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1話

日本(にほん)、北海道(ほっかいどう)、智恵文市(ちえぶんし)

令和(れいわ)八年(はちねん)、夏(なつ)

水曜日(すいようび)、朝(あさ)、午前十時(ごぜんじゅうじ)

晴(は)れ

涼(すず)しい、基本的(きほんてき)に北海道の夏は涼しい

――と、冒頭(ぼうとう)に設定(せってい)を書(か)いたが、これは作者(ボク)が以上(いじょう)の設定を書き忘(わす)れないための対策(たいさく)の書き出(だ)しだ。

決(けっ)してボクの文章(ぶんしょう)は最近話題(さいきんわだい)のエーアイで書いたそれではない。明記(めいき)しておく。八万文字(はちまんもじ)書かなくちゃいけないということもあるからね。


また多(おお)くのお金(かね)が動(うご)いたが、そんなことは智恵文市のような盆地(ぼんち)の田舎(いなか)にはほとんど関係(かんけい)ないことだ。

しかし、今日(きょう)も智恵文市(そこ)は誰も歩(ある)いて――いや、一人(ひとり)いる。

主人公(しゅじんこう)のユウフウだ。彼(かれ)――日本人(にほんじん)、中学三年生(ちゅうがくさんねんせい)、肩(かた)までの黒髪(くろかみ)、黒い目(め)、優(やさ)しそうで幼(おさな)い顔立(かおだ)ち、小柄(こがら)、華奢(きゃしゃ)、緑色(みどりいろ)のジャージ、黒い長袖(ながそで)アンダーシャツ、白(しろ)いスポーツシューズ――は商業店(しょうぎょうてん)が立(た)ち並(なら)ぶ町中(まちなか)の国道(こくどう)を北(きた)に歩いている。人(ひと)が全然(ぜんぜん)歩いていない――それは智恵文市をはじめ道北(どうほく)の田舎では普通(ふつう)の光景(こうけい)だ。

もっとも、もちろんその光景はいつだってというわけではなく――ほら、ユウフウの右横(みぎよこ)の自動(じどう)ドアから出(で)てきてさ。それは老舗(しにせ)デパート“ホンスーノナー”――ピンク色(いろ)の二階建(にかいだ)て、屋上駐車場(おくじょうちゅうしゃじょう)あり――から出てくるとすぐさまユウフウの名前(なまえ)を呼(よ)んだ。

ユウフウは立ち止(ど)まってそちらを見(み)ると「今日(きょう)こそ素敵(すてき)な返事(へんじ)を聞(き)かせてもらうわ」と、相手(あいて)は笑顔(えがお)で言(い)った。

ユウフウは一瞬(いっしゅん)曇(くも)ったが微笑(びしょう)して「アツヤ、私(わたし)は平等(びょうどう)にクールだからやっぱりその返事はしないよ」

学校(がっこう)はどうしたの? とユウフウは付(つ)け加(くわ)えた。

「もちろんサボりよ。で、昨日(きのう)話(はな)したお見舞(みま)いの品(しな)探(さが)してたんだけどよさげなものなかったわ」と、ガッカリしていた相手――日本人、中学三年生、腰(こし)まである茶髪(ちゃぱつ)、茶色(ちゃいろ)い目、可憐(かれん)な顔、小柄、華奢、緑色のジャージ、黒い長袖アンダーシャツ、白いスポーツシューズ――は気(き)を取(と)り直(なお)した様子(ようす)で答(こた)えた「“ホンスーノナー”っていつも空(す)いてるから買(か)いやすいんだけどねー」

「そっか。それにしてもまたサボりなんて悪(わる)いヤツだな、君(きみ)も」と、ユウフウは笑(わら)って言った。

「君のまねっこしたら癖(くせ)になっちゃったわ。全然問題(もんだい)ないけど。むしろなまら髪(かみ)伸(の)ばせてラッキー」と、アツヤは嬉(うれ)しそうに言う。おっと、「なまら」とは北海道や関東(かんとう)の方言(ほうげん)であり、「すごい」とか「とても」とか「非常(ひじょう)に」とかそんな意味合(いみあ)いを持(も)つ。

そんな方言を使(つか)った相手は「ユウフウ」

「何(なに)?」

「言ってみただけ。――君は学校サボって何してるの?」

「散歩(さんぽ)さ」

「散歩か、いいわね。付き合(あ)っていい?」

「どうぞ」

「やった。――あっ、そうだ、今日の私も万全(ばんぜん)だから」

「……ありがとう」

「そんな悲(かな)しげな顔よりも親切(しんせつ)な表情(ひょうじょう)をしてほしいな。情報(じょうほう)を教(おし)えてくれ」

と、アツヤは言った――アツヤが言っていない。ユウフウには分(わ)かっている。

「情報? そんなものよりお金をあげるよ。いくら欲(ほ)しい?」と、ユウフウは落(お)ち着(つ)いた様子で言った「私はお金持ちだ。しかも天涯孤独(てんがいこどく)。揉(も)めないお金だ、いい人生(じんせい)を送(おく)れるよ? それを好(す)きなだけあげるからそれを持(も)って帰(かえ)ってくれ」

「お金なんていらない」と、相手は断言(だんげん)した「私が欲しいのは君が持っている情報の一つ。君はこの世界(せかい)を支配(しはい)する七人(ななにん)のうちの誰と関係している? 私はそいつの詳細(しょうさい)が知りたいんだ」

「で、いくら欲しい? 悪いね」

「なら暴力(バイオレンス)で君を従(したが)わせる――とはならないな、今(いま)は冷戦(れいせん)だ」と、相手は虚(むな)しそうに言った「だがこのまま帰るわけにはいかない。つまらない」と、ユウフウに背(せ)を向(む)け、国道を南(みなみ)へ走(はし)り出す。

その瞬間(しゅんかん)、ユウフウの視界(しかい)は緑色から成(な)り立(た)つ。傍(かたわ)らの老舗デパートはピンクから薄(うす)い緑色に――それだけじゃない、人(ひと)と空(そら)以外(いがい)は全(すべ)てその色となる。

と、空も明(あか)るい青(あお)から濃(こ)くて淀(よど)んだ緑になったと同時(どうじ)に“アツヤ”――緑になっていない。人は例外(れいがい)――の動(うご)きが止(と)まる。それだけじゃない。

世界が止まっている。

〈なぁユウフウ、このあと本屋(ほんや)に行こうぜ〉

と、ユウフウの頭(あたま)の中(なか)で若(わか)そうな男の声(こえ)がした。

(本屋?)

と、ユウフウは頭の中で返事をした。

〈ああ、エッチな本を立(た)ち読(よ)みしに行こうぜ〉

(行かないよ)

〈なしてよ? 買(か)うわけじゃないんだからいいだろ?〉

「なして」とは北海道の方言であり、意味としては「どうして」と同じだ。

そんな方言を使った声は〈あっ、アツヤが付いて来(く)るからか? 恥(は)ずかしいのかよ?〉

(私は行かない。それより解決(かいけつ)だ。ルドシーントロフ、頼(たの)む)

〈ほいほい、分かったよ〉

その瞬間、“アツヤ”の足元(あしもと)に緑(グリーン)の細(ほそ)い輪(リング)――直径(ちょっけい)一(いち)メートル――が瞬時(しゅんじ)に音(おと)もなく出現(しゅつげん)する。それは魔法陣(まほうじん)と呼(よ)ばれる、魔法を使用(しよう)する時(とき)に必要(ひつよう)な場合(ばあい)もある手段(システム)の一種類(いっしゅるい)だ。

と、現(あらわ)れた途端(とたん)、魔法陣はその円(えん)の中(なか)いっぱいに緑色の明るい光(ひかり)を無音(むおん)で吹(ふ)き上(あ)げた。と、少(すこ)し顔を上げているユウフウは思った。いつ見ても噴水(ふんすい)のような光だと。

〈しばしこのままだ〉

おっと、そういえばまた何か忘れた感じするか? とルドシーントロフは付け加えた。

(――さぁね。何か質問(しつもん)されてみないと分からないさ)

〈じゃ質問。昨日の朝は何食べた?〉

(――トースト)

(正解(せいかい)。大丈夫(だいじょうぶ)だな。じゃさいなら)

その瞬間、視界が元に戻った。

と、アツヤは数歩(すうほ)走ってからつと立ち止(ど)まる。

そして振(ふ)り返(かえ)り「ありがとう、ユウフウ」と、笑顔で言った。

「どういたしまして。――身体(からだ)は大丈夫?」

「別(べつ)にどこもなんともないよ、ありがとう。――ルドシーントロフと話した?」

「うん。不満(ふまん)そうだね?」

「そりゃ不満よ、当(あ)たり前(まえ)でしょ?」

〈何が不満なんだよ? テメー。助(たす)けてやっただろうが、このボケナスが〉と、ユウフウの頭の中でルドシーントロフが言った。しかしその声はアツヤには届(とど)かない。

「まぁそう言うなよアツヤ。解決したんだから」

それよりこれからどうする? とユウフウは付け加えた。

「散歩でしょ?」

「そうだったね。じゃ行こうか」

「うん」


同時刻(どうじこく)、道央(どうおう)の札幌市(さっぽろし)は智恵文市と同じく晴れているが、智恵文市と異(こと)なりそこには無数(むすう)の人が歩いている。札幌は都会(とかい)だ。人口(じんこう)も北海道で一番多い。二百万人(にひゃくまんにん)くらい――智恵文市は三万人(さんまんにん)くらい――いる。

だから色んな人がいる――この物語(ものがたり)の主人公の一人(ひとり)もいたりする。

主人公(それ)――日本人の男、二十代、腰まである黒髪、黒い目、優しそうな童顔(どうがお)、小柄、細身(ほそみ)、ボタン上三(うえみっ)つ開(あ)けて裾(すそ)出(だ)しっぱなしの赤(あか)い長袖ワイシャツ、黒い長袖アンダーシャツ、黒いズボン、赤いスポーツシューズ――は、札幌の中心部(ちゅうしんぶ)の大通(おおどお)り公園(こうえん)――芝生(しばふ)の地面(じめん)が東西(とうざい)に細長(ほそなが)く伸(の)び、公園に付き物の遊具(ゆうぐ)はないが両側(りょうがわ)にベンチが沢山(たくさん)続(つづ)いている――のベンチに座り、携帯電話(けいたいでんわ)の画面(がめん)を見ている。

(――やはり昨夜(さくや)の考(かんが)えは正解だな。今回(こんかい)はこれにしよう)

と、主人公は腰を上げる。

(銀行(ぎんこう)まだ開(あ)いていたかな?)

と、主人公は携帯電話を仕舞(しま)い、歩き出した。


その主人公が歩き出して数分後(すうふんご)、ユウフウとアツヤは国道を南へ歩き、歩道橋(ほどうきょう)の下を通り抜けてすぐの本屋――二階建ての大(おお)きな建物――に通りかかった。さっきルドシーントロフが言っていた本屋だ。

と、アツヤがその本屋の前で立ち止まり「寄(よ)る?」と、ユウフウに聞く。

「私は別(べつ)に用事(ようじ)はないよ。君は?」

〈あるだろ、エロ本を見に行くぞ〉

「私もないわ。じゃ行こうか――南?」

「うん」

〈行かないのかよ、つまらないな……〉

「ユウフウ」と、歩き出してすぐにアツヤが言った「今朝(けさ)のニュース番組(ばんぐみ)観(み)た?」

「観てないよ。この前(まえ)テレビ壊(こわ)れて捨(す)てたままだから。何か面白(おもしろ)いニュースあったの?」

「面白いニュースはなかったけど興味深(きょうみぶか)いのはあったわ。殺人鬼(さつじんき)が脱獄(だつごく)したの」

「殺人鬼?」

〈殺人鬼が脱獄だと? そりゃ興味深いわ〉

アツヤは立ち止まり「うん、連続(れんぞく)殺人鬼。札幌の刑務所(けいむしょ)から脱獄したんだって。怖(こわ)いよね」

「――けれどそれにしては落ち着いているようだけど?」

「うん、だってユウフウがいるから。守ってくれるんでしょ?」

「それはもちろん――けれど智恵文市に来ることはないと思うけどね」

「あらなして?」

〈なして?〉と、ルドシーントロフも聞く。

「札幌と智恵文じゃ距離(きょり)が遠(とお)すぎる。智恵文(こっち)に来る前に捕(つか)まるよ」

〈ああそうだな……つまらない……〉

「そうだね――つまらないな」

「つまらない?」

「うん、君のかっこいい姿見たかったから――けれどどうかな? 捕まらないかもよ? 電車(でんしゃ)とかに乗らないなら」

「――確(たし)かにね。けれどそもそもわざわざ智恵文市なんて田舎に来るかな? 智恵文市は結構(けっこう)大きな町だ、田舎に身を隠(かく)す目的(もくてき)ならもっと他(ほか)にいい田舎があると思うけど」

「そうね――けれど犯罪者(はんざいしゃ)の思考(しこう)なんて分からないものじゃない?」

「――そうだね。――怖い?」

「ううん、君がいるから全然怖くないわ」

「そっか。しばらくの間(あいだ)一緒に暮らそうかと思ったけどよしておくか」

「怖い!! 私めちゃくちゃ怖いわ!!」

「ふっ、なら一緒に暮(く)らそう」

「うん!! ――私を助けて!」

「……君は何者(なにもの)だ?」

「私の名前はフロッシュ。私は殺人鬼のターゲットにされている。私を助けてほしい」

(殺人鬼のターゲット?)

〈ほう、中々(なかなか)よさげじゃないか。どうする? ユウフウ〉

「――君はどうしてアツヤの身体(からだ)を使っているんだ? 電話の代(か)わりにしているのか?」

「この状態(じょうたい)になっている私がターゲットなんです。けれどこの状態になるのをやめるわけにはいきません。助けてくれますか?」

「――分かった、助けるよ」

〈いいね!〉

「ありがとう」

「こちらこそ頼ってくれてありがとう。――その殺人鬼は今ニュースで報道(ほうどう)されているヤツか?」

「ニュース? さぁ。その殺人鬼の名前はなんて言うんですか?」

「それは私にも分からないんだ」と、ユウフウは平然(へいぜん)と答えた「――お腹(なか)減(へ)ってない? 私はちょっと空いてる。何か食べに行かない?」

〈おいおい、そんなしょうもないこと聞くのかよ? もっと他に聞くことあるだろう、どうして君を頼りにしたのかとか〉

(そんなことはラッキーでいいよ)

〈はぁ?〉

「私もお腹空いてます。フライドポテトが食べたいです。“ホンスーノナー”に行きましょう」

「良(い)いよ、行こう」

と、二人は歩き出す。

二十数分後、二人は“ホンスーノナー”の屋上駐車場に――フライドポテトと飲み物を持って――来た。そこに車(くるま)は一台(いちだい)も停(と)まっていない。それは普通の光景だ。駐車場は二階にも一階にもあるからわざわざ屋上に停めに来るドライバーはいないと作者(ボク)は思っている。

「どうして屋上に?」

塔屋(とうや)――東側(ひがしがわ)にある――を出て駐車場の真(ま)ん中(なか)辺(あた)りに移動(いどう)する“アツヤ”にユウフウは聞いた。

「ここで殺人鬼を返(かえ)り討(う)ちにしませんか?」と、フロッシュは答えた「ここなら他人(たにん)の迷惑(めいわく)にならない」

(おおっ、返り討ちか! いいね!)

「そうだね。――けれど、アツヤの迷惑にはなっている。分かるだろ? それを肝(きも)に銘(めい)じてほしい」

「はい……」

「――返り討ちにするって何か作戦(さくせん)とかあるの?」

「はい、呼び出します」

「呼び出す? どうやって?」

「もちろん魔法でです」

ここで読者(どくしゃ)の諸君(しょくん)に一言(ひとこと)言っておくことがある。この世界は誰もが当たり前に魔法を使う世界ではない。むしろ魔法なんてないというのが世間(せけん)の常識(じょうしき)だ。まぁ、時代(じだい)設定を令和にしているから以上の説明はいらないかもしれないが一応(いちおう)書いておく。

「魔法か――なら呼び出しは私がやる」

「いいんですか?」

「うん」

(もしかしたらアツヤに負担(ふたん)がかかるかもしれないからな)

〈お優しいねー〉

「その殺人鬼の名前と生年月日(せいねんがっぴ)は?」と、ユウフウは聞いた。

「名前はヒカル。生年月日は――」

「ありがとう」

私の後(うし)ろにいてくれ、とユウフウは――両手(りょうて)の荷物(にもつ)を傍らに置きながら――付け加えた。フロッシュは言う通りにした。

その直後(ちょくご)、ユウフウは正面(しょうめん)を向(む)いたまま、

(ルドシーントロフ、頼む)

〈オーケー〉

と、ユウフウの見えている世界がさっきと同じように緑色になる。

〈じゃ呼び出すぞ?〉

(頼む)

と、ユウフウの目先(めさき)の地面に魔法陣――先述(せんじゅつ)した――が現れる。

と、魔法陣はまた明るい緑色の光を噴水のように噴き出し始めた。

〈しばしこのままだ〉と、ルドシーントロフは言った〈ユウフウ、殺人鬼をどうするつもりだ? 武器(ぶき)を使うか?〉

(そこまでの必要(ひつよう)はないと思いたいね。君は面白くないだろうけど)

〈そうだな。――私は何か面白いことでも考えるよ。この光、静(しず)かに眺(なが)めていたいんだろう?〉

(ありがとう)

ユウフウはそうやって光の噴水を眺める――

ふと、上(のぼ)る光が消えた。

それと同時に魔法陣の中に人が現れた。

(こいつが殺人鬼のヒカルか)

「そうだよ」

(何!?)

と、ユウフウは内心(ないしん)驚(おどろ)く。

〈ほう、こりゃちょっと驚いたな。この世界で動けるのか〉

と、ルドシーントロフは楽しげに言う。

「どうした? なぜ何も言わない?」と、殺人鬼――日本人の若い男、腰まである金髪(きんぱつ)、黒い目、爽(さわ)やかなイケメン、小柄、細身、裾出しっぱなしの青い半袖(はんそで)ティーシャツ、白いズボン、青いスニーカー――のヒカルは言った「まさかこの空間に呼んだのに動けないのか?」

「ふっ、まさか」と、ユウフウは答えた「君の第一声(だいいっせい)、君は心(こころ)が読(よ)めるのか?」

「さぁね。けれど君の顔を見ればイエスかノーくらいは言えると思うよ?」

「なるほど。で? 君がこの場所に呼び出された理由は読み取れるか?」

「さっぱりだよ。けれどこっちにはいいことはなさそうに思うよ」

「そうだね、私は君を倒(たお)す」

〈いいね!〉

「倒す? どうして?」

「君が殺人鬼だからだよ。危(あぶ)ないよ、君は」

「なるほど」

(さて、どうするかな? こいつ)

〈どうするって?〉

(どう倒すかだよ)

〈そんなの剣(ソード)でもピストルでもなんでもいいだろ? 早く倒せよ〉

(そうはいかないよ。今は冷戦だ。それに私は――)

〈ならどこかへ飛(と)ばしてやる〉と、ルドシーントロフはつまらなそうに言う〈あいつは魔法陣の中にいる。さっさと決断(けつだん)してくれ〉

(頼む、ありがとう)

と、ユウフウはほっとしながら答えた。

その瞬間、魔法陣がまた光を吹き出した。殺人鬼の姿はその光に飲み込まれ見えなくなった。

(どこへ飛ばしたんだ?)

光の噴水を見つめながらユウフウは聞く。

〈さぁね、けれど北海道のどこかだろうさ〉

(北海道? それじゃ困(こま)るよ、すぐに戻ってくるじゃないか)

〈戻ってくる? なしてさ?〉

(私に嫌な目に遭(あ)わされたからだよ。勝手(かって)に移動させられてまたどこかへ飛ばされたんだからな)

〈なるほど。けれどしばらく大丈夫だろう。魔力(まりょく)を回復(かいふく)する必要があるだろうから〉

君はどうだ? 魔力、とルドシーントロフは付け加えた。

(大丈夫だよ。見ての通り――いや、外(そと)からじゃ分からないか)

〈そうそう、だから聞いたんだよ、魔法を使って魔力が減ったからって身体が疲労(ひろう)したりはしないからな。――それよりあの殺人鬼をどうするんだよ?〉

(――相手の魔力が回復するまでの間に解決策(かいけつさく)を考えればいいよ。ルドシーントロフ、視界を元に戻してくれ)

〈悠長(ゆうちょう)な――了解(りょうかい)〉

ルドシーントロフが言われた通りにした直後、

「ユウフウさん」と、ユウフウは背後(はいご)から呼ばれた。

彼が振り返ると「見ていました、殺人鬼との会話(かいわ)」と、フロッシュは言った「けれど殺人鬼はどうなったんですか?」

「別の場所(ばしょ)へ飛ばした」

「飛ばした? じゃまだ生きているんですか?」

「うん。けれど大丈夫だよ、殺人鬼は魔力を回復するためにしばらく戻っては来ないだろうから。その間に解決策を考える。次に遭った時に殺人鬼を終わりにするための」

ユウフウ――そんな悠長なこと言っていていいんだろうか?


その頃、殺人鬼――ヒカルは札幌の大通り公園のベンチに座っていた。

(――とりあえず札幌で何をしようかな?)

「こんにちは」

と、ヒカルは声をかけられた。

「誰だ?」

読者の諸君はこの男のことを知っている。

作者(ボク)が二番目に主人公と呼んだ男だ。

「私はキンダイ」と、主人公は名乗った「脱獄おめでとう」

「私のことを知っているの? 何者だい?」

「君の脱獄を手引(てび)きした男だよ」

「君が? それはありがとう。――けれどどうして脱獄させてくれたの?」

「君に興味があってね。隣(となり)いいかな?」

「どうぞ」

キンダイは腰かけると「君は別に無差別(むさべつ)に人を殺しているわけじゃないんだろ?」と、聞いた。

「もちろん。そんなつまらないことはしないよ」

「君はどんな人間を殺しても罪悪感(ざいあくかん)はないの?」

「ないね」ヒカルは断言した「楽しさ優先(ゆうせん)だから」

「君はやはり面白い男だね」と、キンダイは笑って言った「君に教えたいことがある」

「なんだろう?」

「君は智恵文市に行ったことはあるかな?」

「智恵文市? それならさっき行ったばかりだよ」

「なら少年に会わなかったかな? 名前はユウフウ。中学生で――」と、キンダイは少年の特徴を告(つ)げた。

「会ったよ。彼がどうかしたの?」

「彼は中々面白い存在なんだよ」

「そうなの? どうして?」

キンダイは教えた。

「それは面白いね!」

「殺したくなった?」

「もちろん!」

「なら殺したほうがいいね」

「そうだね。――しかし君はどうして私にその情報を? 君はユウフウが憎(にく)いの?」

「さぁね。それよりいつ智恵文に行く?」

「それはしばらくかかるんだよね、魔力の回復しなくちゃいけないんだ」

「なら回復の手助(てだす)けをしよう」

「本当? ありがとう!」

――どうやら悠長はよくないようだ。


その頃、ユウフウとフロッシュは“ホンスーノナー”の屋上駐車場で食事(しょくじ)――西側(にしがわ)の端(はし)っこで景色を立ち見しながらフライドポテトを――している。

「あの大きな白い建物はなんですか?」と、フロッシュは“ホンスーノナー”の数キロ向こうにあるそれを眺めながら聞いた。

「市立病院(しりつびょういん)だよ」と、ユウフウも眺めながら答えた。

「大きいですね」

「そうだね」

(――そういえばアツヤが昨日お見舞いの話をしていたな)と、ユウフウはふと思い出した(この病院に入院していて名前は確か――いや、思い出さなくていいな。私には関係ないことだ)

(それより――)

「病院と言えば君は身体は丈夫(じょうぶ)なほう?」と、ユウフウは聞いた。

「はい」

「それはよかった。アツヤはどうだったかな? まぁ、どうでもいいか、あんなヤツ」

「どうでもいいってどういうことよ!!」

「ふっ、怒鳴(どな)るなよ、アツヤ。びっくりしたじゃないか」

「君がふざけたことほざいたからじゃない! どうでもいいってどういうことよ!!」

「そう怒(おこ)るなって。おかげで話せるようになったじゃないか」

「――もしかしてそのために言ったの?」

「そうだよ。当たり前じゃないか?」

「……もっと親切なやり方がよかった」

「ああそうだね、ごめんごめん――ポテトあげるから許(ゆる)して?」

「あーん」

「ほれ」

「もぐもぐ……うん、おいしい」

「――さて、機嫌(きげん)も直(なお)ったことだしどこか行こうか?」

「うん――帰りたいな」

「帰る? 良いよ」

「君の家(うち)だからね? 分かってる?」

「分かっているよ。まだ殺人鬼のこと解決してないからね。そうなるとまたフロッシュは君の身体を使うだろうし――いや、違うな」

「えっ?」

「殺人鬼はまず私を狙うかもしれない。勝手に呼び出された挙句(あげく)にどこかへ飛ばされたんだからな」

「そうだね――大丈夫?」

「大丈夫に決まってる」

「いいね、素敵。――けれど君の家(うち)には行くからね!」

「ふっ、分かってるよ」

「うん、よろしい」

帰る前にお昼ごはん食べない? とアツヤは付け加えた。

「お腹減った?」

「うん、フライドポテト食べて始まっちゃった」

「ならどこかで食べよう――この一階のレストランはどう?」

「良いわよ、行きましょう――その前にフライドポテト食べちゃいましょう」

「うん」

フライドポテトをさっさと片付(かたづ)けて、二人はレストランに行く――途中、ファストフードのゴミをゴミ箱に捨てた――とちょうど客は誰もいなかった。二人は窓際(まどぎわ)の席(せき)――西側に面(めん)した――に座った。

「先に選(えら)んでいいよ」と、ユウフウは言った。

「ありがとう」と、アツヤはメニューを手に取る「――私はカツ丼とチャーシューメン、それぞれ大盛(おおも)りがいいな。頼んでいい?」

「もちろん」

「ありがとう。はい、メニュー」

「ありがとう」と、ユウフウは受け取る「――私はジンギスカン定食(ていしょく)にしよう」

「いいわね、それも捨(す)てがたかったわ。ねぇ、一口(ひとくち)ちょうだい?」

「もちろん。一口とは言わず好きなだけ食べていいよ」

「ありがとう。じゃ私のも分(わ)けてあげるからね」

「ありがとう」

おっと、 「ジンギスカン」とは羊(ひつじ)の肉を焼いたもので、北海道の郷土(きょうど)料理だ。カツ丼やチャーシューメンと同等(どうとう)、いやそれ以上においしいんだよね。

だから約(やく)一時間後、レストランを出たユウフウは満足(まんぞく)している。

「おいしかったね」と、レストランの前でユウフウはアツヤに言った。

「うん」と、アツヤも満足している。カツ丼とチャーシューメンだ、そりゃ食べれば満足する「――けれどユウフウから分けてもらったジンギスカンが一番おいしかったわ」と、嬉しそうに言った。

二人はデパートから国道に出る。

「ユウフウさん」と、アツヤは言った。

「フロッシュか?」

「はい。よく分かりましたね」

「アツヤは私のことをユウフウさんなんて言わないからね。それでどうしたの?」

「殺人鬼(ヒカル)についてです。ユウフウさん、“ホンスーノナー”の屋上へ行きましょう」

「屋上へ? ――まさかまた呼び出すつもりか? そうならまだ解決策思いついていないよ?」

「大丈夫です、私に考えがあります」

「考え?」

「はい、任(まか)せてください」

「――分かった。じゃ行こう」

二人は屋上へ――二階からそこへはエレベーターとエスカレーターと階段(かいだん)で行けるが、二人はエレベーターを選択(チョイス)――行く。

――屋上駐車場の真ん中辺りに誰かいる。

美(うつく)しい人だった。

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