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メタモルファルは寄り添う  作者: 甲斐 雫
第6章 メタモルファルは愛とともに

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87 余計な女たちと死体

 後から付いていく、と言うのは真っ赤なウソだったようだ。

『ナイト・ジャングル』の入り口で声を掛けてきた2人の女たちは、完全に三吾達4人の中に入り込んできた。

 女性が1人に男性が3人、という組み合わせはベストではないが悪くはない構成だと思ったのだろう。赤毛の内気そうなフェルは無視して、ネリは三吾に、ハロアはマークに狙いをつけたようだった。


「キャァ、足元に何かいるわ!」

 ネリは三吾の腕にしがみついて声を上げる。

「大声を出すと、動物が驚きますから控えてください」

 振りほどくほど非道にはなれないが、三吾はあからさまに不機嫌そうな声で返した。

「あっ!ごめんなさいっ!」

 何かに躓いた素振りで、ハロアがマークの腕に縋りつく。

「気を付けてくださいね」

 一応優しく答えたマークだが、実は彼、女性には全く興味がない。


 自分たちの大切な相手が、女たちのターゲットになっているわけだが、エルオリーセとフェルの方は、『ナイト・ジャングル』の動物たちに夢中で全く気付いていなかった。

「ん?・・・ああ、あれはビーンズディア。夜行性の小型の鹿ですね。あそこが餌場になってるのね」

 フェルが軽くエルオリーセをつついて指し示した方角には、微かに明るくなった木の根元に群がる小動物の群れがいた。

 他にもウサギの仲間や、カワウソなども意外に近いところで自然な姿を見せてくれる。

「あ!あそこにケシャールがいます」

 薄明るい小道の先に、小さな広場がありそこに数羽の鳥が待っているかのように枝にとまっている。

「夜行性の鳥です。翼を広げると羽が月明りで光るので、最も美しい夜の鳥って言われるんです」


 エルオリーセとフェルは、三吾たちを置き去りにして小走りで先に進んだ。

 ピロロロロ・・・ピロロロロ・・・

 唇を尖らせて鳴きまねをするエルオリーセに、ケシャールたちは翼を広げた。

 そして、彼女が伸ばした手に1羽が舞い降りてくる。


(うわ・・・なんて・・・綺麗なんだ)

 フェルはその場に立ち尽くして、すらりとした彼女と夜の鳥に目を奪われる。

(最も美しい夜の・・・女神と鳥・・・)

 人ではないと思えるほどの神々しさと美しさ。

(これを・・・この光景を、とどめたい。いつか、きっと・・・)

 どれほど時間がかかっても、やり遂げたい。

 フェルの彫刻師としての魂が、震え上がった瞬間だった。



 6人になってしまった一行は、それでも漸く出口近くまでやってきた。

 それまでの間、女2人はあの手この手で何とか三吾とマークの気を引くように、身体を押し付けては甘い言葉を囁き続けたが、一向に成果は上がっていなかった。

 そんな彼らの前に、突然横道から1人の女性が飛び出して来た。

「すみませんっ!助けていただけませんか?お客様だっていうのは解っていますが、緊急なので」

 それは、『ナイト・ジャングル』のスタッフの制服を着た若い女性だった。


「この先に、休憩所があるんですが、その中から助けを求める声が聞こえてきて。私1人で中に入るのは危険だと思って、他のスタッフを呼びに行くところだったんです」

 6人も人が来れば、それだけで何とかなるかもしれないという判断なのだろう。

「この休憩所は、出口近いこともあって利用される方は殆どいないので、今日のように空いている日は灯りも点けていません」

 女性スタッフは、息を切らしながら走って彼らを案内する。

 狭い横道に入って少し行くと、月明りにぼんやりと見えたのは、丸太づくりの小さな小屋のような休憩所だった。


「私が中に入りますので、どなたかドアのところにいてもらえませんか?」

 女性スタッフの言葉に、エルオリーセが進み出た。彼女なら人よりも夜目が利く。中が真っ暗でも、様子は解るだろう。けれど何かあったら大変だと、三吾も一緒にいることにする。

 それ以外の4人、マーク・フェル・ネリ・ハロアは建物から少し離れた場所で待機した。


 足音と気配を消して、女性スタッフはドアに近づきそうっと開ける。

 中は窓にも分厚いカーテンが引かれているようで、月明りも入らず真っ暗だ。人のいる気配もなく、不審者が潜んでいる様子も無い。

「こっちに灯りがあるはず・・・」

 女性スタッフは中に入り、部屋の右側に向かって安心したようにスタスタと歩く。

(・・・あれ?この臭い)

 けれどエルオリーセは、異変に気付いて1歩中に入った。


 その時、辺りがポウッと明るくなった。手早くランプに灯りをともしたスタッフが振り返る。

「・・・キャァァッ!」

 女性スタッフと中に入ったエルオリーセの間に、男が俯せに倒れていた。絶命していることは明らかだった。


 悲鳴を聞いたマークたちが駆け付け、すぐに他のスタッフや責任者、そしてワイアの警備を担当する衛兵が呼ばれた。

 エルオリーセはずっと女性スタッフの傍にいたが、殺人事件だと判断した衛兵の隊長に気付くと、近づいて耳打ちする。頷いた隊長は、『ナイト・ジャングル』の客である6人にざっと話を聞くと、あっさりと開放してくれた。


 ゲートまで6人で戻ってきたが、ネリとハロアはそこで別れを告げる気はないようで、再びお誘いを切り出した。

「なんか凄い場面に出会っちゃったわね。気分直しに、飲みに行かない?」

「そうよぉ、こんな気分で帰れないわ。みんな一緒にどう?男性3人に女性3人なら、ちょうどいいでしょ?誰も余らないわ」

 2人掛かりで、とりあえず全員揃って酒場に繰り出そうとしなだれかかってくる。

 三吾とマークは、もういい加減にしてくれと叫びたい気分だった。

 ダブルデートになるはずだったこの時間を、返してくれと言いたい。

 少々言い方がきつくなっても、ここはきっぱりと断らなければ、と三吾たちが口を開きかけた時、エルオリーセが先に告げた。

「いいえ、余りが出来ちゃいますよ」

 彼女の傍らには、黒白の大型犬が堂々と立っていた。


 三吾はニヤリと笑った。

「ああ、そうだね。アルバもいるから、確かに余るな。長い時間待たせたのに、これ以上寂しい思いはさせたくない。そういうことなので、失礼するよ」

「・・・・はぁ?」

 呆気にとられた女2人をその場に残し、4人はさっさと『ナイト・ジャングル』を後にしたのだった。


 ホテルに戻った4人は、これでは気分が晴れないということで、少しばかり飲んで話そうということになった。庭の芝生の上に設えてあるテーブル席に付くと、真っ先にマークがぼやいた。

「やれやれ、こんな事なら最初にきっぱりと断るべきだった」

 しつこくアプローチしてきた、あの女たちのことだ。

「ああ、それに最後は殺人事件の現場も見てしまったしな」

 三吾はよく冷えたビールを流し込みながら、相槌を打つ。

 けれどエルオリーセとフェルは、自分たちに実害がなかったせいか、かなり満足そうな顔つきだ。


「まぁ、結構早く帰してもらえたのは助かったが・・・そういえば、あの時、衛兵の隊長に何か言っていたね、エルオリーセさん」

 マークはトロピカルカクテルを美味しそうに味わう彼女に問いかけた。

「え?・・・ええ、ちょっと気づいた事があったので」

 男性たちは揃って彼女の方をまじまじと見つめた。こうなったら、話すしかない。エルオリーセはカクテルグラスを置くと、説明を始めた。


「休憩所の中は真っ暗でしたけど、異臭がしたんです。それでハッとして、あの女性スタッフさんの気配に注意してたら、真っ直ぐにスタスタ歩く足音が聞こえました」

 実際は、あの暗がりでもメタモルファルの視覚なら、ある程度の様子は見えていた。けれど三吾以外に、自分の正体を明かすわけにはいかないので足音についてだけ話す。

「その後灯りがついて、俯せになっている遺体があったんですが、その位置は私と彼女の間だったんです。つまり、あの女性スタッフは、ドアを入って灯りがあるところまで、遺体に躓きもせずに歩いたんです」

 実際にエルオリーセは見ていた。彼女が遺体をひょいと跨いで歩いてゆくところを。

「それって、そこに遺体があることを知っていたからですよね。助けを求める声を聴いたけど、中には入っていないと彼女は言っていましたから、おかしいと思ったんです」


 あの女性スタッフが犯人なら、辻褄は合う。

 彼女は男性を休憩所の中で殺害し、現場から逃げる途中でばったりと客のグループに出会ってしまった。咄嗟に悲鳴が聞こえたと言って、一緒に現場に戻り、そこで初めて遺体を発見したようにすれば良いと考えた。けれどそこで、彼女はミスを犯してしまう。

 遺体を暗闇の中で跨ぐという。


「隊長さんには、それを伝えておきました。多分すぐに、彼女を取り調べることにしたんでしょう」

 きっと今頃は、事件はほぼ解決しているのではないかと思う。

 エルオリーセは、穏やかな笑みとともにトロピカルカクテルを飲み干した。


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