第35話 おっさん陰陽師、迎え撃つ
陰陽術は自らの五行力を練って術を発動させるが、その力の大半は周囲から取り入れている。そのため陰陽術を際限なく使用することはできぬ。
休息を取り、少しずつ周囲から五行力を蓄える。それを霊符に込めて使用したり、式神を顕現させることに使うわけだ。
「そうなんだあ。陰陽術って魔法と少し似ているね」
「うむ。だが、魔法の場合は霊符や式神などの媒介を通すことなく使うことができるらしい。その分魔力というものを使えば疲労していき、威力は陰陽術に劣るといった印象であるな」
レイラの言う通り、陰陽術と魔法には少し似通った部分もある。しかし、冒険者ギルドで魔力とやらを測定した時は我もレイラも魔力とやらはなかったようだし、実際には異なる力なのであろう。
マーチル殿は風魔法というものを使用していたし、呪詛師の者は闇魔法とやらを使用していた。この世の魔法とやらには陰陽術とは異なる属性というものがあり、やはり陰陽術とは根本的に違うのであろう。
いずれはこの世の魔法というものについて詳しく調べたり、レイラ以外の者も陰陽術を使用できるのか確認したいところであるな。
「さて、このまま霊符の使い方を学んでいくとともに、今度は形代の使い方も教えていくとしよう。形代は自らや他者の感覚を移すことが必要になるため、霊符よりも扱い方が難しいゆえ、心して学ぶとよい」
「うん!」
レイラが大きな返事をする。新しいことができるようになっていく感覚はとても楽しいものだ。楽しみながら学んでいくことは大事である。
今は宿の中ゆえ、部屋の中でもできる水や風や金の要素の霊符を教え、野営をする際には火や土の要素の霊符を教えていく。すべての要素を学んでいくことで、他の要素との関連性を学び、自身の得意なことをより理解することができる。
焦らずに少しずつ陰陽術を教えていくとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「この辺りがマーチル殿の言っていたワイバーンの巣がある場所か。ビャク、ご苦労であったな」
『承知しました、我が主。またいつでもお呼びください』
目的地へ到着し、ビャクを還す。
サイオルの街を出発してから2日目の昼、草原を抜けて大きな崖が見える場所までやってきた。マーチル殿から聞いた情報によると、この高い崖の上にワイバーンが巣を作っているらしい。
「確かにここは街道から近きゆえ、人が襲われる可能性は高いな」
「お空から丸見えだもんね……」
『空からいきなり襲われたら怖いよね……』
街道は視界の開けた草原にあり、空を飛ぶ魔物からは丸見えだ。レイラとスーの言う通り、ここで突然空から襲撃されれば撃退は難しいだろう。
「ここでワイバーンが戻ってくるのをあえて待つとしよう。明日になっても見つけられぬようなら、こちらから巣を探してみるか」
ワイバーンは日の出ている間に狩りをしている。何度か巣を往復するため、ここで待って巣のある程度の位置を確認する。形代を使って捜索するにしてもこの谷はあまりに広く入り組んでいるため、おおまかな位置だけは把握したい。
むしろ向こうから襲って来てくれた方がありがたい。妖の中には空を飛ぶものも多いため、こちらにはそちらを迎撃する術もある。
あえて我らがエサとなってワイバーンをおびき寄せる。そのため、野営の道具とは別にこの草原でも目立つ朱色の板を持ってきてある。日中はここでレイラの修行をしつつ待つとしよう。
『ご主人、なにかがすごい速さでこっちに飛んでくるよ!』
「むっ、来たか」
数刻ほどレイラの修行をしていると、スーの声が上がる。スーは目が良いため、周囲の見張りをしてもらっていた。
スーが指す方向を見ると、急速でこちらに接近する物体が見える。あれがワイバーンなのかは速くて目で捉えられぬが、空から我らを襲おうとしていることは間違いない。
「令!」
霊符による結界を発動させる。夜に野営する時などに使っている結界は長時間発動することが可能であるが、それほどまで強い強度はない。そのため、念のために常時発動している結界のさらに内側にもうひとつの結界を設置しておいた。
発動時間は短いが、こちらの結界の方が数倍は強固である。ワイバーンとやらは冒険者で言うところ第三級相当の魔物であると聞いているので、念には念を入れた。
巨大な影がこちらへ向かって一直線に突っ込んでくる。どうやら狙いは隣に置いておいた赤い板ではなく我の方であるようだ。この純白の狩衣を狙っているのか、人型である我を認識しているのかはわからぬが好都合である。
ガンッ。
「ギィィィ!」
大きな衝突音が周囲に鳴り響き、空気が揺れる。巨大な緑色の物体はそのままの勢いで結界に衝突し、弾かれて地に落ちた。
「……ふむ、一層目の結界を破るまではいかなかったようだが、ヒビは入っているな。確かにこれまでの魔物とはいささか異なるようだ」




