1. 雨音と花火
ご覧いただきありがとうございます!
魔法使いが姿を消して100年。
静かに暮らしたい16歳の少女と、世界を揺るがす魔法を巡るファンタジーです。
私が線香花火というものを知ったのは、家の古い棚の奥に隠されていた、古い本の香りがする物語の中だった。
世間が言う「恐ろしい魔法使い」ではなく、誰かを笑顔にする優しい魔法使いたちの記録。
そこに描かれていたその小さな火花は、どうしても私の心を捉えて離さなかった。
ーーー
「できた」
夜、家族がみんな眠りについた後。私は自分の部屋で、手に入りやすい薄い紙を細くねじって、小さなこよりを作った。
指先をその端にそっと添える。
道具も、魔法陣も、杖も要らない。
ただ、胸の奥にあるあたたかいものを、ほんの少しだけ紙の先へと押し出すような感覚。
パチリ、と胸の奥で小さな小さな音がして、紙の先端に丸い橙色の光が灯った。
次の瞬間、パチパチ、と繊細な火花が散りはじめる。
「わぁ……!」
布団の中から抜け出してきた妹が、花が咲いたように笑顔を見せた。丸くした両目を輝かせて、こよりの先を凝視している。
「わぁあ!!お姉ちゃん、雨が降ってる音がする!」
嬉しそうに囁く妹の声に、私は思わず口元を緩めた。
確かに、静かな夜の窓をパチパチと叩く、小雨の小さな音にそっくりだった。
空気は澄んでいて、雨の日のあの湿っぽい匂いはまったくしないのに、耳元でだけ優しい雨が降っている。
「本当だね」
妹の笑顔が見られたことが嬉しくて、胸の奥がキュッと温かくなる。
いつもは一人で楽しんでいる魔法の練習。
火を出したり、花を咲かせたり、服を少し早く乾かしたり。周りのみんなにはできない、自分だけの特別な秘密。
たまには人に見せるのも楽しいな。
自分が認められているような気持ちになる。
でも、それと同時に臆病な私が頭をだす。
ーーー火事になったらどうしよう。
ーーー匂いで、お父さんやお母さんが起きちゃったら?
ーーーもし窓の外から誰かに見られて、『魔法使いだ』って通報されたら。
先のことが次々と頭を駆け巡り、恐ろしくなって、私は指先の力を抜き、魔法を止めた。
5年前から、時々魔法使い狩りが行われている。人口の1%未満とされる魔法使いは、杖ひとふりで新しく物を作り出せるという特徴を持つ。それが、一般人からすると不気味らしい。
怪しい動きをした人や、そうでなくても周りからそう言われた人が殺される場合がある。
ここ最近は見ないから、次が私だったらどうしようという気持ちでいっぱいになることもある。
家族が魔法使いなのかそうでないのか、隔世遺伝なのか、私と同じ力を持つという人に出会ったことはまだない。
この前疑いがかかった斜め向かいの同級生の家は、関係ないであろう家族も全員、除け者扱いになっている。
そうなるなら、私は……。
こよりの先の小さな橙色の光は、煙をひとすじ残して、あっけなく消えてしまう。
「あ、消えちゃった……」
「うん。ごめんね、今日はもう終わり!綺麗だったけど、これは二人だけの秘密だよ。絶対に。お父さんたちにも言っちゃダメだよ」
七歳になったばかりの妹の、小さな口元に人差し指を立てて見せる。妹は寂しそうにしながらも、こっくりと頷いてくれた。
本に載っていたような、夜空に打ち上がる大きな花火なんて、私にはとても無理だ。
そんな目立つことをしたら、一発で捕まってしまうんだろうな。
一度は見せてあげたいけど、 こんな風に、紙の先で小さな火花を散らすのが精一杯。
指先に残ったかすかな焦げた匂いを優しく払いながら、私は静かに息を吐いた。
みんなを笑顔にしたい気持ちはあるのに、私はどこまでも「おりこうさん」で、臆病なままだ。
そんな私の家は、街のはずれで光石という特別な石を売っている。
2つの石をカチリと合わせると、ぽっと温かい灯りが燈る。
みんなが「便利だね」「綺麗だね」と使っている、自慢の家業だ。
このトロノーメの街を明るく照らしている。
ーーーー
私にはずっと、記憶に残っている光景がある。
いつものように母と洗濯に行くと、井戸の広場で大人が「魔法使いは恐ろしい、道具も使わずに呪いをかけるんだ」と話しているのを聞いた。
魔女は職業として認められているのに。同じ杖を持つもの同士仲良くできないのだろうか。
不思議に思いながらも、特に何も気にとめていなかった。
その記憶から、もう少しお姉さんになって、妹が二人に増えたくらいのときの事。
ふと、古い本棚の奥にある本を開いたとき……そこに描かれていた魔法使いは、夜空に大きな花火を打ち上げて、泣いていた子供を笑わせていた。
――あ、これ、私の手に起きてることと同じだ。
その頃の私は、うれしいと手が温まることや、花のタネを蒔くと周りより成長が早いことに、違和感を覚えていた。
……皆はそんなことないらしい。
だから私は、その秘密を誰にも言わないし、みんなの前では使わない。
私が使ってしまった時に、お父さんとお母さんが一瞬見せた、あの怯えたような顔を知っているから。
今日も私は、手本通りの優等生として笑ってみせる。
大好きなみんなが、安心していられるように。
そう、私はこの街で静かに目立たずに暮らしたいのだ。




