第44話 おっさん陰陽師、詳しく話す
「むっ、早いな」
翌朝冒険者ギルドへ行くと、すでにエルネ殿は先に到着していたようだ。約束していた時間よりも早く来たつもりであったのだが、それよりも早いとは。
我らの姿を見つけると、笑顔で我らの方へ近付いてくる。
「おはようなのじゃ! 今日が楽しみで、昨日はあまり眠れなかったのじゃ」
「お、おはようございます!」
『おはよう~』
「おはよう。エルネ殿、待たせてしまって申し訳ない」
エルネ殿に向かって頭を下げる。時間前とはいえ、我よりも遥かに年上の者を待たせてしまった。
「妾が楽しみ過ぎて勝手に早く来ただけなのじゃから気にする必要はないぞ。あと、他の者のに妾のことを聞いたのかもしれぬが、敬語で話す必要はないからのう」
「……かたじけない」
年上とはいえ、見た目が我よりも遥かに若い者に対して畏まるのは少し違和感があったのでありがたい。もちろん普通に話すが年上に対する敬意を忘れているわけではないぞ。
「実は少し込み入った話がしたくてな。せっかく冒険者ギルドに来てくれたのにすまぬが、場所を変えさせてくれぬか?」
「もちろん構わないのじゃ」
エルネの情報を集めて、ある程度信頼のできる人物であることがわかった。昨日と同様にエルネはだいぶ目立っていて周囲の冒険者の注目を集めているので、まずは他の者が周囲にいない場所へ移動する。
冒険者ギルドを出てから街の門を出る。少し道を外れた場所にマジックバッグから椅子を出してそこに座った。ここならば周囲に他の者はおらず、街からも近いので魔物は少なくて何かあってもすぐに街の中へ逃げられる。
エルネが何かしてくるとは思わないが、念には念を入れておかねばな。エルネの方はというと、文句ひとつ言わずにここまでついてきた。出会ったばかりの我らを信用しているわけではないだろうが、第二級冒険者ということだし、何が起きても自身の力で防げると考えているのだろう。
「さて、ここならば大丈夫か。エルネ、陰陽術を見せる前に話しておきたいことがある。実は我はこの世の者ではないのだ」
「……むっ、どういうことじゃ?」
これまで出会ってから終始ニコニコと笑顔だったエルネの表情が真剣なものへと変わる。レイラにこのことを話した時とは異なり、我の言っていることの意味はわかるが、理解できないといった様子だ。
そのままレイラに話したことと同じように、我は京の都で生まれ育ち、病に伏せていたら突然我の世とは異なるこの世におり、病も消えていたことを話した。
「………………ふ~む、非常に興味深いのう」
両腕を組みながら、真剣な表情で我の話を聞いてくれたエルネ。少なくとも我が嘘を言っているとは考えていなそうだ。レイラもそうであるが、こんな突拍子もない話をまともに聞いてくれるだけでもありがたい。
「エルネは日の本や京の都という場所を知らぬか?」
「どちらの地名も聞いたことはないし、実体を持たない妖というのも聞いたことがないのう。魔法がないことと、星の位置が違うことからもヤコウの言う通り、別の世界と考えることが自然かもしれぬ」
「そうであるか……」
100を超え、様々な場所を旅したエルネも知らぬとなると、やはり日の本へ戻るのは難しそうだ。そして戻れたところで我の病がどうなるのかもわからぬからな。
「じゃが、お主のように魔法とは異なる不思議な力を持った者がある日突然現れたという伝承がいくつか残っているのじゃ。もしかすると、ヤコウはその者たちと同じなのかもしれぬぞ」
「むっ、それは興味深い。その者たちが持っている力は陰陽術ではなかったのか?」
「まだ陰陽術とやらのことを詳しく知らぬからはっきりとしたことは言えぬが、少し異なる気もするのじゃ。代償もなしに大いなる力を行使したり、不可能を可能にするような力であったとも記されていた。じゃが、別の理の異なる世界に転生や転移する話とは似ている気がするのじゃ」
転生や転移とはよく分からぬが、どうやら我と似たような者がいることは間違いないようである。
それがわかっただけでも多少は理解が進んだ気はする。これまでの街でも他の者から話を聞いたが、何ひとつ分からなかったからな。
「まさか妾がそんなお伽話のような者に出会えるとはのう! やはりヤコウたちを見つけた妾の勘は正しかったのじゃ!」
何やら興奮した様子ではしゃいでいるエルネ。こうして見ると、見た目通りの童なのだがな。
とりあえず、その不思議な力を持った者の話はあとでエルネに詳しく聞くとしよう。
「それではまず我が陰陽術を見せよう。レイラはいつも通りの修行を始めてくれ」
「うん!」
この者はひたすら知識に貪欲なだけであって悪い者でないことはこれまでの会話でよく分かった。
新しい情報を聞けたことだし、まずはエルネに霊符や式神などを見せる。そのあと魔法や魔道具のことについて詳しく聞いてみるとしよう。




