第43話 おっさん陰陽師、相談する
「……すまぬが初対面の相手を前にして我らの宿は教えられぬ」
どのような意図があるのか分からぬが、いくらなんでも先ほどあったばかりの者に宿を教えるわけにはいかぬ。
「ああっ、いや、違うのじゃ! 単に同じ宿に泊まれば、もっとヤコウの話を聞けると思っただけなのじゃ!」
エルネは慌てた様子で首を振る。さすがに自身でも怪しいと思ったのかもしれない。
……まあ普通に考えれば宿を襲撃するというのなら黙って尾行するだろうし、先ほどの海でも奇襲はできた。京の都でとった弟子の中にもエルネのようにひたすら陰陽術に興味のある者もいたな。あまりに熱中し過ぎて周りのことが見えなくなるのだが、その様子が今のエルネそっくりである。
「本当に他意はないのじゃ! 妾はベイカル通りのバルの宿に泊まっておる。それでは明日の朝にこの冒険者ギルドで頼むのじゃ!」
「う、うむ」
これ以上変なことを言わぬようにか、エルネはバタバタと冒険者ギルドを出ていった。
『自分の興味のあること以外はあんまり目に入らないみたいだね。昔のご主人を見ているみたいだったよ』
「まあ、否定はできぬな」
我も陰陽師になったばかりの頃は陰陽術の修行に明け暮れて陰陽術以外のことはだいぶ疎かになってしまったものだ。レイラもそうであるように、なにかに熱中すると周りが見えなくなってしまうものである。
無論ある程度歳をとってくれば落ち着くがな。
「レイラから見てあの者の印象はどうであった?」
「う~ん、エルネお姉ちゃんはあわてんぼうさんだけれど、悪い人じゃないように見えるかな」
「ふむ、なるほど」
ただ者ではないように見えるが、我もレイラと同じで悪い者ではないように見える。
あとは念のために周囲で我らをうかがっている冒険者たちに話を聞いてみるとしよう。
「どうやらあの者はこの辺りではだいぶ有名な冒険者のようだな」
エルネと別れたあとは宿へ戻ってきた。念のためではあるが、尾行者などがいないことを確認し、この部屋には霊符による結界を張ってある。
そして他の冒険者からの話を聞いたところ、エルネはこの辺りで有名な第二級冒険者のようだ。先ほど冒険者ギルドで周囲からの注目を集めていたのは我らよりもエルネを見ている者が多かったらしい。有名な冒険者である分情報が多いので、すぐに情報を集めることができた。
どうやら彼女は魔法の研究をしながらこの街だけでなく、様々な街を歩いている冒険者のようで、多くの功績を残しているらしい。冒険者としても信用のできる人物であることはすぐにわかった。
……そして驚くべきことに、彼女の容姿は10そこそこのように見えるが、なんと齢100を超えるらしい。エルフという種族は長寿であると聞いていたが、まさか容姿が幼いままであるとは本当に驚いたぞ。
「すっごく強いんだってね。全然見えなかったよ」
『ただの子供じゃなかったんだね』
レイラとスーは気付けなかったようであるが、やはりあの者はただ者ではなかったようだ。100を超えるのであればあの風格も納得できる。
「あの者についてなのだが、ある程度我の事情を話し、いろいろと協力してもらおうと思うのだがどうだろう?」
「……ええ~と、あの人もおじちゃんの弟子にするのかな?」
「いや、そういう意味ではない。あの者はああ見えて長く生きているようだし、多くの場所を旅しているから様々なことに詳しいであろう。陰陽術については知らぬようであったが、我の世のことや我のように別の世に迷い込んだ者がいないか聞いてみたいのだ」
「あっ、そういうことなんだね。レイラはいいと思うよ」
自分以外にも弟子を取るのかと気になったのかもしれぬが、詳しい話を聞きたいだけだ。あの者が弟子になりたいと言えば考えるが、エルネはすでに一流の魔法使いのようだし、あえて我の弟子になるとは思えぬ。
ただ、我としてもレイラのようにたった一日で陰陽術が使えるほどの才能がこの世の者にあるのかを知りたい。陰陽術や霊符を見せたりする代わりに陰陽術を使えるかの検証を手伝ってもらってもよいかもしれぬ。
『陰陽術にすごく興味があったみたいだし、いいんじゃないかな。魔法っていうのにも詳しいみたいだし、ご主人もいろいろと聞けそうだしね。……でもおいらを解剖するとかは絶対にごめんだよ!』
「ああ、むろんそんなことはさせぬぞ」
先ほど真剣なまなざしでスーの身体の隅々まで舐めるように見ていたあの者ならば、そういうことを言い出してもおかしくなさそうであるがそんなことはさせぬ。
スーの言う通り、この世の魔法や魔道具について詳しく知りたかったことだし、陰陽術を教える代わりに魔法のことを詳しく教えてもらうとしよう。




