1話
日本、北海道、智恵文市
令和八年、夏
水曜日、朝、午前十時
晴れ
涼しい、基本的に北海道の夏は涼しい
――と、冒頭に設定を書いたが、これは作者が以上の設定を書き忘れないための対策の書き出しだ。
決してボクの文章は最近話題のエーアイで書いたそれではない。明記しておく。八万文字書かなくちゃいけないということもあるからね。
また多くのお金が動いたが、そんなことは智恵文市のような盆地の田舎にはほとんど関係ないことだ。
しかし、今日も智恵文市は誰も歩いて――いや、一人いる。
主人公のユウフウだ。彼――日本人、中学三年生、肩までの黒髪、黒い目、優しそうで幼い顔立ち、小柄、華奢、緑色のジャージ、黒い長袖アンダーシャツ、白いスポーツシューズ――は商業店が立ち並ぶ町中の国道を北に歩いている。人が全然歩いていない――それは智恵文市をはじめ道北の田舎では普通の光景だ。
もっとも、もちろんその光景はいつだってというわけではなく――ほら、ユウフウの右横の自動ドアから出てきてさ。それは老舗デパート“ホンスーノナー”――ピンク色の二階建て、屋上駐車場あり――から出てくるとすぐさまユウフウの名前を呼んだ。
ユウフウは立ち止まってそちらを見ると「今日こそ素敵な返事を聞かせてもらうわ」と、相手は笑顔で言った。
ユウフウは一瞬曇ったが微笑して「アツヤ、私は平等にクールだからやっぱりその返事はしないよ」
学校はどうしたの? とユウフウは付け加えた。
「もちろんサボりよ。で、昨日話したお見舞いの品探してたんだけどよさげなものなかったわ」と、ガッカリしていた相手――日本人、中学三年生、腰まである茶髪、茶色い目、可憐な顔、小柄、華奢、緑色のジャージ、黒い長袖アンダーシャツ、白いスポーツシューズ――は気を取り直した様子で答えた「“ホンスーノナー”っていつも空いてるから買いやすいんだけどねー」
「そっか。それにしてもまたサボりなんて悪いヤツだな、君も」と、ユウフウは笑って言った。
「君のまねっこしたら癖になっちゃったわ。全然問題ないけど。むしろなまら髪伸ばせてラッキー」と、アツヤは嬉しそうに言う。おっと、「なまら」とは北海道や関東の方言であり、「すごい」とか「とても」とか「非常に」とかそんな意味合いを持つ。
そんな方言を使った相手は「ユウフウ」
「何?」
「言ってみただけ。――君は学校サボって何してるの?」
「散歩さ」
「散歩か、いいわね。付き合っていい?」
「どうぞ」
「やった。――あっ、そうだ、今日の私も万全だから」
「……ありがとう」
「そんな悲しげな顔よりも親切な表情をしてほしいな。情報を教えてくれ」
と、アツヤは言った――アツヤが言っていない。ユウフウには分かっている。
「情報? そんなものよりお金をあげるよ。いくら欲しい?」と、ユウフウは落ち着いた様子で言った「私はお金持ちだ。しかも天涯孤独。揉めないお金だ、いい人生を送れるよ? それを好きなだけあげるからそれを持って帰ってくれ」
「お金なんていらない」と、相手は断言した「私が欲しいのは君が持っている情報の一つ。君はこの世界を支配する七人のうちの誰と関係している? 私はそいつの詳細が知りたいんだ」
「で、いくら欲しい? 悪いね」
「なら暴力で君を従わせる――とはならないな、今は冷戦だ」と、相手は虚しそうに言った「だがこのまま帰るわけにはいかない。つまらない」と、ユウフウに背を向け、国道を南へ走り出す。
その瞬間、ユウフウの視界は緑色から成り立つ。傍らの老舗デパートはピンクから薄い緑色に――それだけじゃない、人と空以外は全てその色となる。
と、空も明るい青から濃くて淀んだ緑になったと同時に“アツヤ”――緑になっていない。人は例外――の動きが止まる。それだけじゃない。
世界が止まっている。
〈なぁユウフウ、このあと本屋に行こうぜ〉
と、ユウフウの頭の中で若そうな男の声がした。
(本屋?)
と、ユウフウは頭の中で返事をした。
〈ああ、エッチな本を立ち読みしに行こうぜ〉
(行かないよ)
〈なしてよ? 買うわけじゃないんだからいいだろ?〉
「なして」とは北海道の方言であり、意味としては「どうして」と同じだ。
そんな方言を使った声は〈あっ、アツヤが付いて来るからか? 恥ずかしいのかよ?〉
(私は行かない。それより解決だ。ルドシーントロフ、頼む)
〈ほいほい、分かったよ〉
その瞬間、“アツヤ”の足元に緑の細い輪――直径一メートル――が瞬時に音もなく出現する。それは魔法陣と呼ばれる、魔法を使用する時に必要な場合もある手段の一種類だ。
と、現れた途端、魔法陣はその円の中いっぱいに緑色の明るい光を無音で吹き上げた。と、少し顔を上げているユウフウは思った。いつ見ても噴水のような光だと。
〈しばしこのままだ〉
おっと、そういえばまた何か忘れた感じするか? とルドシーントロフは付け加えた。
(――さぁね。何か質問されてみないと分からないさ)
〈じゃ質問。昨日の朝は何食べた?〉
(――トースト)
(正解。大丈夫だな。じゃさいなら)
その瞬間、視界が元に戻った。
と、アツヤは数歩走ってからつと立ち止まる。
そして振り返り「ありがとう、ユウフウ」と、笑顔で言った。
「どういたしまして。――身体は大丈夫?」
「別にどこもなんともないよ、ありがとう。――ルドシーントロフと話した?」
「うん。不満そうだね?」
「そりゃ不満よ、当たり前でしょ?」
〈何が不満なんだよ? テメー。助けてやっただろうが、このボケナスが〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフが言った。しかしその声はアツヤには届かない。
「まぁそう言うなよアツヤ。解決したんだから」
それよりこれからどうする? とユウフウは付け加えた。
「散歩でしょ?」
「そうだったね。じゃ行こうか」
「うん」
同時刻、道央の札幌市は智恵文市と同じく晴れているが、智恵文市と異なりそこには無数の人が歩いている。札幌は都会だ。人口も北海道で一番多い。二百万人くらい――智恵文市は三万人くらい――いる。
だから色んな人がいる――この物語の主人公の一人もいたりする。
主人公――日本人の男、二十代、腰まである黒髪、黒い目、優しそうな童顔、小柄、細身、ボタン上三つ開けて裾出しっぱなしの赤い長袖ワイシャツ、黒い長袖アンダーシャツ、黒いズボン、赤いスポーツシューズ――は、札幌の中心部の大通り公園――芝生の地面が東西に細長く伸び、公園に付き物の遊具はないが両側にベンチが沢山続いている――のベンチに座り、携帯電話の画面を見ている。
(――やはり昨夜の考えは正解だな。今回はこれにしよう)
と、主人公は腰を上げる。
(銀行まだ開いていたかな?)
と、主人公は携帯電話を仕舞い、歩き出した。
その主人公が歩き出して数分後、ユウフウとアツヤは国道を南へ歩き、歩道橋の下を通り抜けてすぐの本屋――二階建ての大きな建物――に通りかかった。さっきルドシーントロフが言っていた本屋だ。
と、アツヤがその本屋の前で立ち止まり「寄る?」と、ユウフウに聞く。
「私は別に用事はないよ。君は?」
〈あるだろ、エロ本を見に行くぞ〉
「私もないわ。じゃ行こうか――南?」
「うん」
〈行かないのかよ、つまらないな……〉
「ユウフウ」と、歩き出してすぐにアツヤが言った「今朝のニュース番組観た?」
「観てないよ。この前テレビ壊れて捨てたままだから。何か面白いニュースあったの?」
「面白いニュースはなかったけど興味深いのはあったわ。殺人鬼が脱獄したの」
「殺人鬼?」
〈殺人鬼が脱獄だと? そりゃ興味深いわ〉
アツヤは立ち止まり「うん、連続殺人鬼。札幌の刑務所から脱獄したんだって。怖いよね」
「――けれどそれにしては落ち着いているようだけど?」
「うん、だってユウフウがいるから。守ってくれるんでしょ?」
「それはもちろん――けれど智恵文市に来ることはないと思うけどね」
「あらなして?」
〈なして?〉と、ルドシーントロフも聞く。
「札幌と智恵文じゃ距離が遠すぎる。智恵文に来る前に捕まるよ」
〈ああそうだな……つまらない……〉
「そうだね――つまらないな」
「つまらない?」
「うん、君のかっこいい姿見たかったから――けれどどうかな? 捕まらないかもよ? 電車とかに乗らないなら」
「――確かにね。けれどそもそもわざわざ智恵文市なんて田舎に来るかな? 智恵文市は結構大きな町だ、田舎に身を隠す目的ならもっと他にいい田舎があると思うけど」
「そうね――けれど犯罪者の思考なんて分からないものじゃない?」
「――そうだね。――怖い?」
「ううん、君がいるから全然怖くないわ」
「そっか。しばらくの間一緒に暮らそうかと思ったけどよしておくか」
「怖い!! 私めちゃくちゃ怖いわ!!」
「ふっ、なら一緒に暮らそう」
「うん!! ――私を助けて!」
「……君は何者だ?」
「私の名前はフロッシュ。私は殺人鬼のターゲットにされている。私を助けてほしい」
(殺人鬼のターゲット?)
〈ほう、中々(なかなか)よさげじゃないか。どうする? ユウフウ〉
「――君はどうしてアツヤの身体を使っているんだ? 電話の代わりにしているのか?」
「この状態になっている私がターゲットなんです。けれどこの状態になるのをやめるわけにはいきません。助けてくれますか?」
「――分かった、助けるよ」
〈いいね!〉
「ありがとう」
「こちらこそ頼ってくれてありがとう。――その殺人鬼は今ニュースで報道されているヤツか?」
「ニュース? さぁ。その殺人鬼の名前はなんて言うんですか?」
「それは私にも分からないんだ」と、ユウフウは平然と答えた「――お腹減ってない? 私はちょっと空いてる。何か食べに行かない?」
〈おいおい、そんなしょうもないこと聞くのかよ? もっと他に聞くことあるだろう、どうして君を頼りにしたのかとか〉
(そんなことはラッキーでいいよ)
〈はぁ?〉
「私もお腹空いてます。フライドポテトが食べたいです。“ホンスーノナー”に行きましょう」
「良いよ、行こう」
と、二人は歩き出す。
二十数分後、二人は“ホンスーノナー”の屋上駐車場に――フライドポテトと飲み物を持って――来た。そこに車は一台も停まっていない。それは普通の光景だ。駐車場は二階にも一階にもあるからわざわざ屋上に停めに来るドライバーはいないと作者は思っている。
「どうして屋上に?」
塔屋――東側にある――を出て駐車場の真ん中辺りに移動する“アツヤ”にユウフウは聞いた。
「ここで殺人鬼を返り討ちにしませんか?」と、フロッシュは答えた「ここなら他人の迷惑にならない」
(おおっ、返り討ちか! いいね!)
「そうだね。――けれど、アツヤの迷惑にはなっている。分かるだろ? それを肝に銘じてほしい」
「はい……」
「――返り討ちにするって何か作戦とかあるの?」
「はい、呼び出します」
「呼び出す? どうやって?」
「もちろん魔法でです」
ここで読者の諸君に一言言っておくことがある。この世界は誰もが当たり前に魔法を使う世界ではない。むしろ魔法なんてないというのが世間の常識だ。まぁ、時代設定を令和にしているから以上の説明はいらないかもしれないが一応書いておく。
「魔法か――なら呼び出しは私がやる」
「いいんですか?」
「うん」
(もしかしたらアツヤに負担がかかるかもしれないからな)
〈お優しいねー〉
「その殺人鬼の名前と生年月日は?」と、ユウフウは聞いた。
「名前はヒカル。生年月日は――」
「ありがとう」
私の後ろにいてくれ、とユウフウは――両手の荷物を傍らに置きながら――付け加えた。フロッシュは言う通りにした。
その直後、ユウフウは正面を向いたまま、
(ルドシーントロフ、頼む)
〈オーケー〉
と、ユウフウの見えている世界がさっきと同じように緑色になる。
〈じゃ呼び出すぞ?〉
(頼む)
と、ユウフウの目先の地面に魔法陣――先述した――が現れる。
と、魔法陣はまた明るい緑色の光を噴水のように噴き出し始めた。
〈しばしこのままだ〉と、ルドシーントロフは言った〈ユウフウ、殺人鬼をどうするつもりだ? 武器を使うか?〉
(そこまでの必要はないと思いたいね。君は面白くないだろうけど)
〈そうだな。――私は何か面白いことでも考えるよ。この光、静かに眺めていたいんだろう?〉
(ありがとう)
ユウフウはそうやって光の噴水を眺める――
ふと、上る光が消えた。
それと同時に魔法陣の中に人が現れた。
(こいつが殺人鬼のヒカルか)
「そうだよ」
(何!?)
と、ユウフウは内心驚く。
〈ほう、こりゃちょっと驚いたな。この世界で動けるのか〉
と、ルドシーントロフは楽しげに言う。
「どうした? なぜ何も言わない?」と、殺人鬼――日本人の若い男、腰まである金髪、黒い目、爽やかなイケメン、小柄、細身、裾出しっぱなしの青い半袖ティーシャツ、白いズボン、青いスニーカー――のヒカルは言った「まさかこの空間に呼んだのに動けないのか?」
「ふっ、まさか」と、ユウフウは答えた「君の第一声、君は心が読めるのか?」
「さぁね。けれど君の顔を見ればイエスかノーくらいは言えると思うよ?」
「なるほど。で? 君がこの場所に呼び出された理由は読み取れるか?」
「さっぱりだよ。けれどこっちにはいいことはなさそうに思うよ」
「そうだね、私は君を倒す」
〈いいね!〉
「倒す? どうして?」
「君が殺人鬼だからだよ。危ないよ、君は」
「なるほど」
(さて、どうするかな? こいつ)
〈どうするって?〉
(どう倒すかだよ)
〈そんなの剣でもピストルでもなんでもいいだろ? 早く倒せよ〉
(そうはいかないよ。今は冷戦だ。それに私は――)
〈ならどこかへ飛ばしてやる〉と、ルドシーントロフはつまらなそうに言う〈あいつは魔法陣の中にいる。さっさと決断してくれ〉
(頼む、ありがとう)
と、ユウフウはほっとしながら答えた。
その瞬間、魔法陣がまた光を吹き出した。殺人鬼の姿はその光に飲み込まれ見えなくなった。
(どこへ飛ばしたんだ?)
光の噴水を見つめながらユウフウは聞く。
〈さぁね、けれど北海道のどこかだろうさ〉
(北海道? それじゃ困るよ、すぐに戻ってくるじゃないか)
〈戻ってくる? なしてさ?〉
(私に嫌な目に遭わされたからだよ。勝手に移動させられてまたどこかへ飛ばされたんだからな)
〈なるほど。けれどしばらく大丈夫だろう。魔力を回復する必要があるだろうから〉
君はどうだ? 魔力、とルドシーントロフは付け加えた。
(大丈夫だよ。見ての通り――いや、外からじゃ分からないか)
〈そうそう、だから聞いたんだよ、魔法を使って魔力が減ったからって身体が疲労したりはしないからな。――それよりあの殺人鬼をどうするんだよ?〉
(――相手の魔力が回復するまでの間に解決策を考えればいいよ。ルドシーントロフ、視界を元に戻してくれ)
〈悠長な――了解〉
ルドシーントロフが言われた通りにした直後、
「ユウフウさん」と、ユウフウは背後から呼ばれた。
彼が振り返ると「見ていました、殺人鬼との会話」と、フロッシュは言った「けれど殺人鬼はどうなったんですか?」
「別の場所へ飛ばした」
「飛ばした? じゃまだ生きているんですか?」
「うん。けれど大丈夫だよ、殺人鬼は魔力を回復するためにしばらく戻っては来ないだろうから。その間に解決策を考える。次に遭った時に殺人鬼を終わりにするための」
ユウフウ――そんな悠長なこと言っていていいんだろうか?
その頃、殺人鬼――ヒカルは札幌の大通り公園のベンチに座っていた。
(――とりあえず札幌で何をしようかな?)
「こんにちは」
と、ヒカルは声をかけられた。
「誰だ?」
読者の諸君はこの男のことを知っている。
作者が二番目に主人公と呼んだ男だ。
「私はキンダイ」と、主人公は名乗った「脱獄おめでとう」
「私のことを知っているの? 何者だい?」
「君の脱獄を手引きした男だよ」
「君が? それはありがとう。――けれどどうして脱獄させてくれたの?」
「君に興味があってね。隣いいかな?」
「どうぞ」
キンダイは腰かけると「君は別に無差別に人を殺しているわけじゃないんだろ?」と、聞いた。
「もちろん。そんなつまらないことはしないよ」
「君はどんな人間を殺しても罪悪感はないの?」
「ないね」ヒカルは断言した「楽しさ優先だから」
「君はやはり面白い男だね」と、キンダイは笑って言った「君に教えたいことがある」
「なんだろう?」
「君は智恵文市に行ったことはあるかな?」
「智恵文市? それならさっき行ったばかりだよ」
「なら少年に会わなかったかな? 名前はユウフウ。中学生で――」と、キンダイは少年の特徴を告げた。
「会ったよ。彼がどうかしたの?」
「彼は中々面白い存在なんだよ」
「そうなの? どうして?」
キンダイは教えた。
「それは面白いね!」
「殺したくなった?」
「もちろん!」
「なら殺したほうがいいね」
「そうだね。――しかし君はどうして私にその情報を? 君はユウフウが憎いの?」
「さぁね。それよりいつ智恵文に行く?」
「それはしばらくかかるんだよね、魔力の回復しなくちゃいけないんだ」
「なら回復の手助けをしよう」
「本当? ありがとう!」
――どうやら悠長はよくないようだ。
その頃、ユウフウとフロッシュは“ホンスーノナー”の屋上駐車場で食事――西側の端っこで景色を立ち見しながらフライドポテトを――している。
「あの大きな白い建物はなんですか?」と、フロッシュは“ホンスーノナー”の数キロ向こうにあるそれを眺めながら聞いた。
「市立病院だよ」と、ユウフウも眺めながら答えた。
「大きいですね」
「そうだね」
(――そういえばアツヤが昨日お見舞いの話をしていたな)と、ユウフウはふと思い出した(この病院に入院していて名前は確か――いや、思い出さなくていいな。私には関係ないことだ)
(それより――)
「病院と言えば君は身体は丈夫なほう?」と、ユウフウは聞いた。
「はい」
「それはよかった。アツヤはどうだったかな? まぁ、どうでもいいか、あんなヤツ」
「どうでもいいってどういうことよ!!」
「ふっ、怒鳴るなよ、アツヤ。びっくりしたじゃないか」
「君がふざけたことほざいたからじゃない! どうでもいいってどういうことよ!!」
「そう怒るなって。おかげで話せるようになったじゃないか」
「――もしかしてそのために言ったの?」
「そうだよ。当たり前じゃないか?」
「……もっと親切なやり方がよかった」
「ああそうだね、ごめんごめん――ポテトあげるから許して?」
「あーん」
「ほれ」
「もぐもぐ……うん、おいしい」
「――さて、機嫌も直ったことだしどこか行こうか?」
「うん――帰りたいな」
「帰る? 良いよ」
「君の家だからね? 分かってる?」
「分かっているよ。まだ殺人鬼のこと解決してないからね。そうなるとまたフロッシュは君の身体を使うだろうし――いや、違うな」
「えっ?」
「殺人鬼はまず私を狙うかもしれない。勝手に呼び出された挙句にどこかへ飛ばされたんだからな」
「そうだね――大丈夫?」
「大丈夫に決まってる」
「いいね、素敵。――けれど君の家には行くからね!」
「ふっ、分かってるよ」
「うん、よろしい」
帰る前にお昼ごはん食べない? とアツヤは付け加えた。
「お腹減った?」
「うん、フライドポテト食べて始まっちゃった」
「ならどこかで食べよう――この一階のレストランはどう?」
「良いわよ、行きましょう――その前にフライドポテト食べちゃいましょう」
「うん」
フライドポテトをさっさと片付けて、二人はレストランに行く――途中、ファストフードのゴミをゴミ箱に捨てた――とちょうど客は誰もいなかった。二人は窓際の席――西側に面した――に座った。
「先に選んでいいよ」と、ユウフウは言った。
「ありがとう」と、アツヤはメニューを手に取る「――私はカツ丼とチャーシューメン、それぞれ大盛りがいいな。頼んでいい?」
「もちろん」
「ありがとう。はい、メニュー」
「ありがとう」と、ユウフウは受け取る「――私はジンギスカン定食にしよう」
「いいわね、それも捨てがたかったわ。ねぇ、一口ちょうだい?」
「もちろん。一口とは言わず好きなだけ食べていいよ」
「ありがとう。じゃ私のも分けてあげるからね」
「ありがとう」
おっと、 「ジンギスカン」とは羊の肉を焼いたもので、北海道の郷土料理だ。カツ丼やチャーシューメンと同等、いやそれ以上においしいんだよね。
だから約一時間後、レストランを出たユウフウは満足している。
「おいしかったね」と、レストランの前でユウフウはアツヤに言った。
「うん」と、アツヤも満足している。カツ丼とチャーシューメンだ、そりゃ食べれば満足する「――けれどユウフウから分けてもらったジンギスカンが一番おいしかったわ」と、嬉しそうに言った。
二人はデパートから国道に出る。
「ユウフウさん」と、アツヤは言った。
「フロッシュか?」
「はい。よく分かりましたね」
「アツヤは私のことをユウフウさんなんて言わないからね。それでどうしたの?」
「殺人鬼についてです。ユウフウさん、“ホンスーノナー”の屋上へ行きましょう」
「屋上へ? ――まさかまた呼び出すつもりか? そうならまだ解決策思いついていないよ?」
「大丈夫です、私に考えがあります」
「考え?」
「はい、任せてください」
「――分かった。じゃ行こう」
二人は屋上へ――二階からそこへはエレベーターとエスカレーターと階段で行けるが、二人はエレベーターを選択――行く。
――屋上駐車場の真ん中辺りに誰かいる。
美しい人だった。




