第39話 おっさん陰陽師、市場を楽しむ
「うわあ~人がいっぱいいるよ!」
『お店もいっぱいあるね!』
「うむ、これは見事であるな」
翌日、宿を出て市場へとやってきた。他の街の市場も見てきたが、この街の市場はそれよりもずっと大きい。
どうやら海での漁は早朝に行われるらしく、朝一番に獲られた魚がずらりと並んでいた。魚だけでなく色とりどりの貝、沢ガニとは比べ物にならないほど大きなカニやエビ見たこともない魔物などもいる。
初めて見る海に生きる生物ばかりでレイラとスーもいつも以上に興奮しているし、我もこれまで以上に興奮している。
「おじちゃん、こっちの変なのも食べられるらしいよ!」
『ご主人、あのおっきな魚も食べてみようよ!』
「2人とも落ち着くがよい。まずは店をある程度回ってから欲しい物を腹ごしらえをしよう。焦る必要はないぞ」
そう言いながら我もだいぶ興奮しているようだ。これまで以上に大きな市場で見たこともない食材ばかりだし、楽しみである。
「ほう、この魚の香草焼きとやらは美味であるぞ」
「こっちの貝さんもすっごくおいしいよ!」
『すり身のお団子がたっぷり入ったこのスープもうまいよ~』
市場で食材を見てきたあとは先に屋台でなにか食べようという話となり、市場の奥の方にある屋台街へとやってきた。
どの料理にも目移りしてしまうが、各々で好きな料理を選んで購入し、それぞれを分けて食べている。もちろんスー以外の式神の分もたくさん購入してマジックバッグへ入れておいた。
『一番大きな屋台で売っていたあの銀色の魚もおいしそうだったよ!』
「うむ。あれは市場の方で売っていないか見てみるとしよう。大きな魚の方が食いでがありそうだし、他にも他の街では見たことのない食材が山ほどあった。しばらくは楽しませてもらえそうであるな」
屋台には見慣れぬ食材や料理が山ほどある。ようやく大きなワイバーンを冒険者ギルドに渡して解体してもらっているというのに、またマジックバッグがパンパンになりそうだ。しばらくはこの街に滞在して楽しませてもらうとしよう。
「ビャクちゃん、ゲンちゃん、焼けたみたいだよ」
そう言いながらレイラはスーのおこした焚き火の周りに差してあった魚の焼き加減を見てそれを2人に渡す。
『ほう、この魚はとても美味ですね!』
『こっちのスープもとってもおいしいわ! 本当にこっちの世にはおいしい物がいっぱいあるわね!』
「やはりあの海というものはすごいな。森よりも食材となる生物が山ほど住んでいるぞ」
市場で様々な海産物を購入し、冒険者ギルドへ寄って依頼を受けてきた。
この街の近くにある森へ入る前に丘の上でビャクとゲンに購入してきた料理を振る舞っているところだ。屋台で購入してきた料理の他に市場で購入してきた魚をレイラが焼いてくれている。
丘の上で青い海を見下ろしつつ、皆で食べるのも良いものだ。これから森へ入るので、五行力を温存するために四神すべてを同時に顕現させることはしない。セイには悪いが順番だ。
『ご主人、こっちのお魚もおいしいよ!』
「……スーは先ほどたくさん食べたであろうに」
レイラが次々に焼いていく魚をスーがくちばしで摘まむ。
先ほど屋台街で山ほど食べたばかりであるのにな。とはいえ、目の前で焼き、少し焦げた香りのする魚に塩を振りかけていくのを見るとよりおいしそうに感じてしまう。焦げ目のついた皮の下から白く脂ののった身を見ると口の中に涎が溢れてくる。
「……我も小さいものをひとつもらえるか?」
「うん。こっちがちょうどいいと思うよ。あっちの大きいのはセイちゃん用なんだあ」
「すまぬな。セイもきっと喜ぶであろう」
レイラから小さめの焼けた魚を口元へと運ぶ。歯を入れると皮がパリッと割れ、内側から香ばしい香りが立ちのぼった。白くほぐれた身は驚くほどやわらかく、じゅわりと脂が口の中へ広がっていく。ほんのりと甘みのある魚の身と塩味が絶妙に重なり、噛むたびに旨みが深く染み出してくる。
魚自体は市場の者が捌いてくれたのだが、この魚を焼き上げたのはレイラだ。レイラと旅を始めてからしばらく時は経つが、随分と料理の腕も上がったものである。陰陽術の修行も熱心に行っていることだし、童の飲みこみは早いものだ。




