くはなっていないものの、常に降り続けている。濡れることで重くなる体、ただ衣服などが水に濡れて重くなっているというだけではない。


 体が冷え、運動かしにくくなってしまっているのだろうということは容易に想像できていた。


 運動部で活動していた時も何度かあったことだ。冷えた体を無理やり動かそうとしても上手くいかない。


 筋肉の動きが悪い、単純に動きにくい、そう言ったことはどうしてもある。


 特に今回のような周りの視線も気にしながら目標物を捜索、さらには能力と体を並行して動かすことは集中力も消費する。


 訓練と現場における違いがここにきて出てきているというべきだろう。


「03、そちらの状況は?」


『問題ありません、目標未だ見つけられず、捜索続行します』


 そちらの状況を聞かせろという発言に対し、目標を発見したではなく、問題ないという発言が最初に来る辺り、玄徳も多少体が冷えてきているのだろう。


 体が万全ではないことを自覚しながらも、それでも動けるというアピールなのか、それとも無意識なのか、周介は玄徳の状態に多少なりとも不安を覚えていた。


「今の状態で空を飛んでる鳥は少ない。羽休めしてる連中を中心に見ていこう。色が違えば比較的わかりやすいはずだ」


『了解です』


 わかりやすい、などと周介自身口にしたが、雨に加えて夜の暗闇、ある程度近づかなければ相手の色合いまではわかりようもなかった。


 種類などにもよるが基本的に鳥は雨の中を無理して飛ぶことはしない。単純に羽が濡れて体が重くなり、飛ぶことが難しくなるからである。


 周介たちが探すべきはそう言った飛ばない鳥だ。空を飛ぶ鳥だって生き物だ。必ず休憩はとる。特にこういった雨の日は雨が止むまで文字通り羽休めをすることが多い。


 とはいっても、相手は野生に出たばかりの室内で飼われていたペットの鳥。どのように行動するのかまでは正確には把握できない。


 周介たちだけの目ではなく、瞳の扱ってる人形に搭載されたカメラなども併用するのが最適でもある。


 とはいえ、そのカメラを用いてもこの暗さと雨の視界の悪さはどうしようもないのだが。


 視界を悪くすることで一般人から見えにくくはなるが、同時に目標も見つけにくくなる。どちらを優先するべきなのかは、正直迷うところだった。


「02、どうだ?こっちからは目標は発見できない。そちらから何か情報があれば教えてくれ」


『こっちも同じようなもん、暗いうえに雨が降っててよく見えない。カメラにサーモグラフィーでもついてればよかったんだけどね』


 熱を視覚的に判断できるようにする機材があれば、暗闇であっても生き物の体温を把握することができるだろう。


 その形、大きさなどから怪しい影などを判別することも難しくはないかもしれない。


「じゃあ索敵の方はどうだ?この雨を使えば索敵も可能なんだろ?」


 桐谷の能力は水分によって周囲を感知する能力だ。周囲が完全に雨が降り、周辺の含有水分量が上がっている今であれば、雨が降っているこの空間に限定すれば索敵の効率は最大といっていいのかもしれない。


『把握はしてる。けど範囲が広いから部分的に見てる感じ。一気に索敵すると疲れるから、ちょっと待ってて』


「了解。それまでは俺らも移動しながら探す」


 索敵という能力がどのような処理を必要とするのか周介は正確には知らない。ただこれだけの範囲の物体を一度に把握するというのは桐谷の能力的には難しいようだった。


 考えてみれば当然なのかもしれない。一つの町でかなり広範囲に雨を降らせている。その雨を使って索敵するにしても、建物の情報、そして生き物の情報、そういったものがすべて感知できてしまっているのだ。


 どこか見えていない部分、視覚に置き換えれば集中してみる部分と、無意識で見ない部分を分けなければ脳の処理が追い付かないのも道理である。


「先輩の方はどうですか?何か新しい情報はありましたか?」


『一応な。普段見ない鳥を今日見たって言ってるやつは結構いる。けど、その規則性が判別できてねえ。逃げ回ってるみたいだったってやつがいる。たぶん他の鳥に追われてるな。今こうして雨が降ってるのは好都合かもしれない』


「今なら逃げられることなく捕まえられると?」


『あくまで可能性だけどな。インコはその気になれば一日何十キロも飛ぶらしい。ただ、今まで家に引きこもってたやつがそんな長時間、長距離を飛べるはずがねえ。精神的に、肉体的に消耗してることもあってほとんど動けてないはずだ』


 普通の野生の鳥であれば、縄張り争いなどは日常茶飯事だ。だが家で暮らしていたインコなどはその限りではない。


 加えて、普段生活していない環境にいきなり放り出されたことによるストレスはかなり大きいはず。満足に食事もとれていないということであれば、肉体的にも精神的にもかなり摩耗していることになる。


 そういった状態でまともに動くことはできない。そのあたりは人間も動物もそこまで大差はないだろうと乾は考えているようだった。


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