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翌朝。
俺はパンの山に埋もれて目を覚ました。
「夢じゃ、ないのか」
目の前には大量のパン。
昨日の出来事は現実だったらしい。
試しに一つ手に取る。
硬さも匂いも味も同じ。
偽物ではない。
完全な本物。
俺は思わず唾を飲み込んだ。
(もしこれがパン以外にも使えるなら)
脳裏に、一つの考えが浮かぶ。
ありふれた考え。
だが、その先にある可能性は恐ろしい。
俺は腰の革袋を開いた。
中には、追放される直前に残っていた銅貨が一枚。
全財産。
笑えるほど少ない。
「まさか、な」
銅貨を掌に乗せる。
そして念じた。
「増えろ」
光が走る。
次の瞬間。
銅貨が二枚になった。
「っ!?」
鼓動が跳ね上がる。
もう一度。
四枚。
八枚。
十六枚。
三十二枚。
六十四枚。
百二十八枚。
二百五十六枚。
掌から溢れ落ちた銅貨が地面を埋め尽くした。
じゃらじゃらじゃらじゃらじゃら――!!
朝の森に金属音が響く。
俺は言葉を失った。
「嘘だろ」
銅貨一枚。
価値は小さい。
だが。
この能力には関係ない。
価値が小さかろうが大きかろうが。
一枚は二枚になる。
二枚は四枚になる。
四枚は八枚になる。
それだけだ。
世界中の商人が何十年とかけて築く財産を。
このスキルは数分で作り出せる。
そして、その瞬間。
俺は気付いてしまった。
本当に恐ろしいことに。
「待て」
手が震える。
呼吸が浅くなる。
もし。
本当に何でも倍にできるなら。
銅貨だけではない。
鉄も。
金も。
ミスリルも。
伝説の霊薬も。
魔剣も。
聖剣も。
増やせるのではないか?
いや。
もっとだ。
俺はステータス画面を開いた。
そこには誰もが持つ数字が並んでいる。
筋力。
敏捷。
魔力。
体力。
そして。
俺の視線は、自分の魔力値で止まった。
魔力:12
ごく普通。
新人冒険者レベル。
だが。
そこへ指を伸ばした瞬間。
視界に新しい文字が現れた。
【倍化可能】
俺は凍り付いた。
「おい」
喉が乾く。
まさか。
そんなはずがない。
だが心のどこかで確信していた。
このスキルは、物だけを増やす能力ではない。
もっと根本的な。
もっと危険な。
世界のルールそのものに触れる力だと。
恐る恐る、念じる。
「魔力を――倍に」
瞬間。
身体の奥で何かが弾けた。
魔力:24
その時。
俺は確信した。
この力は、本当に世界を揺るがす力だと。
本気で確信したのであった。




