はじまり
「ハズレスキルだな」
その一言で、すべてが決まった。
神から授かったスキルは、人生を決める。
剣聖、賢者、聖女、竜騎士。
そういった“当たり”を引いた者は、国から祝福され、未来を約束される。
逆に。
俺のように“外れ”を引いた者は――その場で価値を失う。
「【指数関数】?」
ギルドの鑑定士が、眉をひそめる。
その場にいた誰もが、同じ顔をしていた。
困惑と、軽蔑と、失望。
「効果は……物を“倍にする”? それだけか?」
ざわり、と空気が揺れた。
次の瞬間、笑いが起きる。
「ははは! なんだそれ!」
「農民向けスキルじゃねえか!」
「戦闘どころか冒険にもならねえ!」
誰かが言った。
「外れだ。完全に」
その言葉に、ギルドの空気は確定した。
俺は“外れ”だと。
「パーティーから外す」
「足手まといはいらない」
「他を当たってくれ」
幼なじみも、視線を逸らした。
かつて背中を預け合った仲間だったはずのやつらが、もう遠い存在のように見える。
そして最後に、ギルドマスターが静かに言った。
「悪いが、この街では君の居場所はない」
追放。
あまりにもあっけない終わりだった。
〜〜〜
その夜。
街を追い出され、森の外れに立ち尽くす。
手元には、わずかなパンと水。
剣はあるが、頼れるものではない。
(結局、こうなるのか)
空を見上げる。
星はやけに冷たく瞬いていた。
そのときだった。
ふと、視界の隅に“説明文”が浮かぶ。
【指数関数】
・対象を倍化する
・倍化したものも再び倍化対象となる
・上限:なし
発動条件。
念じること。
「は?」
意味が分からなかった。
試しに、手元のパンを見つめる。
「増えろ」
一瞬の沈黙。
パンが、もう一つ現れた。
「本当に、増えた?」
二つのパン。
普通ならそれだけ。
だが、なぜか胸の奥で違和感が消えない。
もう一度、念じる。
「増えろ」
二つが、四つになった。
「……?」
さらに。
四つが、八つに。
八つが、十六に。
十六が、三十二に。
そこで、気づく。
(これ……“増えた結果”も、また増やせるのか?)
背筋が、冷えた。
ただの複製じゃない。
これは――
“増加そのものが増える力”。
数は、止まらない。
呼吸のように。
当然のように。
世界の理を無視して、増えていく。
パンの山を見つめながら、俺は小さく呟いた。
「これ、ハズレじゃないだろ」
夜風が、やけに静かだった。
そしてその静けさの奥で――世界が、まだこの力の正体を知らずに息をしていた。




