第34話 おっさん陰陽師、依頼を受ける
第三級冒険者といえば冒険者の中でも一流だと言っていた。今回の緊急依頼とやらはそれ以上の依頼であったらしいが、戦闘の実力というよりも呪詛を解く能力が必要であったから、これまでの実績では足りぬのだろう。
冒険者の級位を上げたいかと聞かれればそこまでではないのだが、今回の件のように級位が足りないと信頼されないこともある。可能なら上げるくらいの考えでよいだろう。
「ヤコウさんはオガルノの街を目指すと言っていたね」
「うむ、その通りだ」
『海ってやつを見に行くんだよね!』
大きな水たまりである海。それの隣にあるオガルノの街が次の目的地だ。距離があるゆえ、まだいくつかの村や街を通る予定だがな。
「実はこの街からオガルノの街の途中のとある場所でワイバーンが住み着いてしまったんだ」
「ほう、ワイバーンか」
「昨日食べたとってもおいしい魔物だよね!」
まだこの世の魔物をそれほど知らぬ我であったが、その魔物の名はちょうど昨夜聞いたばかりだ。レイラもそれを覚えている。
「なるほど、ちょうど領主様の晩餐にでも出てきたのかい。ワイバーンは美味な食材でもあるけれど、凶暴な魔物でもあるんだよ。幸い付近に人が住む村なんかはないんだけれど、その付近を通る旅人や行商人なんかが襲われてしまう可能性があってね。ワイバーンを討伐するにはちょうど第三級相当の実力が必要になるから、ヤコウさんが第三級へ上がるためにピッタリの相手でもあるんだよ」
「ふむ、ワイバーンとやらは人を襲うのか。承知した、その依頼を引き受けよう」
人に仇をなす魔物というのであれば、我にとってその依頼を断る理由はない。
「昨日見たヤコウさんの実力なら問題ないと思うけれど、ワイバーンは空を飛ぶ魔物だから油断はしないように気を付けてね。まあ、私と同い年くらいのヤコウさんなら大丈夫だと思っているけれどね」
「うむ。一層気を引き締めるとしよう」
マーチル殿の言う通り、これほど歳を重ねていれば戦いの中で様々な経験をする。特に妖は獣よりも遥かにずる賢く、油断などしていればすぐに命を落とす。つい昨日も魔道具とやらの存在を見落としていたばかりだし、改めて気を引き締めなければな。
「討伐が完了したらオガルノの街の冒険者ギルドに報告をしてほしい。それと、この手紙を向こうの冒険者ギルドマスターへ渡すといい。なにかあれば便宜を図ってくれとも書いておいたよ」
「承知した。かたじけない」
「なあに、世話になったのはこっちの方だよ。領主様のご子息殿の命を救ってくれて本当に感謝する」
マーチル殿が書いた文を受け取り、改めて握手をする。こちらの方こそマーチル殿にもいろいろと世話になったものだ。またこの街へ訪れる際は挨拶をさせてもらうとしよう。
冒険者ギルドを出たあとは市場で必要な物を購入していく。明日の朝にはこの街を出るため、今日は他の依頼は受けずに過ごすことにした。
ビャクの背に乗っているだけとはいえ移動や野営は疲れるので、身体は休める時に休めておかねばな。思えば京の都にいた時は働き過ぎていたかもしれぬ。午後からは宿でのんびりと過ごしつつ、レイラの陰陽術の修行を行う。休息は必要であるが、修行は毎日続けねば意味がないからな。
昨日は領主殿の屋敷ということと、日中はいろいろとあったおかげでれほど時間が取れなかったので、今日は明日に支障がでないくらいに修行を進めるつもりだ。
「うう~ん……」
「おお、ちゃんとできておるぞ」
「やったあ!」
レイラがかざした霊符の前から水がぽたぽたと滴り落ちてくる。これは水を出すというだけの簡単な霊符ではあるが、我が書いたものではなく、一からレイラが書いたものだ。
『たった4日で自分で作った霊符を発動できるようになるなんて本当にすごいよ、レイラちゃん!』
「本当!? レイラ才能がある?」
「うむ、五行力を練り、霊符を発動させるまでどんなに早くとも普通10日はかかるものだ。レイラは間違いなく陰陽術の才能があるぞ」
「うん!」
スーと我が褒めると、とても嬉しそうに両の拳をぐっと握りしめるレイラ。
これは世辞ではなく、本当にすごいことである。少なくとも我が今まで見てきた中でこれだけ才能のある者はいなかった。この世の者すべてに陰陽術の才能があるのか、レイラが特別なのかはわからぬが、実にすばらしいことである。
「でも何もないところから水や火が出てくるのは不思議だね?」
「我らの目には捉えられぬが、周囲には自然の力が満ち溢れている。我ら陰陽師はその力を取り入れ、借りているだけにすぎぬ」




