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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」

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「来た。お疲れ様」


「お疲れ、ごめんね、来てもらって」


「大丈夫。話は何となく聞いてたから、多分来るって思ってたし」


 拠点の出入り口ともなる場所で待っていたのは桐谷と手越だった。何故手越がいるのかはすぐにわかることになる。


「ほい、お前らの装備だ。必要に応じて着けな。ただしあんまりみつからないようにな。明らかに怪しいコスプレだからよ」


「悪いな手越、それだけのために?」


「いや、もう一つ。そっちのペット二匹は預かるぜ、あとはもう役に立たねえだろ?」


 手越がそう言って二匹のペット、テールとベッキーに視線を向けると、二匹は乾たちの方を見て訴える。


「待ってください!あっしらも手伝います!匂いを追うくらいはできます!」


「テールの言う通りです。俺らは耳も鼻もある。役には立つはずだ」


 二人はどうやら手伝ってくれる気持ちが強いようだったが、その姿を見ても、同じように手伝ってくれということはできなかった。


 汚れてしまった毛並み。そしてわずかにくぼんだ目と充血したその目が不健康であるということを見せつけてくるようだ。


「俺としちゃ連れてはいきたくねえな。百枝はどう思う?」


 乾の正直な意見としては、これほど疲弊した動物を連れていくのは避けたいようだった。そしてその気持ちは周介も同じだ。


 周介は身をかがめ、二匹の汚れてしまっている毛をなでる。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、お前らも限界だろ。一度俺らの拠点で休め。もしどうしようもなくなったらお前らの力を借りる。それまでは、とにかく休んでくれ。な?」


 ただの動物といえど、人間よりすぐれた聴覚と嗅覚を有していることは間違いない。だがそれでも、精神的に負担を強いられ、なおかつ肉体的にも疲弊している彼らをこれ以上連れまわすということはしたくはなかった。


 周介が自分たちのことを気遣ってくれているということ、その雰囲気にテールとベッキーは何かを感じたのか、周介の目をまっすぐに見つめていた。


 かつて周介が飼っていた犬の雰囲気を感じたのか、かつてそこにいた彼の愛犬の存在を感じたのか、テールとベッキーは動きを止めてしまう。


「手越、こいつら頼むな。しっかり洗って、しっかり飯食わせて、あとエイド隊の人にも見せてくれ。獣医的な人がいればいいけど」


「了解、まぁ何とかなんだろ。そっちは?手ぇ足りてるか?」


「やばくなったら手伝ってもらう。それまでは俺らが何とかするって。それまではこいつらのこと頼んだぞ」


 周介は立ち上がりながらベッキーを抱き上げて手越に渡す。それと一緒にテールの首輪につけてあるリードの紐も渡した。


 二匹は周介の顔を見て何かを言いたそうにしているが、何も言えなくなってしまっているようだった。


 何かを言いたいのだろう。言いたいことは山ほどあるのだろう。だがそれでも、それを口にできなくなってしまっていた。


 自分たちの状態を理解している、辛い状態であることはわかっている。だがそれでも動きたい。でもそれを止められてしまって、おそらくだが、もうそれは決まっていることなのだということを察してしまっているようだった。


 そんな雰囲気を感じたからか、周介は二匹の方を見て微笑みかける。


 再びその頭をなで、可能な限り、優しい声で。かつて、まだ愛犬が生きていた頃にそうしていたように。


「大丈夫、お前らの家族は俺らがちゃんと見つけるから。安心して待ってろ」


 その言葉に、テールはまだ何か言いたげだったが、ベッキーは小さくため息をついてから手越の手の中から逃れて着地し、周介の足元へと歩み寄ると、その額を周介の足に強く押し付ける。


「ノーンを頼みます。俺らにできることがあれば、何でも言ってください」


「ベッキー、でも、やっぱりあっしらも行ったほうが」


「これ以上は野暮ってもんだ。それに、俺らができることなんざたかが知れてる。この人らに、これ以上余計な手間を増やすわけにもいかねぇよ……お前も男ならどんと構えて待ってろってんだ」


 そう言ってベッキーはテールの背に乗り座り込む。テールはまだ何か言いたそうにしていたが、ベッキーにたしなめられてそれ以上はどうしようもなくなってしまっているようだった。


「なんかいつみても妙な感じだな。こいつらはいったい何言ってたんだ?」


「あぁそっか、お前には今聞こえてないのか。まぁ、俺らにも手伝わせてくれとか、そういうことを言ってたんだよ」


 乾の能力が発動されていない手越は、テールとベッキーが何を話しているのか理解できなかったのだろう。周介としてもこの状況に慣れてしまっていることに少し困惑していたが、思い返せば動物が喋り出すというのはそれだけ奇妙なことなのだ。


 能力によってそれが起きているとわかっても、一見すればそれを簡単に納得できるというわけではない。


「んじゃ手越、そいつら任せた」


「任された。なんかあったら連絡しろよ?」


 手越がリードを持って移動を始めるとテールはそれに従って移動し始めた。一瞬だけ周介たちの方を名残惜しそうに見ていたが、その瞬間にベッキーに叩かれ、足早に手越の後をついていっていた。


「よし、それじゃ作戦を始めるか。桐谷、頼む」


「了解。ちょっと時間がかかるから待ってて」


 周介たちは今回の捜索場所まで戻ってくると、車の中で待機しながら桐谷が能力を発動するのを待っていた。


「なぁ、結局桐谷に何を頼むんだ?」


「能力を使っての索敵だけど、ついでにあんたたちが動きやすくするためにちょっと追加でお願いしたの。彼女の能力はどれくらい知ってる?」


「えっと……索敵能力だろ?どうやって索敵してるのかとかは……前にどっかで聞いたような……?」


 周介は桐谷の能力に関して思い出すことができなかった。どこかで聞いた覚えはあるのだが、それを正確には覚えていない。索敵が可能な能力であることはわかっているが、それ以上のことはわからなかった。


「あんまりいうのもあれだけど、彼女の能力は水分を操ることができるのよ。普段の索敵はその水分の量や動きを見て索敵してる。人間の水分を感じ取ることもできるし、空気中の水分の形を見れば物体もどういう動きをしているのかがわかるって感じらしいの」


「へぇ……そりゃすごいな」


「ただ、索敵としての効果範囲はその状況によりけりらしいのよね。自分の能力で発生させた水分を広げていけばその分範囲は広がるけど、下準備なしだと百メートル程度だって言ってた」


「じゃあ今やってるのはその下準備ってことか。周りに能力をいきわたらせるための」


「それもある。あとは、あんたらが動きやすいようにね」


 そう言って瞳が車の外を見る。先ほどまではやや雲はあったものの晴れた夜空が広がっていたはずだが、いつの間にか分厚い雲が覆い始めている。


 それが一体どういうことなのか、周介は理解できてしまっていた。そして車のフロントガラスに一滴、また一滴と空から雫が落ちてきている。その粒は小さいものの、ゆっくりと徐々にその数を増やしているのがわかった。


 十分もすると、車の外には弱弱しいがしっかりと雨が降っている状態になっていた。その光景を見た周介は目を見開いてその空と桐谷を見比べる。


「まさか、雨を降らせたのか?マジかよ」


「あんまり遠くまでは無理、それに本格的に降らせるには時間もかかるから、実戦で使うことは正直あんまりない」


 雨を降らせる。一人の人間が個人の能力でそこまでできるという事実に周介は驚きを隠せなかった。


 桐谷は何でもないように言っているがその眼は光り続けており、今もなお能力を使っているのだということがわかる。


 周介たちは自らの装備を身につけながらこの雨の中、どのように動くのかを考えていた。


 今まで訓練で平地や人を掻い潜る訓練はしてきた。だが雨の中走る訓練はしていない。これもまた良い機会だと思うべきだなと、周介は自分の装備を身につけながら外の光景を目に焼き付けようとしていた。


「なんだなんだ、格好いいじゃんか。そういう装備、俺らはないんだよな」


「先輩は情報収集がメインでしょうから、こういうのは必要ないでしょう。俺らは速く動かなきゃいけないから自分の身を守るっていうのが第一ですよ」


 各所に取り付けられた装甲と各員で若干違う装備。特に周介の装備はこの中で最も充実している。


 背中に取り付けられたアームの動きを確認し、周介は鳥相手にも使えると思われるトリモチを手に取って確認していく。


「にしてもすげぇな、普通に雨になった」


「これで屋外で行動する人間は激減する。特に今日は雨の予報もなかったし、傘を持ってる人間も限られる。上の方を見る人間も少なくなるから動きやすいでしょ?」


「さすが姉御!すげえっす!」


「いやはや、こんなことができるとは……能力って本当にすごいな」


 能力の強さは知っていたはずだった。だがまさかこんなことまでできるとは思っていなかっただけに周介と玄徳は驚きを隠せなかった。


 外の雨は弱弱しいもののしっかりと降り続けている。この雨の中を傘なしで行動するというのは少々嫌だと思う人間は多いだろう。


 確かにこの雨の中で夜空を見上げ続ける者は少なくなる。となれば屋上を跳び回る周介に向けられる視線も少なくなるはずだ。


「ギリー隊にも声をかけたかったけど、まぁこの数なら何とかなるだろ。外回りは任せた。俺はまた動物たちに話を聞きに行く。白部、何か情報はあったか?」


『今のところはなし。雨が降ってきたから視界がちょっと悪い。鳥みたいな小さいものを見つけるのは難しいかも』


「色が派手だから何とかなるだろ。とりあえず行動開始だ。お前ら準備はいいか?」


「オーケーです」


「いつでも」


 周介と玄徳は自分たちの装備を身に着け終え、周りにだれもいないことを確認してから車から出ていく。


 そして即座に玄徳が能力を発動し、跳躍と同時に上方向へと加速し、一気に空中へと飛び上がった。


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