第38話 おっさん陰陽師、海へ入る
「この波というのも不可思議であるな……。風もないのにどこから運ばれてくるのであろう?」
「不思議だね~!」
海からは白い波というものが繰り返し浜に押し寄せてくる。この辺りには風もないのに不可思議である。
「うわあ~冷たくて気持ちいいよ!」
「奥の方は深くなっているらしいゆえ、気を付けるのだぞ」
「うん!」
レイラは靴を脱いで海へ入り楽しんでいる。
『海の中に魚もいっぱいいるみたいだよ』
「海の奥には危険な魔物もいるようだし、それほど奥に行ってはならぬぞ」
『うん、了解だよ!』
スーは海の上を飛んでいる。スーならば大丈夫だとは思うが、海には大きくて危険な魔物もいるようだ。そのままこちらへと戻ってきて、ゆっくりと海に足を浸ける。
『わわっ、冷たい! せっかくならご主人も海に入ったら?』
「とっても気持ちいいよ」
「ふむ、そうだな」
せっかくここまで来たのなら、我も童心に帰って楽しむとしよう。
履いていた靴を脱ぐ。ちなみにこの靴はミニカムの街で購入した靴である。我がこの世へやってきた時は京の都で履いていた浅沓を履いていた。桐の木を削り和紙と黒漆を塗り重ねて作った物だが、長距離を歩くのは適さないためこの世の靴に変えた。
我は狩衣に誇りを持っているが、浅沓に対してはそれほど情を持っているわけではない。この世の靴は魔物の皮を使って作られた物で長距離を歩いても疲れにくいのだ。レイラにも同じ靴を購入してある。
「ほう~これは悪くないものだな」
足元からひんやりとした冷たい水の感触が伝わってきて、波というものがこちらの足元へ押し寄せては引いていく。目の前には大きな水たまりがどこまでも続き、これまで見たことのない幻想的な光景が広がっていた。
京の都にずっといては見ることができなかった景色だ。これまでの道中にも大平原が広がっていたり、巨大な山脈が広がっていたりとこの世は本当に広い。そのひとつひとつが我の瞳を通して我の心へと刻まれていく。この世を旅するというのはとても面白いものであるな。
「おめでとうございます、こちらで第三級冒険者に昇級となります」
「うむ、かたじけない」
海へ寄ってから宿を取り、その足でオガルノの街の冒険者ギルドへとやってきた。
マーチル殿から預かった文を受付に渡し、セイが倒したワイバーンをギルドの解体所へと預けてからギルドへ戻ってきた。その後ギルド証を返してもらうと、これまでと同様にギルド証に書かれていた文字が変わっていた。これで第三級へとなったようだ。
冒険者ギルドに貼ってある依頼書のほとんどは第三級であれば受けることができる。第二級以上の依頼というのはどれも滅多に出ないらしく、この前の緊急依頼というのはそれと同じくらい珍しい依頼のようだ。
「ふむ。海に面している街といえど、依頼は普通の討伐依頼などが多いようであるな」
「お魚さんは専門の人がいるみたいだね」
レイラの言う通り、海には海専門の漁師や魔物を狩る者がいるようだ。水の中でも泳げて呼吸のできるゲンがいるので、海にいる魔物討伐の依頼を受けてもよいかとも思ったが、ここにある依頼は陸の魔物の討伐依頼ばかりである。
ここはこの地の流儀に合わせていつも通り森や草原などで魔物を狩るとしよう。
「依頼を受けるのは明日からにする。しばらくはこの街でのんびりと過ごすとしよう」
『うん、楽しみだよ!』
まずは最初の目的地のオガルノの街へやってくることができた。しばらくはこの街でのんびりと過ごす。
ここまでの道中に寄ってきた街でも海以外の様々な土地の情報を得てきた。この地を存分に楽しんでから次の街を目指すとしよう。
「ほう、これはまた肉とは異なるが美味であるな!」
「とってもおいしいお魚さんだね!」
『おいらこんなおいしい魚を食べたのは初めてだよ!』
今日泊まる宿は晩ご飯も有料で出してくれる宿であったため、この地の名物である魚料理を頼んだ。
京の都で川魚を食べたことはあるが種類も少なく、海や湖のものは干物や乾物ばかりであったが、今机に並んでいる魚は初めてで、塩焼き以外にも味を付けて煮たものや貝の身の入ったスープなど様々であった。
この世でこれまで食べてきた肉料理も美味であったが、この魚や貝料理などはそれとは異なる味で美味である。本当にこの世は美味なるものに溢れておるな。スー以外の式神たちにもこの味はぜひ味わってもらいたいことであるし、明日はこの街をいろいろと巡ってみるとしよう。




